2018.9.6
再エネ大量導入のカギ「日本版コネクト&マネージ」が起こす社会変化
エネルキーワード 第35回「日本版コネクト&マネージ」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第35回は「日本版コネクト&マネージ」。地球温暖化防止の観点から再生可能エネルギーの大量導入に期待が高まっていますが、いくつかの課題があることが明らかになってきました。それが、(1)コストの低減、(2)系統制約の緩和や解消、(3)規制や立地環境という3つです。今回はその一つ、「系統制約」の問題について考えてみましょう。
日本全国をつなぐ電力系統とは何か
電力系統(以下、系統)とは、発電設備(発電所など)、送電設備(送電線など)、変電設備(変電所など)、配電設備(配電線など)、需要家設備(受電設備など)といった電力の生産から消費までを行う設備全体を指します。電気を各地に送るためのシステム全体といえるでしょう。
その系統ですが、需要(=電力利用量)と供給(=発電量)のバランスを取りながら運用されなければいけません。電気は需給のバランスが崩れてしまうと、周波数(※)に乱れが生じ、最悪、大規模停電が起きてしまうからです。
※東日本で50Hz(ヘルツ)、西日本で60Hzと定められている電気の規格
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日本の系統構成(FC:周波数変換設備)
さて、再生可能エネルギー(以下、再エネ)といえば、真っ先に思い浮かぶのが太陽光発電や風力発電です。でも、これらの再エネは発電量が天候によって大きく左右されてしまいます。従って、再エネ由来の電源を系統に導入するときは、火力発電などで発電量を調整し、需給バランスを保つようにしなければなりません。
新たな問題「系統制約」とは?
2012年から始まった固定価格買取制度(FIT制度)の下、急速に拡大している再エネ由来の電源ですが、新たな問題が浮上しました。それが、「系統制約」と呼ばれるものです。
この系統制約には「容量面」と「変動面」の2つがあり、そのうち容量面での系統制約には、「①エリア全体の需給バランスの制約」と「②送電容量の制約」があります。
まず、「容量面での系統制約」ですが、再エネが需要以上に発電したときには、当然電気は余ることになります。そうした場合に、“電源を制御するルール”を決めておこうというものです。これを「優先給電ルール」といい、上図の「①エリア全体での需給バランス」を取るための仕組みというわけです。
需要以上に発電され電気が余ったときには、あらかじめ決められた順に、電源を確実に制御するというルールを設けることで、この制約を緩和しています。
具体的には、電気が余ったら、最初に火力発電が発電量を減らします。次に揚水式発電機の動力(下から上の貯水池に水をくみ上げる)として電気を使う、さらに電力会社間をつないでいる連系線を活用して他エリアに電気を流す、それでも余る場合には再エネの出力を制御する、と続くことが定められています。
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主な出力抑制等の具体例
需給のバランスを取るための施策は、こうしたルールだけではありません。再エネ事業者側も出力制御に協力するよう義務付けられています。
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H29.4.30(日)需給実績
一方で、いくらこうした取り組みを行っても、電気を広く届けるための送電設備の送電容量には限界があります。空きがなくなったら、新たに送電設備を作らねばなりませんが、それには莫大なコストと時間がかかります。それが「②送電容量の制約」です。こうした制約下で既存の系統を最大限有効活用しようというのが「日本版コネクト&マネージ」です。
「日本版コネクト&マネージ」がもたらすもの
「コネクト&マネージ(Connect & Manage)」とは、緊急時用に空けていた送電線の容量や、容量を確保している電源が発電していない時間などのすきまを活用し、より多くの電気を流せるようにするものです。イギリスなどで既に実施されています。
具体的には、下図が分かりやすいでしょう。
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コネクト&マネージの概念図
①電源を実際の利用率に近い想定で空き容量を算定する
②緊急時用に空けておいた容量の一部を平常時に活用する
③系統の混雑時に制御することを前提として新規の接続を可能とする
などをして、“送電線のすきま”を最大限活用することが検討されています。
この「“日本版”コネクト&マネージ」は現在、経済産業省資源エネルギー庁傘下の「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」にて検討が進められています。2018年度早期からの適用を着実に実現することを目標に、課題に関する調整が済んだものから、適用していく計画です。
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日本版コネクト&マネージの検討イメージ
出典:電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第2回)配布資料「系統制約の緩和に向けた対応」
再エネをコスト競争力のある日本の主力電源にし、大量導入を持続可能なものにするためには、既存系統の柔軟な活用を促す「日本版コネクト&マネージ」は一つの解です。
しかしながら、さらに解決しなければいけない問題もあります。それが、再エネ由来の電力が持つ出力変動の大きさです。具体的には、風力発電の出力変動に対応するために蓄電池の活用が検討されており、次世代蓄電池の開発に期待が集まっています。
このように再エネの大量導入にはさまざまな技術的な課題が立ちはだかっています。地球温暖化防止の観点からも、再エネの重要性はますます高まるものと思われますが、国民への費用負担という問題も避けては通れません。いかに発電のためのコストを下げ、再エネ導入を促進させていくか、私たちも国のエネルギー政策に関心を持ち続けることが求められているのです。
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