2018.4.6
拡大するエネルギーの地産地消「新エネ百選」
エネルキーワード 第30回「新エネ百選」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第30回は「新エネ百選」。新エネルギーの先進的な導入事例100件を47都道府県から選定した取り組みです。再生可能エネルギーと何が違うのか、どんなメリットがあるのか。3つの実例から考えてみましょう。
INDEX
-
TOP写真:世界初の「利雪型ライスファクトリー」貯雪庫
今から約9年前、東日本大震災が起きた2011年よりも2年早く新エネルギーの普及のための取り組みがありました。それが「新エネ百選」です。
「新エネ百選」とは
2009年4月に経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、47都道府県全てから漏れなく、新エネルギーの先進的な導入事例100件を「新エネ百選」として選定しました。
全国の新エネルギー(以下、「新エネ」)利用の取り組みとして優秀なものを積極的に情報発信することで、新エネ導入を全国的に広めていくことを目的として選定されたものです。
さてその「新エネ」ですが、いわゆる「再生可能エネルギー(以下、再エネ)」とはどう違うのでしょうか?経済産業省によりますと、「新エネ」の定義は、太陽光発電や風力発電などの「再エネ」のうち、「地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量が少なく、エネルギー源の多様化に貢献するエネルギー」のことだそうです。
特に「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」では、「技術的に実用段階に達しつつあるが、経済性の面での制約から普及が十分でないもので、非化石エネルギーの導入を図るために必要なもの」として、「新エネ」を以下の10種類に指定しています(図1)。
-
(図1)新エネルギーの種類
新エネ百選の実例
地域ならではの特徴を生かした各地域の事例を見てみましょう(図2)。
発電規模が大きいものばかりではなく、街づくりの一環として取り組まれている小規模なものもあります。その地域に適したエネルギー活用によって新エネの普及が進むことは、エネルギー自給率の低い日本にとって重要です。(選定された100件の事例)
-
(図2)全国の「新エネ百選」選定地域
選定事例の紹介
●「輝け雪のまち」~雪と共生するまちづくり~
雪と言えばやっかいなもの、と思われがちですが、北海道沼田町では、世界初の雪冷房システムによる米穀貯蔵施設をはじめ、12カ所に雪氷熱利用設備を導入しています。(2015年時点)参照
その中の一つ、「スノークールライスファクトリー( 沼田町米穀低温貯留乾燥調製施設)」では、米の貯蔵に雪冷房を導入した施設です。
貯留乾燥ビンに貯蔵された2,500トンのもみを1,500トンの雪冷熱により、低温貯蔵することができます。4月中旬~8月中旬まで、貯蔵庫内を温度5℃、湿度70%に保ちながら保管します。真夏に新米と同等の風味を味わえるブランド米「雪中米」を国内のみならず、海外にも輸出しているのです(写真1)。
-
(写真1)雪中米
雪冷房方式は、雪-空気直接熱交換型を採用しており、もみ貯留ビン内で温かくなった空気は、混合器と貯雪庫に送風されます(図3)。
貯雪庫へ送風された空気は、垂直に開けられた約400個の雪孔を通過し、0℃近くまで冷やされ、バイパスを通過した空気と混ざって、温度4℃、湿度75%の空気に調節された後、もみ貯留ビンに再び送風される仕組みです。雪が豊富な同地域ならではの知恵ですね(写真2)。
-
(図3)雪冷房システム
-
(写真2)北海道沼田町「輝け雪のまち」~雪と共生するまちづくり~
●家中川小水力市民発電所「元気くん1号」
富士の湧水が豊富な山梨県「水のまち都留」。江戸時代に開削された家中川は、農業や生活、防火や織物産業などの分野で地域の発展に寄与しました。
家中川は水量が豊かで、富士の裾野の傾斜地のため流れが急で、水車の動力源として最適でした。江戸時代から絹織物生産の動力源として水車が用いられ、大正末ごろまでは、多くの水車が設置されていたという歴史的背景があります。
市役所庁舎前を流れるその家中川に、小水力市民発電所「元気くん1号」は平成18年度(2006年)に稼働を始めました。全国の小水力発電の先駆けで、現在1号に続き、2号、3号と3つの異なるタイプの水車が稼働しています(写真3.4.5)。
発電された電力は、都留市役所や都留市エコハウスの電力として使われており、夜間や休日等には、固定価格買取制度により売電しています。
-
(写真3)山梨県都留市 家中川小水力市民発電所「元気くん1号」
-
(写真4)元気くん2号
-
(写真5)元気くん3号
●鶏ふん焼却によるバイオマス発電
宮崎県のブロイラー年間出荷羽数は約1億3282万羽と鹿児島県に次いで全国第2位。発生する鶏ふんの量も多く、年間で約20万トンにも上ぼります。
川南町では、「みやざきバイオマスリサイクル株式会社」が鶏ふんを燃料とした国内最大級のバイオマス発電所で発電しています(写真6)。
-
(写真6)宮崎県 鶏ふん焼却によるバイオマス発電
国内では初めて鶏ふんを焼却した熱の全量で発電を行い、電力販売すると共に、焼却灰は有効な肥料原料として活用する「バイオマス発電による循環型エコシステム」を構築、事業化しました(写真7)。
-
(写真7)焼却灰はリンやカリウムを含む有機由来の肥料原料として販売されている。
これからの「新エネ」
日本で、全体の発電量に占める再生可能エネルギーの割合は、2.7%(2011年度)から7.8%(2016年度)に増加し、設備容量も2012年のFIT開始以降は着実に増え続けています(図4.5)。
-
(図4)再生可能エネルギーの導入状況
-
(図5)再エネ設備容量の推移
エネルギー資源に乏しいわが国において、エネルギーの「地産地消」の動きは今後も加速していくと思われますが、「新エネ」を普及させるには私たちの負担が増えることを意味します。
以前から触れていますが、「固定価格買取制度」による買取費用の一部は、「賦課金」という名目で国民が負担しています。2017年度の買取費用は約2兆7000億円、その内「賦課金」は約2兆1000億円にも上っています(図6)。
※詳しくはエネルキーワード第12回「再エネ賦課金」を参照
また、国が想定する2030年の「新エネ」を含む「再生可能エネルギー」の買い取り費用は、3兆7000億円から4兆円に上る見込みです。こうした再エネのコストをできるだけ低減させ、国民の負担を抑制すると同時に再エネ普及を図るという”トレードオフ”の関係をどう解決していくのか、新たな技術開発と発想の転換が求められています。
-
(図6)固定価格買取制度導入後の賦課金などの推移
「新エネ百選」を見てみると、それぞれ地域の特性を生かしたものが多いと感じます。
その後も、各地域でさまざまな取り組みが誕生しています。自分たちの町で今、「新エネ」についてどのような取り組みがなされているのか、私たちが関心を持つことが大切です。
今、改めて「新エネ」普及で私たちが得る「利益」と私たちの「負担」を比較し、今後のエネルギーのあり方を見つめ直すことが必要でしょう。
-
この記事が気に入ったら
いいね!しよう -
Twitterでフォローしよう
Follow @emira_edit