2017.12.29
“マイクログリッド”官民協力で世界展開を
エネルキーワード 第23回「マイクログリッド」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第23回は「マイクログリッド」。小規模な発電施設と電力を必要とする需要家を供給網でつなぎ、狭い地域の中で電力需要を賄う“小さな送電網”のことです。そのメリットやデメリット、今後の課題は何か、考えてみました。
INDEX
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TOP画像:沖縄県宮古島のメガソーラー実証研究設備
マイクログリッドとは
マイクログリッド“micro-grid”とは、その名のとおり“小さな送電網”のことで、小規模なエネルギーネットワークのことをいいます。既存の電力会社が擁する大規模発電所ではなく、小規模な発電施設と電力を必要とする需要家を供給網でつなぎ、狭い地域の中で電力需要を賄う仕組みです。
その小さなコミュニティーの中でエネルギー供給源となるのは、分散型電源である太陽光発電、風力発電、バイオマス発電などの“再生可能エネルギー”です。エネルギーの作られ方や使い方に焦点を当て、自然に優しい方法で電気を作り、より効率よく分配しようというシステムが今世界で注目され始めています。
今、私たちの一般家庭にどのように電気が届けられているかご存じでしょうか。
(図1)をご覧ください。まず、火力発電所や原子力発電所などの大規模発電所で作られた電気は、効率よく電気を需要地まで送るため、27.5万~50万ボルトの超高電圧に昇圧して送り出されています。その電気は複数の変電所を経由して、鉄道会社や工場など大量に電気を必要とする需要家や、企業のオフィス、私たちの一般家庭など、それぞれの規模や用途に応じた電圧に降圧して届けられています。
電力を大量に生み出し、常に供給できるという面で大規模発電所は有利です。その一方で、発電所と需要家までの距離が長いため電力ロスが大きいことが指摘されています。
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(図1)電気が家庭に届くまで
しかし、マイクログリッドは、電力供給元から需要家までの距離が近いため、電力ロスは低く抑えられます。また、再生可能エネルギーを使うため、環境への負荷も少ないことがメリットとして挙げられます(図2、3)。
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(図2)マイクログリッドの概念
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(図3)マイクログリッド導入の意義
一方でデメリットとしては、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、天候や気候、地形などの影響を受けやすいことや、エリアが狭いため電力需要のピークが急に来ることなどが予想され、安定供給やピーク時の管理にまだ課題が残っています。
日本での取り組み
日本では2003年から5カ年計画で愛知の「愛知プロジェクト」、京都府京丹後市の「京都エコエネルギープロジェクト」、青森県八戸市の「水の流れを電気で返すプロジェクト」などの実証研究(NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託)が行われています。
その後2009年には、沖縄電力が宮古島で離島向けマイクログリッド事業を、資源エネルギー庁の「離島独立型系統新エネルギー導入実証事業」の一環で進めることが決まりました。全島の電力消費を最適制御するシステムを導入し、再生可能エネルギーの本格導入を目指したものです(写真2)。
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(写真2)宮古島に設置されたメガソーラーと風力発電設備
そして2017年9月には、パナホームが兵庫県芦屋市のスマートシティ潮芦屋「そらしま」において全117住戸間でのマイクログリッドシステムの街づくりに着手することを発表しました(写真3)。
このシステムは、各住戸に太陽光発電設備・蓄電池・HEMS(※ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)が設置され、住宅間で電力を相互に供給する国内初の取り組みになるということです。住宅へ相互に需給を調整しながら電気をやりとりするという画期的な取り組みで、年間消費電力のうち約8割は住宅地内で自給できる見込みです。2018年10月に事業開始を予定しています。
※詳しくはエネルキーワード 第14回「HEMS」参照
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(写真3)パナホーム スマートシティ潮芦屋「そらしま」
国の政策と今後の課題
スマートシティ潮芦屋「そらしま」の事業は、経済産業省の「平成29年度地域の特性を活かしたエネルギーの地産地消促進事業費補助金」の採択を受けています。同省は、平成30年度の「分散型エネルギーシステム構築支援事業」の補助金として70億円の概算を要求しており、引き続きスマートグリッド事業の普及を後押しする計画です(図4)。
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(図4)分散型エネルギーシステム構築支援事業
こうした中、日本は2030 年度の温室効果ガス排出削減目標を 2013 年度比で 26.0%減とする大きな目標を掲げています。それを実現するための対策の一環として、自然エネルギーの普及を促進し、化石燃料への依存度を下げるマイクログリッドは今後ますます注目されるでしょう。また、マイクログリッドは停電時に給電できる機能があることから、電力系統が脆弱(ぜいじゃく)な海外地域へシステムとして輸出できそうです。
こうしたマイクログリッドの普及には、国の補助金以外に、民間企業、地方自治体、電力会社、電力管理事業会社などとの連携・調整が不可欠です。今後の展開に期待が集まります。
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