2017.3.10
「再エネ」って今どうなってるの? 改正FIT法に見る日本のエネルギー
エネルキーワード第3回「再生可能エネルギー」
知っておきたい「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載第3回は「再生可能エネルギー」。普及のために作られた制度やその問題点について、先進国であるドイツの状況も踏まえて探っていきます。
非常に低い「再エネ」比率
再生可能エネルギー、略して「再エネ」。
東日本大震災後、一気にこの言葉が広まりました。仮に「再エネ」という呼称を知らなくても、太陽光発電は皆さん知っているでしょう?1000kW以上の大規模な太陽光発電所は「メガソーラー」などと呼ばれ、一度はテレビニュースなどで耳にしたことがあると思います。
それ以外に、風力、地熱、バイオマスと一応水力も「再エネ」に含まれます。ところで、その「再エネ」の普及状態は今、どうなっているのでしょうか?実態を調べてみました。
これを見ると、「再エネ」の全体の発電量における比率は、水力を除くとたった3.2%しかないことが分かります。一体なぜこんなに普及が遅いのでしょうか?
それにはわけがあります。
「再エネ」普及の壁とは?
「再エネ」には普及に向け、それぞれ課題があります。
まず、「太陽光」ですが、ソーラーパネルを設置するには広大な土地が必要です。現在農地として使っていない休耕地が太陽光発電所(メガソーラー)の候補地ですが、農地法の壁もあり、簡単には見つからないという問題があります。
「風力」も立地が問題です。
風が強く、多くの風車を設置できる場所というとわが国ではおのずと限られてきます。過去、発電機やブレード(羽)が落下する事故が後を絶ちません。低周波公害やバードストライク(鳥がブレードに衝突する事故)などの問題もあります。
では洋上は?との声も聞こえてきそうですが、佐賀県沖で実証実験中だった、日本初の浮体式潮流・風力ハイブリッド発電システムは2014年に悪天候で水没してしまいました。企業の投資リスクは小さくなく、参入の壁は決して低くありません。
「地熱」も火山が多い日本に向いていそうですが、国立公園などに広い土地を確保しなければならず、そこにも法律の壁が立ちはだかります。「バイオマス」も、資源の収集と保存にコストがかかるといった問題があります。
さらには、電力安定供給のため、電力会社が「再エネ」事業者からの買い取りを中断する、といった問題も起きました。
電力会社としてみれば当然の対応と思えますが、世間の目は厳しかったように思います。電気の安定供給を求めながら、不安定な電源である「再エネ」の普及を求めることは、ある意味矛盾しているともいえます。いずれにしろ、「再エネ」の普及がそう簡単でない事情はお分かりいただけたと思います。
「再エネ」普及の鍵、FITとは?
こうした「再エネ」を普及させるためには何らかのインセンティブが必要です。つまり、「再エネ」市場に企業が参入しやすくする政策誘導が必要だというわけです。
そこで考え出されたのが、2012年に導入された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度=Feed in Tariff:(FIT:フィット、以下FIT制度)」というものです。
簡単に言うと、将来の利益を保証してあげることで、「再エネ」市場に参入する企業を増やそうというものです。
向こう20年間一定の金額、それも高値で発電した電気を買い取ってあげる、とお国が保証してくれるわけですから、参入企業が殺到するのも無理からぬこと。無論それが政府の狙いだったわけです。
さて、その結果太陽光発電はどうなったのでしょうか?
