2017.3.24
電力vsガスの行方は? ガス小売り自由化始まる
エネルキーワード第4回「ガス小売り自由化」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載第4回は「ガス小売り自由化」。2016年4月にスタートした「電力小売り自由化」から1年。2017年4月に始まる注目の改革について探ります。
ガスの種類
まず、ガスについて復習しておきましょう。家庭で使われているガスには全部で3つの種類があります。今回自由化されるのはそのうちの一つ、「都市ガス」です。
ガスの種類とは:
1.都市ガス 街の地下に張られたガス導管を経由してガスを供給する。
2.LPガス(プロパンガス) LPガスの入ったボンベを家庭・集合住宅に配達してガスを供給する。
3.簡易ガス(団地ガス) 団地内に特定ガス発生設備を設置し、導管網で団地内へガスを供給する。
の3種類です。
全てのガスが自由化されるわけではないので、ガス自由化とは厳密には「家庭向け都市ガスの自由化」でしょう。
LPガスを扱う企業はすでに数多くありますが、都市ガスを扱っている企業は大小合わせ全国に203社。中でも、東京ガス、東邦ガス、大阪ガス、西部ガスは「大手4社」と呼ばれていて、全国で約70%のシェアを占めています。ほぼ独占状態といってもいいでしょう。
また、ガス料金の設定は現在総括原価方式と呼ばれる制度です。これは以下の3つの原則に基づいています。
① 原価主義の原則(事業の適正な遂行に必要な適正費用[総括原価]と料金は一致)
② 公正報酬の原則(必要な資金調達ができるように事業報酬を、総括原価に過不足なく織り込む)
③ 公正の原則(ガス事業の公益性のため差別的なものであってはならず公平でなければならない)
つまり、ガス会社にとっては公正で安定した利益がもたらされ、供給者にも料金負担が重くなり過ぎないようにすることを原則としています。しかしそれは同時に、競争原理が働きにくいということでもあります。
そういった都市ガスの現状が、ことしの4月から変わります。
ではどのように変わるのでしょう。
ガス自由化は、基本的には昨年始まった電力自由化のガス版です。都市ガスはガス管を通って家庭まで運ばれてきますが、このガス管を新規参入するガス会社が使用できるようになります。
といっても、ガスの自由化によってガス管が増えたりするわけではありません。
例えば、現在都市ガスを利用していて、ガス供給会社が〇〇ガスのお宅があるとします。4月から自由化されることによって別のガス会社と契約をすることになった場合、今まで使ってきた〇〇ガスのガス管を、契約した別のガス会社が使ってそのお宅に届けることができるようになるということです。
ガス自由化の目的と新規参入
ではなぜガス自由化をすることになったのでしょうか?それは昨年から始まった電力自由化と関係があります。資源エネルギー庁は、「エネルギーシステム一体改革」という政策を進めています。「これまで縦割りであった市場の垣根を取り払い、総合的なエネルギー市場をつくり上げる」というのです。
この政策には、
① エネルギー産業を日本の成長をけん引する産業にすること
② 消費者利益のさらなる向上
の2つの目的があります。具体的には以下の図のような流れで、電力とガス、それぞれのシステム改革をしていこうというものです。
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ガス小売り自由化スケジュール
今回のガス自由化の目的としては以下の4つがあります。
(出典:経済産業省資源エネルギー庁「エネルギーシステムの一体改革について」)
① 天然ガスの安定供給の確保
② ガス料金を最大限抑制
③ 利用メニューの多様化と事業機会拡大
④ 天然ガス利用方法の拡大
確かに電力自由化のとき、多くの企業が新規参入しました。それぞれの企業が携帯電話や電気などとのセット割引やポイント還元などを前面に打ち出して競争しています。消費者にとって選択肢が増えたことは事実です。
ではガスの自由化はどうなのでしょうか。
実はガスの自由化は、1995年すでにガスの消費量が多い大規模工場などを対象に始まっています。その後段階的に中規模工場、病院やホテルなどに自由化の対象が広がり、ことしから都市ガスの自由化、という経緯をたどっています。その結果、一般ガス事業者以外による新規参入は、33社273件(2012年3月末現在)に上っています。
ガス事業者間による競争が活発化し、全体として都市ガスの平均販売単価は低下傾向にあります。すでに大手電力会社は正式に家庭向けガス事業への参入表明をしていますし、新規参入する企業も一定数見込めるでしょう。
ガス小売り自由化は進むのか?
