2018.2.9
子どもたちが社会を変える「エネルギー教育賞」
エネルキーワード 第26回「エネルギー教育賞」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第26回は「エネルギー教育賞」。子どものころからエネルギーに関心を持ってもらいたい、そんな思いから生まれた「エネルギー教育賞」。昨年の3つの受賞校を例に、どんな取り組みなのか見てみましょう。
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TOP写真:仙台市立館小学校 変電所見学(小学校6年生 総合的な学習の時間)
エネルギーは国の基本であり、安全保障上極めて重要なものであるにもかかわらず、日本人は意外と無関心なのではないでしょうか?
子どものころからエネルギーに関心を持ってもらいたい、そんな思いから生まれたのが「エネルギー教育賞」です。
「エネルギー教育賞」とは
「エネルギー教育賞」とは、エネルギー教育に積極的に取り組む学校を顕彰することでエネルギー教育についての意欲を高め、子どもたちにエネルギー問題に関する理解を促そうと、2006年から始められたものです。一般社団法人日本電気協会(電気新聞)が主催、経済産業省や文部科学省、環境省などが後援しています。
第11回となる2016年度は、小学校19校、中学校9校、高等学校および高等専門学校18校の計46校(自薦、他薦含む)の中から、最優秀賞3校、優秀賞18校が選ばれ、2017年3月に表彰式が行われました。第12回、2017年度の受賞校発表は2018年2月の予定です。では、第11回の受賞校の取り組みを見ていきましょう(写真1)。
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(写真1)第11回エネルギー教育賞 最優秀校
第11回最優秀校の活動例
最優秀賞を受賞したのは、大分県の佐伯市立明治小学校(写真2)、北海道の札幌市立白石中学校、兵庫県立洲本実業高等学校の3校です。それぞれ、地域の特性を生かした授業内容や、外部と連携した活動内容が高く評価されました。
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(写真2)第11回エネルギー教育賞 最優秀校 大分県佐伯市立明治小学校
では、明治小学校の評価ポイントを見てみましょう。
・農業、漁業、林業など地域産業との結びつきを大切にしながらエネルギー教育を行っている点
・地元高校と連携しながら多面的な取り組みを行っている点
の2点でした。
こちらの学校の2016年度のテーマは「安心してくらせる豊かなエネルギー社会へ」。最も重要な課題として「エネルギー問題の認知度の低さ」をあげ、エネルギー広報活動について調べました。4年から6年まで3年間かけて学んでいます。
2015年度からは「エネルギー教育新聞」を作成して、地元・「大分合同新聞」の「飛び出せ学校」欄に掲載する取り組みも開始。取材の仕方や記事の書き方などを学んでいます。本格的ですね。
実際に子供たちは現場を取材。林業や水産業など市内の6事業所を実際に取材しました。板金加工などを手掛ける二豊鉄工所さんや、佐伯広域森林組合さん、水産会社ヤマジンさん、植木木工所さんなどを訪問して、省エネ対策について熱心に話を聞きました。そして完成した新聞がこちらです(写真3)。
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(写真3)明治小学校の6年生が制作した大分合同小学生新聞の紙面
新聞完成後、子供たちは口々に、「産業別にいろいろ工夫しているところが知ることができてよかった」「地球が危機になっていることを知ってもらいたい」「お父さん、お母さんに見てもらいたい」などと目を輝かせながら語っていました。
教室から飛び出して現場を歩いて自分たちで新聞を作った経験は何物にも代えがたいものだったでしょう。2016年度にエネルギー教育モデル校に指定された県立佐伯鶴城高校とも連携しているとのこと、頼もしい限りですね。
こうして子供たちがエネルギーの役割や大切さ、省エネの意義などを学ぶことはとても大切です。なぜなら、彼らは家に帰ってからご両親や家族に学んだことを話すはずだからです。
「親が子どもから学ぶ」という視点
ここに「小中学生への喫煙予防教育と父母の行動変容との関連」という調査があります。やや古い調査ですが、筑波大学地域医療教育学教室が茨城県神栖市の委託で2009年11月から2010年2月まで行ったものです。
喫煙予防教育を行った小学校4校、中学校3校の保護者が対象で、子どもから話を聞いたと回答した人の内、「行動変容があった」と回答した人は全回答者の約2割に達したのです(写真4)。
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(写真4)イメージ画像
そして「行動変容があった」人たちの7割は喫煙者だったということです。
彼らは、「禁煙した」「タバコの本数を減らす」「子どもの前では吸わない」などと回答しています。つまり、子どもの話を聞いて、親が考え方や行動を変えることがあるということです(図1)。
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(図1)保護者の基本属性および調査項目の回答結果(n=1427)
もう一つ例を挙げましょう。
東日本大震災が起きたときのことです。それ以前から岩手県釜石市で「防災教育」に携わっていた群馬大学大学院の片田敏孝教授(当時。現東京大学大学院情報学環特任教授)の話です(写真5)。片田氏は、小中学生対象に「津波が襲ってきたらとにかく逃げろ」と教え、特に中学生には、「自分より弱い立場にある小学生や高齢者を連れて逃げろ」と話していたそうです。
津波が襲ってきたとき、多くの中学生がその教えを実践し、お年寄りや小さい子供の手を引いて避難場所へと向かったのです。そして、小学生1927人、中学生999人の命が助かり、生存率は99.8%でした。「教育」がいかに大切か、よく分かるエピソードです。
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(写真5)片田敏孝氏
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(写真5)東日本大震災直後の岩手県釜石市箱崎町 2011年3月16日
出典:Yahoo! JAPAN 東日本大震災 写真保存プロジェクト Photo by goo*n*ighbo*s*ap*n
「教育」の大切さ
「エネルギー教育」に話を戻しましょう。
東日本大震災直後こそ、節電や省エネに関心が集まりましたが、喉元過ぎればなんとやらで、もうそれほどエネルギー問題が話題に上ることは少なくなりました。現在、原子力発電所はほとんどが停止したまま、火力発電が日本の電力を支えています。
資源のない日本はこれからエネルギーについてどうしていくのか、実は極めて重要な問題です。子供たちが「エネルギー教育」を学ぶことは、親世代も関心を持つ事につながります。一部の学校だけでなく、多くの学校が「エネルギー教育」を取り入れることを期待します。
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