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石油が地球からなくなる日「ピークオイル」

エネルキーワード 第27回「ピークオイル」

「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の 第27回は「ピークオイル」。石油などの化石燃料の資源量には限界があり、21世紀の中ごろまでに世界全体の石油生産がピークを迎え、その後は減衰していくという考え方のことです。この見通しは間違っていたのか、それとも予測通りなのか。改めて考えてみたいと思います。

TOP写真:Oil Pump Jack

出典:Pxhere PublicDomain

筆者が高校生のころです。国際的な研究・提言機関であるローマ・クラブが1972年に衝撃的な報告書を出しました。それが「成長の限界」です。将来、人口爆発と経済成長が続くと、食糧生産、資源、環境などの分野でさまざまな問題が起き、100年以内に地球の成長は限界に達するというものでした。
 
当時日本はまだまだ成長期ではありましたが、その後2度のオイルショックが起きたこともあり、石油はいずれ枯渇するのでは、と思い始めました。それがきっかけになって大学では資源論のゼミに入り、「食料自給率の向上」に関する卒論を書きました。そして、半世紀近くたち、石油は枯渇寸前か?と問われれば、答えは否でしょう。

ローマ・クラブの見通しは間違っていたのか、それとも予測通りなのか、改めて考えてみたいと思います。

ピークオイルという考え方

ピークオイル(Peak Oil)」という考え方があります。石油などの化石燃料の資源量には限界があって、21世紀の中ごろまでに世界全体の石油生産がピークを迎え、その後は減衰していくという考え方です。

アメリカの地球物理学者のM・キング・ハバード氏(写真1)が提唱したものですが、その後、多くの研究者や機関が石油生産のピーク到来の予測を後ろにずらしてきました。

(写真1)M・キング・ハバード氏

出典:クリエイティブコモンズ

世界の石油の確認埋蔵量と可採年数の推移 

1970年代には原油の可採年数は約30年と試算されていた時期もありました。しかし、その後の技術革新で新規油田が発見されたり、技術が進歩してこれまで採掘が無理だと思われていた油田からさらに石油が採れたりして埋蔵量の予測が上振れしてきました。また、原油価格の上昇等による採算性の向上などもあり、最近の可採年数は50年以上との試算もあります(図1)。(参考:Oil & Gas Journal誌)。

(図1)石油確認埋蔵量と可採年数の推移

出典:石油連盟(今日の石油産業2017)

ピークオイル・ディマンドとは

こうした中、今度は、供給より先に需要がピークを迎えるという「ピークオイル・ディマンド(Peak Oil Demand)」という考えが出てきました。つまり石油の需要は今後減ってくるというのです。
 
その理由の一つに、米国でシェールガスの発掘技術が本格的に拡大したことが挙げられます。もう一つは、自動車の内燃機関からEV(電気自動車)へのシフトが挙げられます。さらには、輸送用燃料の石油から天然ガスへの大幅なシフトチェンジも関係しています。
 
1番目のシェールガスについては言わずもがなでしょう。シェール革命と呼ばれた米国のシェールガス生産の拡大は当然のことながら石油の需要減を引き起こします。
 
2番目のEVシフトは、燃料価格の上昇と、温室効果ガス削減への対策が背景にあります。世界の石油消費の約半分は自動車に向けられているため、自動車のEVシフトは世界の石油需要の減少につながります。

 北米市場は今でも自動車メーカーにとって最大規模の市場です。アメリカ・カリフォルニア州の温室効果ガス排出削減策は厳しいことで知られています。ZEV(Zero Emission Vehicle)、すなわち排気ガスがクリーンなEVなどの市場拡大を支援する同州の規制により、世界の自動車メーカーはEVへのシフトを進めねばならないのです(写真2)。

(写真2)電気自動車 新型日産LEAF 

出典:NISSAN 

また、欧州各国や、世界最大の自動車市場・中国もEVシフトを急速に進めようとしています。こうしたことから、石油の需要は今後減少していくと見られているのです。

OPEC(石油輸出国機構)は、電気自動車販売のブームが予想を上回り2030年代後半に世界の石油需要をピークに達する可能性があると指摘しています。
 
3番目の輸送用燃料の石油から天然ガスへの大幅なシフトチェンジですが、輸送用としての石油の消費はもともと大きく、2014年における世界の石油消費量の内、65%が輸送用です(図表1)。

しかし、世界の天然ガス資源量が増加したことにより、天然ガスの価格が下落し、自動車・トラックなどの燃料であった石油からの需要シフトが進むことになったのです。

(図表1)世界の石油消費の推移(部門別)

出典:経済産業省(IEA「World Energy Balances 2016 Edition」を基に作成)

日本における石油資源の依存度

仮にいつか供給が需要を上回るにしろ、資源の大半を輸入に頼る日本は、エネルギー安全保障の観点から、化石燃料に過度に依存している現状を変えていかねばなりません。 
 
震災前、日本の化石燃料の海外依存度は81%(一次エネルギー供給ベース)でしたが、原子力発電所の稼働停止に伴い、火力発電への依存度がさらに高まり、2016年度は89%まで上昇してしまいました(図2)。(内、石油依存度は2016年度で39%)

(図2)我が国の一次エネルギー国内供給構成の推移

出典:経済産業省 資源エネルギー庁「日本のエネルギーを知る20の質問」2017年度版 (電気事業連合会「電源別発電電力量構成比」等より作成)

しかも、わが国の原油輸入の中東依存度も約80%と高止まりしています(図3)。化石燃料に大幅に依存する現在のエネルギー需給関係を改善することが必要ですが、再生可能エネルギーの普及も道半ばです。

(図3)我が国の原油輸入量とOPEC依存度・中東依存度の推移

出典:石油連盟(今日の石油産業2017) 出所:経済産業省「資源・エネルギー統計」

「ピークオイル」なのか「ピークオイル・ディマンド」なのかの論争はひとまず置いておくとして、まずわが国が考えなくてはならないのは、将来の電源構成をどうするのか、という問題でしょう。エネルギーは日本にとってコストそのものです。どこまで石油に頼るのか、そこを考えずしてこの国の未来を語ることはできないのです。

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