電力自由化後、経済産業省が2016年10月にアンケートを実施しました。自由化によって変更した人たちは全体の3%にとどまっているものの、その約9割が「自分が欲しいレベル以上(のメリット)」と答えており、変更に対する満足度は高いようです。しかし、それはすでに変更した人たちで、実は全体の45%がそもそも変更を検討しないと答えています。
また、どれくらい料金が下がったら変更するかという質問に対しては、「料金が下がっても変更しない」という人が14.3%という結果が出ています。まだスタートして1年弱とはいえ、自由化によって変更をする人は限られる、という結果が出たことは今後の課題といえそうです。
ガス自由化はどうでしょうか?
というのも、株式会社電通が昨年11月に実施したアンケートによると、ガス自由化の「認知」度は 4割強、知っている人の中でも、自由化によりガス会社を変更することを検討している人たちは 1割強にとどまっています。ただ同様のアンケートで、ガス小売り自由化に伴い「電気とガスの購入先を 1 社にまとめたい」という意向を示している人は全体の66%に上りました。半数以上の人が、電気とガスをまとめて一つの企業から購入すればメリットがあると考えているのかもしれません。
また、都市部にしか新規参入しない可能性も十分考えられ、地方に住む人たちは選択肢がなく今まで使っていたガス会社をそのまま継続して使うことになります。そのことに関連して、あまり知られていない事実も紹介しましょう。今回の自由化対象は都市ガスということですが、その都市ガスを利用している世帯の割合です。
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経済産業省の資料を参考に筆者作成
少し古いデータとなりますが、都市ガス53%、LPガス44%(グラフ含め数字は「需要家数」の比率)と拮抗しているのが分かります。これは、今回のガス自由化の対象となるのは全国の半数である点も押さえておかなければなりません。
電力会社vsガス会社
ガス小売り自由化市場への新規参入企業の中で、注目されているのは電力会社です。
どうしてでしょうか。
まず、ガスの原料はLNG(液化天然ガス)です。そのLNGを日本で最も多く使っているのは、ガス会社ではなく電力会社なのです。答えは単純です。LNGは火力発電の燃料なんですね。つまり電力会社は、すでにLNGを安く大量に手に入れられる輸入ルートを持っているのです。それをそのままガス事業へと転換できるので、他の新規参入企業よりも優位な位置からスタートできるといえるでしょう。
その電力会社は、大手ガス会社と組み、その後、ガス小売り事業のノウハウを持たない異業種が参入しやすいように、いわゆる「プラットフォーム」事業に乗り出すようです。「ノウハウ」とは、都市ガス供給から託送の手続き、保安業務、機器メンテナンス、業務運営システムまでの一貫したガス小売り事業に必要な機器と業務全てを含みます。こうした「ノウハウ」を異業種に提供することにより、ガス小売りの市場全体を活性化するのが狙いです。
対するガス大手は、近隣の都市ガス業者や他管内の電力会社と組んで迎え撃つ戦略です。どちらも一歩も引かない構えで、異業種間の大型提携などが実現する可能性もありそうです。
経済産業省が長いスパンで考えている「エネルギーシステム改革」。その一つとして電力もガスも自由化することになりました。その先には、「発送電分離」なども控えます。これについてはまた項をあらためて。
そもそも選択肢が自分にあるのか、あってもどれがベストなのか・・・「よく分からないや」と、さじを投げないで、自ら情報収集してみませんか?
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