グラフを見ると一目瞭然。確かに急速に太陽光発電は伸びていますね。
こうした急速な普及を支えているのが、電気料金に上乗せされている「再生可能エネルギー発電促進賦課(ふか)金(以下、再エネ賦課金)」なのです。
聞いたことがない人も多いかもしれませんが、毎月電力会社から送られてくる電気使用量のお知らせを見てみましょう。請求予定金額の内訳の中に、再エネ賦課金の項目があるはずです。つまり「再エネ」は私たちがその普及の原資を負担している、ということになります。
どのくらい負担しているのかというと、2012年度0.22円/kWh(賦課金単価)だったのが、2016年度には2.25円/kWhとなっています。およそ10倍になっていますね。その額は、1カ月の電力使用量300kWhの標準的な家庭で、月額675円、年間8100円と試算(経済産業省による)されています。2016年度の日本全体の買取費用となると、なんと2兆3000億円!ほぼ消費税収1%分に相当します。
このFIT制度の元、「再エネ」の導入が増え続ければ、再エネ賦課金も増えることになります。電気はなくてはならないもの。生活のためには払わないわけにはいきません。どこまで私たちは負担に耐えられるのか、その覚悟が求められているのです。
過熱した太陽光バブル
さて、FIT制度のおかげで太陽光市場への新規参入が急速に増えたわけですが、その結果、“太陽光バブル”というべき状況に陥りました。
政府は、こうした太陽光バブルをスローダウンさせるため、年々段階的に買取価格を引き下げています。2012年度40円・kWhだったものが、2016年度には24円・kWhと4割も減額されています(事業用太陽光10kW以上。経済産業省資料より)。
こうした買取価格の引き下げもあり、2015年には太陽光パネル国内出荷量が8年ぶりに前年割れになりました。また、ずさんな事業計画で未着工のメガソーラーも急増、“バブル崩壊”ともいうべき状況になったのです。こうした状況はFIT制度が発足した時点である程度予見できたものでした。
そして今回、政府は風力等他の再エネの普及にも力を入れる方向へと舵を切りました。それが「改正FIT法」です。
「改正FIT法」の特徴は
では、改正FIT法とはどのようなものなのでしょうか?
【1】新認定制度の創設
まず、事業計画が適正なものかどうか、経済産業大臣が認定する制度が作られました。高い買取金額が保証されているのに発電所が未稼働のままの事業者には退場してもらい、低い発電コストでも参入しようという事業者をバックアップします。同時に、再エネ賦課金の増大を抑制する目的があります。
【2】買取価格の決定方法見直し
数年先の買取価格まで決定する方法が、事業用太陽光を除き適用されることになりました。住宅用太陽光の場合、2017年度から19年度まで毎年買取価格が2円ずつ引き下げられます。風力も同様です。その目的は、事業者にコスト削減を促すこと。結果、私たちが負担する再エネ賦課金が抑えられる効果が期待できるのです。
一方、地熱・中小水力・バイオマスの普及を促すために、2017~19年度の買取価格を固定します。さらに、この3つの「再エネ」については、既設の発電設備を更新して認定を受けられるようになります。これらの「再エネ」は天候に左右されず発電することができるので、火力や原子力の補完として有望です。その他、事業用の太陽光を対象にした入札制度も導入されます。これもコスト効率が高い事業者の参入を後押しする目的があります。
【3】発電した電力の買取義務者が送配電事業者へ移行
従来は小売電気事業者が発電事業者から買い取る方式でしたが、今後は、送配電事業者(電力会社の送配電部門)が買い取る形になります。送配電事業者が発電事業者から買い取った電力は、卸電力市場を通じて小売電気事業者に売られるわけです。こうした仕組みにより、小売電気事業者は自由に「再エネ」電力を買うことができ、普及に弾みがつくと政府は期待しています。
「再エネ」のこれから
これまでFIT制度について見てきました。
ここで考えなければいけないのは、どこまで受益者が「再エネ」普及のためのコストを負担するかという問題です。先ほど紹介した「再エネ賦課金」ですが、要は再エネ普及が進めば進むほどこの賦課金が増えていくのがFIT制度です。もし毎月の電気料金が倍になるようなことになったら家庭はおろか、企業も立ち行かなくなります。
ここで、「再エネ」導入で有名なドイツの例を見てみましょう。
ドイツはFIT制度を主要国のなかでいち早く導入し、「再エネ」で世界をリードする存在となりました。FIT制度は再エネの急速な普及を促しましたが、グラフのように電気料金の大幅な上昇を招くことになりました。
これによって、ドイツ政府は2014年夏にはFITの大幅な見直しに踏み切ることになります。こうしたドイツの「再エネ」の取り組みは日本の今後のエネルギー政策に参考になることでしょう。
このように“再エネ先進国”と思われていた海外でも見直しの機運が高まってきています。
そうした中、わが国では太陽光、風力に次いで、地熱が注目を集めています。火山国でもある日本の地熱資源量は世界有数です。環境影響評価(アセスメント)が不要で開発コストや事業化までの期間が圧縮できるため、小規模地熱発電に異業種の参入が活発化しているのです。このように「再エネ」普及も、戦略的かつ効率的に進めれば、国民の負担と経済合理性を高い次元でバランスさせることが可能になるのではないでしょうか。今、改めて国民レベルの議論が必要だと感じています。
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