2018.3.23
再エネ、次に来るのは「海に浮かぶ風力発電所」
エネルキーワード 第29回「浮体式洋上風力発電」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第29回は「浮体式洋上風力発電」。海外で数多くの実績が上がっている、海の上に発電機を建設する「洋上風力発電」。陸上の風力発電と比べてどんなメリットがあるのか考えてみましょう。
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TOP写真:世界初の浮体式洋上風力発電 ノルウェー北部スタバンゲル
風力発電
再生可能エネルギーの普及を加速させるために固定価格買取制度(FIT)がスタートしてから5年、太陽光発電が急速に普及したのは皆さんご承知の通り。メガソーラーだけでなく、小規模な太陽光発電所や商業施設・工場の屋根などに設置されたソーラーパネルはもはや日常的な風景です。
そうした中、最近、風力発電の大きなブレード(羽)も目にすることが増えてきたと思われませんか?
日本の風力発電設備の導入量の推移を見てみましょう。2016年度で設備容量約336万kW、設置基数2,203基に達し、右肩上がりに導入量が増えているのが分かります(図1)。
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(図1)日本における風力発電導入量の推移(2017年3月現在)
それでも先行した太陽光発電に比べると、風力発電の普及はまだまだです。日本の風力発電が、全体の電源構成で占める割合は、太陽光発電の4.4%に比べ、わずか0.5%と再生可能エネルギーの中でも、かなり低いのが現状です(図2)。
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(図2)日本の電源構成
それはなぜでしょう。そもそも風力発電は風が吹かなければ発電しないわけですが、日本の中に発電に適している「風況」があるところはそう多くはないのです。国内で安定した風が吹くのは、北海道、東北、九州など、海沿いの一部などで、設置場所が限られてしまいます。
また、実際に風力発電機を目の当たりにすれば分かりますが、ブレードを支える支柱の高さは約100メートル、ブレードの直径は約60メートルにも及びます。それだけ巨大な風力発電機を何十、何百機も設置できる土地はそうそうありません。
また、日本は台風が頻繁に来るため強風や落雷のリスクがあります。さらには地震の懸念もあり、最適な発電機の設置場所を見つけるのは容易ではありません。
とはいえ、再生可能エネルギーの普及促進を考えると、太陽光発電だけに頼るわけにもいきません。資源エネルギー庁も、太陽光発電が増加し飽和状態になることを見越して、太陽光発電の売電価格を年々下げてきました。
その一方で風力発電の売電価格は一定のままとしたため、太陽光から風力に参入する企業が移ってきたのです(図3)。
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(図3)再生可能エネルギー買取価格
風力発電の種類と特徴
ここまでは「陸上風力発電」の話です。
一方、風力発電には、海の中に発電機を建設する「洋上風力発電」があり、海外で数多くの実績が上がっています。そのわけは、洋上は地上と比べ風況が安定しており、発電しやすい環境にあることと、陸上と違って環境面での影響を調べるのに長い時間がかからないことです。
そうしたことから世界の洋上風車設備容量は近年急速に伸びています。その順位を見てみると、トップの英国以下、ドイツ、中国、デンマーク、オランダ、ベルギーと続いており、日本は10位にとどまっています(図4)。
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(図4)世界の洋上風車設備容量の順位
世界的には、欧米諸国の設備普及が進んでいます。その理由は偏西風が年間を通して安定した発電量をもたらしてくれるためです。特に環境先進国として知られるデンマークは、2017年の風力による総発電量は1万4700ギガワットに上り、なんと国全体の消費電力の43.6%を風力で賄っています(写真1.2)。
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(写真1)デンマークの風力発電
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(写真2)イギリスWalney島沖の洋上風力発電
こうした中、資源エネルギー庁は、洋上風力発電について、2020年度までに約2万kWの実証事業を予定しています(図5)。
それに加えて現在、港湾内等で計画されている案件のうち、事業者が決定済みで2020年度までに運転開始を予定している案件が約16万kW、その他の事業者案件が約120万kWあることから、2020年度には約13~15万kW、2030年度には約100~110万kWの洋上風力発電の導入を見込んでいます。
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(図5)洋上風力発電の導入ペース
浮体式洋上風力発電
さて、その「洋上風力発電」には2通りの工法があります。
遠浅の海岸や港湾で発電プラントの基礎を海底に固定して建設する「着床式洋上風力発電」と、海上に浮かぶプラントを建設する「浮体式洋上風力発電」です(図6)。なぜ今「浮体式」が注目されているのでしょうか。
たしかに「着床式」は、世界的に実績が豊富で、水深25メートル以下では「浮体式」よりも低コストで運用できると言われています。しかし、日本では大型風車を着床式で設置した実績に乏しいだけでなく、欧州と違って遠浅の海域が少ないため自ずと設置場所が限られます。さらに海底の地盤に固定するため地震・津波、台風による高波などの影響を受けやすく、電力の安定供給に不安があります。
それに対して、「浮体式」は海底工事もほとんどありませんし、水深が50メートル超の海域が広大なことから「着床式」より大規模化が可能です。また、固定されていないため、地震・津波や高波の影響も少なくて済むというメリットがあります。
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(図6)洋上風力発電の形態と水深の関係
「浮体式洋上風力発電」の取り組み
「浮体式」では、長崎県の五島市にある椛島の沖合で2011年度から環境省の実証プロジェクトが始まったのを皮切りに、2016年には、五島列島の福江島の沖合で、国内初となる浮体式洋上風力発電設備を実用化し、商用運転を開始しました(図7)。
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(図7)浮体式洋上発電の仕組み
これが「はえんかぜ」です(写真3)。
その発電機は、釣りで使う「浮き」のように浮体構造の上部に鋼、下部にコンクリートを使った「ハイブリッドスパー型」という転覆しにくい安定した構造になっています。
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(写真3)浮体式洋上風力発電「はえんかぜ」
環境省が公表した「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査 」によると、わが国の洋上風力発電導入ポテンシャルは 16 億 kW とされています。国内 10 電力会社の発電設備容量のトー タルが約 2 億 kW であるからその 8 倍にあたります。その鍵を握るのが「浮体式洋上風力発電」なのですが、その前途は洋々とはいかないようです。
課題は3つあります。
それが、建設コスト、メンテナンス、漁業との共存です。特に建設コストの削減は最重要課題です。既に述べたように台風の襲来が多い日本では設備自体の強度の確保は避けられません。加えて、自然災害などに備えるための保険料も高く設定されています。事業者にとって、これらの問題をクリアするためには技術革新の加速化が欠かせません。日本において「浮体式洋上風力発電」が日の目を見るかどうかは、まさにここにかかっていると言えます。
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