2017.12.1
オイルサンドは日本の救世主になるのか?
エネルキーワード 第21回「オイルサンド」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第21回は「オイルサンド」。石油成分を10%含む流動性のない砂を指し、埋蔵量はカナダが抜きんでています。実は日本でも約40年にわたり開発・生産に携わっているというこの聞き慣れないエネルギー。その可能性を探ってみました。
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TOP画像:カナダ アルバータ州のオイルサンド採掘現場 2008年
「オイルサンド」といっても、サンドイッチの一種ではありません。極めて粘性の高い、石油(オイル)成分を含む砂岩のことをいうのですが、見たことのある人はほとんどいないでしょうから、知らなくて当然です。
その主な組成は砂83%、水4%、石油成分10%で、在来型の石油が、油田を掘れば自ら噴き出す、極めて流動性の高い液状のものであるのに対して、オイルサンドはなにしろ砂ですから流動性は全くありません(写真1)。そのため石油成分を取り出す作業は極めて難しく、時間とコストがかかるのは想像に難くないですね。
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(写真1)カナダのオイルサンド
オイルサンド大産出国カナダ
このオイルサンド、確認埋蔵量が最大の地域は世界第2位の国土面積を誇るカナダのアルバータ州です(図1)。BP Statistical Review of World Energy 2017によれば、カナダの石油確認埋蔵量は 1,715 億 バレル で、約 94%(約 1,615 億 バレル)をオイルサンドが占めるとされています。
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(図1)カナダのアルバータ州
オイルサンドの生産方法としては、大きく分けて2通りあります。伝統的な露天掘り(写真2)とSAGD法(Steam Assisted Gravity Drainage)があります。
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(写真2)露天掘り採掘法 アルバータ州・カナダ
露天掘りとは、坑道を掘らずに地表から直接地下に掘り進めていく工法です。この工法だと、1バレル(約159リットル)の重質原油を得るのに、数トンの砂岩を採掘しなければなりません(写真3)。そこから超重質油(写真4)を抽出するために、大量の水とエネルギーを消費することになります。また抽出後は大量の廃棄土砂(産業廃棄物)が発生し、汚染対策の費用もかかることが問題となっています。
また露天掘りですくい取ることができるのは、比較的浅い部分にあるオイルサンドだけで、地下100メートル以上の深さにたまっているものは簡単に採掘できないため、SAGD法を採用することになります。
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(写真3)オイルサンド運搬車
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(写真4)超重質油
SAGD 法とは、上下に平行して 2 本の井戸をまず掘り、地下を高温の蒸気(538℃:華氏1,000度)で加熱して、溶け出した油分を地上に取り出す方法です(図2)。
この工法は、井戸 が 2 本必要なため資本投資額が大きくなるので、コストがかかるなどの問題はあるものの、超重質油の回収率が 50〜70%高くなるメリットが挙げられます。
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(図2)オイルサンドの生産方法 SAGD法
環境への影響
カナダは現在、石油確認埋蔵量が世界第3位、生産量では第6位の石油大国です。(参照:BP Statistical Review of World Energy 2016)このカナダの広大な土地で繰り広げられているオイルサンド開発ですが、生産量の拡大に伴い、大気や水資源など、環境への悪影響が問題視されています。
特に大気への影響度を見てみると、オイルを抽出する工程で必要となる大量の熱を、天然ガスの燃焼により賄っているため、温室効果ガスを通常の石油生産と比べて約3倍も多く排出していることになります。
こうした環境への負荷を減らすため、カナダのトルドー首相は今年1月、アルバータ州におけるオイルサンド由来の原油生産を段階的に廃止し、炭化水素への依存をやめなければならないとの意向を示しました。
日本のオイルサンドとの関わり
一方、日本ではJAPEX(石油資源開発株式会社)が昭和53年から約40年にわたり、カナダのオイルサンド開発・生産に携わってきています。
また、JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、2017年4月25日、カナダ・アルバータ州との間で、石油・天然ガスに関する相互協力の覚書を締結しており、特に超重質油についての情報交換等を通じた相互協力を推進し、関係を強化しています。
こうした動きの背景には、日本が石油のほとんどを中東からの輸入に頼っていることが挙げられます(図3)。
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(図3)原油の輸入(2016年度)
化石燃料調達先多様化の観点から、カナダのオイルサンドに注目が集まったわけです。
国際市場でもカナダ産オイルサンドの生産量の増加や市場の拡大が期待されていました。アメリカ市場は、カナダからの輸出先として当然視野に入っていましたが、その後の米シェール革命により、2015年までシェールオイル生産量が増加し、アメリカは石油輸入国から輸出国に変貌を遂げました(図4)。
現時点でオイルサンドに対する期待感は急速にしぼんだ観があります。事実、新規のオイルサンド開発事業への投資は2015年から急速に減少しています(図5)。
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(図4)シェールオイル生産量推移
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(図5)新規のオイルサンド開発事業への投資額推移
これからのエネルギー情勢
一方、2016年版の「世界エネルギー展望」(World Energy Outlook)(WEO2016)は、「2040年に世界の石油生産は現状から7割減」と予測しています。新興国の旺盛な電力需要を考えると、原油市場がいつまたひっ迫するかもしれません。そう考えると、オイルサンド開発に日本として先行投資しておくことは保険をかける意味からも重要だと考えられます。
一方で、現時点で国内の原発のほとんどを停止している日本は、今後のエネルギーミックスをどうしていくのか、という議論を進めていく必要があります。世界のエネルギー情勢が刻一刻と変わっていく中、将来のベースロード電源をどうするのか、私たちも考えねばならないタイミングに来ているのではないでしょうか。
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