2017.6.30
「水素エネルギー」が切り開く未来の社会
エネルキーワード 第10回「水素エネルギー」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第10回は「水素エネルギー」。省エネかつ環境に優しい…さまざまな分野で耳にする水素エネルギーの無限の可能性に迫ります。
INDEX
水素とは?
「水素」というと皆さんはどんなイメージを抱かれるでしょうか?
水(H2O)?爆発するから危険?水素水なら知ってるけど…?実際に「水素」を目で見たことがない人がほとんどでしょうから、イメージはつかみにくいかもしれません。ですが、今その「水素」が注目を集めています。なぜでしょう?
それは「水素」が無限なエネルギーだからです。
そもそも宇宙の物質の7割以上を占めているといわれていますし、地球上では炭素と結合して石炭や石油(化石燃料)の形で、また、酸素と結合して水の形で存在しています。特に水は自然界で循環していますから、これを太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使い、水素と酸素に電気分解すれば、理論上無限に水素を取り出すことができます。
これってすごいことだと思いませんか?化石燃料のように高いコストを払って輸入しなくてもいいことになり、エネルギー安全保障上も安心です。
水素というエネルギー
さてその水素、最近では水素からエネルギーを取り出して、モーターを回したり、電源や熱源として利用できることが再評価され、その可能性が注目されています。
よく耳にするのは「燃料電池[英:Fuel Cell(フュエル・セル)]」でしょう。「燃料電池」とは、水素と酸素を化学反応させ、電気と熱を作る機械のことです。よく知られているのは自動車への利用です。「燃料電池車 (FCV : Fuel Cell Vehicle)」(写真1、2)はガソリンエンジン車に代わる未来のクリーンカーとして、1980年代から期待されています。
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(写真1)燃料電池車 トヨタMIRAI
Photo by Turbo-myu-z
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(写真2)燃料電池車 ホンダ FCX クラリティ
Photo by Hydrogen99
燃料電池車のシステム(図1)は以下の図に詳しいですが、搭載したスタックと呼ばれる燃料電池で発電し電動機(モーター)を回して走行します。
走行時にCO2やNOx, SOxなどの大気汚染物質を排出しない画期的な車なのです。FCVはガソリン自動車よりもエネルギー効率が高く、走行時にはCO2を排出しない。 また電気自動車(EV)と同様に発電した電力を外部に供給することも可能です。水素タンクを持っているのでEVに比べて5倍以上の供給能力があり、災害等の非常時における避難所への電力供給などの活用も期待されています。2014年に日本が世界に先駆けて市販しています。
私は1990年代から米GMなどが先行していたスタックの取材を続けていますが、当時は畳半畳分、高さは40~50センチはあろうかという代物で、こんな巨大なものを積んだら居住空間の確保どころか、車そのものが巨大なものになってしまうだろう、と懸念したのを覚えています。その後急速にスタックは小型化し、隔世の感がありますが、コストはまだまだ高く商業化には後数年はかかるでしょう。
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(図1)燃料電池システム(TFCS):トヨタMIRAI
【動作原理】
STEP 1. 空気を吸い込む
STEP 2. 酸素と水素を燃料電池へ送る
STEP 3. 化学反応で電気と水を発生
STEP 4. 電気をモーターに送る
STEP 5. モーターを回して走る
STEP 6. 水を車外へ排出
A.モーター B. 燃料電池(発電装置) C. バッテリー(2次電池) D. 高圧水素タンク
家庭用燃料電池
また、「定置式燃料電池」と呼ばれる住宅用のエネルギー設備ですが、こちらはすでに実用化されています。家庭用燃料電池「エネファーム」がそれで、「エネルギー」と「ファーム(Farm)」を足した造語です。(図2)
2016年1月時点で約15万台が普及しています。都市ガスやプロパンガスから取り出した水素と空気中の酸素で発電し、その際に発生する熱でお湯を作ることが出来ます。
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(図2)エネファームとシステム構成
「エネファーム」の環境性は優れたもので、発電所で発電し、送電するシステムだと一次エネルギー利用効率は35~40%に過ぎませんが、「エネファーム」は自宅で発電しますからロスが少なく、同効率は70~90%にも及ぶと言われています。(※注1)
それだけではありません。CO2排出量も大幅に減りますし、生活スタイルを学習して発電時間を調整することで省エネに貢献します。太陽光発電などと組み合わせればさらに効率良いエコライフが実現します。
水素社会
こうした中、政府は水素エネルギーを活用し、省エネでかつ環境に優しい社会の構築を目指し、「水素社会」の実現を目指しています。(図3、4)
具体的には、
フェーズ1
1.エネファームの自立的普及(2020年ごろ)
2.燃料電池車の普及
2020年までに4万台、25年20万台、30年80万台程度の普及を目指す
3.水素ステーション
2020年までに160カ所、25年320カ所程度。20年度後半に自立化目指す
フェーズ2
水素発電本格導入
フェーズ3
CO2フリー水素供給システムの確立(2040年ごろ)
と段階を踏んで進めることになっています。
特にフェーズ3が重要です。なぜなら、水素エネルギーを水素から生産するとき、現状、化石燃料を使用してエネルギーが作り出されるのに比べ、費用が高くなってしまうからです。化石燃料から水素を作ると、間接的に水素エネルギーを得るのにCO2が発生します。これを将来的になくそうというのです。
また、水素を作るために必要な資源が高騰すると、水素自体の価格も上がってしまいます。また、水素を安定的かつ大量に保管・流通するインフラの構築も大きな課題です。
大きな可能性を秘めた「水素エネルギー」とそのエネルギーを利活用する「水素社会」ですが、普及・実現にはまだ20年近くはかかりそうです。とはいえ、エネルギー資源がほとんどないわが国にとって、「水素エネルギー」の研究開発を加速させることは極めて重要だと思われます。
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(図3)水素社会のイメージ
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(図4)水素社会実現に向けた対応の方向性
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