2017.9.8
「グリーン物流」はCO2削減の切り札となるか?
エネルキーワード 第15回「グリーン物流」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第15回は「グリーン物流」。“環境に優しい物流”を意味する「グリーン物流」、CO2排出を減らすための具体的な3つの施策から見ていきましょう。
INDEX
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TOP写真:矢崎総業環境調和型物流センター
物流とは、「輸送」「保管」「包装」の3つの機能から成っています。つまり、モノを運ぶこと、モノを保管すること、モノを包装(保護)すること全てをひっくるめて「物流」と呼んでいるのです。その「物流」の前に「グリーン」をつけた「グリーン物流」とは、「環境に優しい物流」を意味します。
下の(図1)は、部門別のニ酸化炭素(CO2)排出量の推移です。運輸部門のCO2排出量は現在、全体の17%を占めています。1990年代後半から増加を続け、現在はやや減少しています。
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(図1)2015 年度(平成27年度)部門別温室効果ガス排出量 (確報値)
この背景の一つに、宅配便の増加が挙げられます。(図2)のように宅配便の個数は増加を続け、かつそれらの配達はほぼトラックで賄っています。
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(図2)宅配便取扱個数の推移
こうした背景から、運輸部門におけるCO2の排出を削減するために、「グリーン物流」という考え方が生まれました。国土交通省は、経済産業省、一般社団法人日本物流団体連合会、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会、一般社団法人日本経済団体連合会と連携し、平成17年4月に「グリーン物流パートナーシップ会議」を設立し、「グリーン物流」
さて各運輸事業者は、どのようにしてCO2の排出を削減していくのでしょうか。グリーン物流の具体的な施策を見ていきましょう。
1.モーダルシフト
モーダルシフトとは、トラックに比べてCO2排出量が少ない輸送手段である、船舶や鉄道に輸送手段を変更することです(図3)。
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(図3)輸送量当たりの二酸化炭素の排出量
例えば、平成28年度、味の素株式会社 ・株式会社Mizkan ・カゴメ株式会社 ・日清オイリオグループ株式会社 ・ハウス食品グループ本社株式会社・日清フーズ株式会社の6社は、傘下の物流会社らと組み、輸配送の共同化、モーダルシフト、幹線輸送の集約化等の取り組みを行うことで、CO2排出量の削減、作業の効率化、生産性の向上を 実現しました。具体的には、北海道における共同輸配送、31フィートコンテナ(10トントラックと同サイズ)を往復で用いるモーダルシフト等の取り組みにより、CO2排出量を216tも削減することができたのです(図4・図5)。
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(図4)6社の取り組み相関図
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(図5)共同輸配送の例
ほかにもさまざまな取り組みが企業間で行われており、国土交通省がモーダルシフト等推進事業でその普及促進を後押ししています。
2.低公害車化
次は、低公害車化です。最近HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)、CNG(天然ガス)車、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)といったCO2排出量の少ない、もしくは全く排出しない低公害車(エコカー)が普及しています。こういった自動車を用いることによって、CO2の削減ができるのではないか、という考えです。
例えば、日本通運は、EV、天然ガス車、HV、LPガス車等(※注1)エコカーを合計で7393台(自家用車、関係会社車両含む。2015年3月末現在)導入していますが、こうした動きは運送会社の間でますます加速するでしょう。
また、政府も燃料電池バス、電気バス、ハイブリッドバス・トラック、燃料電池タクシー、超小型モビリティ、充電設備などの導入費用の補助を行っています(図6)。
(注1)都市ガス(天然ガス)とLPガスではガスと空気の混合比が違う
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(図6)低公害バスやトラック
3.共同物流
共同物流とは、複数の荷主が同じ倉庫で商品を保管、共同して荷役と商品の配送をすることです。会社が違うとはいえそれぞれが同じAという場所に届けるよりも、同じ倉庫に保管し、一台のトラックが同じ目的地に届ければ効率的ですし、CO2削減につながります。北海道地区や東京スカイツリータウン等もすでに取り組んでいますが、吉祥寺活性化協議会、コラボデリバリー㈱、タイムズ24㈱、㈱アトレ、豊橋創造大学、武蔵野市らが取り組んだ、「吉祥寺商店街における共同集配送」の実例を見てみましょう(図7)。
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(図7)吉祥寺商店街における共同集配送の取り組み
共同集配センターという一つの場所に集約して配送を行ったことにより、路上駐車や荷さばき駐車車両を減らし、アイドリング等で排出していたCO2を32トンから0にすることができました。
こうしたグリーン物流政策は、物流事業者側からのアプローチです。先述した宅配物の個数の大幅な増加に対応するには別な取り組みが必要になってきます。
宅配物の個数増加に寄与しているのは、BtoC ECの拡大です。これは、企業から消費者(Business to Consumer)への電子商取引(EC)のことで、Amazonや楽天、Yahoo!ショッピングなどが代表例として挙げられます。下の図を見ても分かるように、BtoC-ECの市場規模は2016年で15兆円を突破、更に右肩上がりの成長が予測されています(図8)。
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(図8)BtoC-ECの市場規模及びEC化率の経年推移
現在のさまざまな物流事業者側からのアプローチにとどまらず、物流において存在感を強めているAmazonや楽天といったEC事業者側がより意欲的にグリーン物流に取り組むことが不可欠です。
例えば、多様な商品受け取りシステムの構築や時間帯配達方法の見直し、包装の軽量化といった取り組みを物流事業者と連携して加速させることが必要でしょう。同時に、私たち消費者も再配達を減らす努力が求められています。それが私たちの地球環境のためになるのだ、という意識が大切だと思うのです。
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