2017.8.25
エネルギー消費ゼロの家が現実に?「HEMS」とは
エネルキーワード 第14回「HEMS」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第14回は「HEMS」。家電製品や給湯機器をネットワーク化し、表示機能と制御機能を持つシステム「HEMS」の今後の流れ、普及への問題・課題などをまとめてもらいました。
INDEX
HEMSって何?
HEMS(Home Energy Management System)とは、家電製品や給湯機器をネットワーク化し、表示機能と制御機能を持つシステムのことです(図1)。
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(図1)HEMSの例
表示機能とは、家の中の家電製品・給湯機器それぞれのエネルギー消費量などをパソコン、テレビ、スマホ、タブレットなどの「画面」に表示するものです。いわゆるデータの「見える化」です。
制御機能とは、遠隔地から機器のスイッチを入れたり、温度や時間を設定したりするものです。近未来的に聞こえるかもしれませんが、もはや現実の技術。HEMSは、家庭の省エネを促進する新しいツールとして期待されているのです。
HEMSができること
HEMSを使って消費エネルギーを「見える化」すると、節電を効果的に行ったり、電気料金のシミュレーションが簡単にできたりします。その結果、節電ができるとともに、CO2の削減につながります。
また、制御機能を使うと、時間や状況など、細かい条件で機器を動かすことができます。
例えば、設定した帰宅時間に合わせて、換気扇とエアコンを連携させ、室内にこもった熱気を強制的に排気して、室温が下がった状態から冷房運転をスタートさせて、節電しながら部屋を涼しくしておくことができます。また、消し忘れた機器を外出先からオフにすることもできます。
HEMS普及の問題
しかし、HEMSの普及にはいくつか課題があります。まず、通信規格。HEMSのコントローラが家電機器や住宅設備等と相互に通信をするためには、共通の通信規格が必要になり、それがECHONET Lite(エコーネットライト)規格というものです。
つまり、ECHONET Lite対応の製品でないとHEMSは使えません。今家で使っている家電機器等がそのままHEMSのシステム内に導入できるとは限らないのです。
ちなみに、お使いの製品がECHONET Lite対応の製品かどうかは、ECHONETのHPで確認ができます。今後は、ECHONET Lite採用のHEMSコントローラ・HEMS対応機器が増えていくとみられています。
もう一点は、コストの問題です。(図2)は、HEMSを導入する際の基本的なフロー(流れ)です。
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(図2)HEMSの基本設置・設定フロー
お分かりの通り、2回の取り付け工事を経た上で、通信設定を行う必要があります。取り付け工事のコスト、HEMSと機器購入のコストなどの初期費用が運用後どのくらいでペイできるかが問題です。
実際にHEMSを利用しているユーザーの中でも、投入するコストに見合ったメリットを享受できていると感じている人はそう多くはないようです(図3)。
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(図3)HEMS導入(利用)によるコストメリット(ユーザーアンケート)
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※NTTスマイルエナジー社のHEMSユーザー500世帯(設置時期:2011年11月~2012年12月)を対象にアンケートを実施。 2/19時点で有効回答者数237世帯(3・4人世帯:60%、戸建住宅:83%)(調査期間:1/24~2/28)
こうした状況の下、福岡市は、HEMSの導入に際し補助金の交付事業を行っています(福岡市HP)。福岡市ではHEMS単体設置の場合、機器費の3分の1(上限4万円)の補助が受けられるようです。他の自治体にも、HEMS導入促進のために補助金の制度があるところがあります。
今後の流れと課題
そもそも2012年当時、民主党政権の下で、国家戦略室がグリーン政策というものを作りました。2011年に起きた福島第一原発事故を受け「原発に依存しない社会の一日も早い実現」に向けて、「グリーンエネルギー革命」を推進することにしたのです。
この考えは自民党政権になってからも踏襲され、政府は「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(Net Zero Energy House:ZEH 読み:ゼッチ)」の普及促進を進めています。
ZEHとは、住宅の高断熱化と高効率設備により、快適な室内環境と省エネルギーを同時に実現するとともに、太陽光発電などによってエネルギーをつくり、「年間に消費する正味(ネット)のエネルギー量が概(おおむ)ねゼロ以下となる住宅」のことです(図4)。
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(図4)ZEH
経済産業省は、2016年4月18日に決定した「エネルギー革新戦略」で、「2020年までに、ハウスメーカー、工務店等の建築する注文戸建住宅の過半数でZEHを実現すること」を目指しています。このため、国は補助金を出して(一戸当たり75万円)ZEH普及を後押ししています。HEMSはその鍵となる技術なのですが、まだまだ普及しているとは言えない状況です。
なぜなら、HEMSはZEHを実現するための一つの要素技術であり、他にも家庭の電力消費量を自動で検針できるネットにつながったスマートメーターなどの普及も必要なのです。つまりさまざまな技術、規格などが普及・整備されないと爆発的には伸びないということなのです。
また、一戸建てはZEH化が比較的容易ですが、既存のマンションなどは改修が簡単ではありません。一方で、AI(人口知能)やIoT(すべての機器がインターネットにつながること)などが想像以上の速さで進化しています。そうした技術がHEMSやZEHのコストを下げ、普及に一役買う可能性が出てきました。
エネルギー消費ゼロ社会の実現は単なる夢物語ではなさそうです。
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