2018.10.5
世界に広がる日本の地熱発電技術
エネルキーワード 第36回「地熱発電」
「エネルギーにまつわるキーワード」を、ジャーナリスト・安倍宏行さんの解説でお届けする連載の第36回は「地熱発電」。再生可能エネルギーの中でも古くからその利活用に期待されていた発電方法ですが、今、世界で評価し直されています。そして、その中心となるのが日本の技術。今回は地熱発電の今について考えてみましょう。
地熱発電の日本における現状
近年、世界の各年の再生可能エネルギー(再エネ)の発電設備導入量は拡大の一途をたどっています。日本でも太陽光発電や風力発電を軸に再エネが順調に導入量を増やしていますが、ここにきて注目され始めたのが「地熱発電」です。
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世界の各年の発電設備導入量、再生可能エネルギーの割合の推移(IEA WEO2016より)
一方で日本の電源構成を見ると、地熱発電の占める割合は低く、2016年度のデータでは全体の0.2%にとどまっています。
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2016年度のエネルギーミックス(発電量の比率)
しかし、実は日本の地熱資源量は世界第3位。環太平洋火山帯という火山の集積地帯に位置していることもあり、日本は世界有数の地熱資源国です。各国の地熱資源量を見ると、アメリカが第1位(3900万kW)、インドネシアが第2位(2700万kW)、次いで日本は世界第3位(2300万kW)となっています。
にもかかわらず、地熱発電の設備容量(定格出力)で見ると日本は2015年に世界第10位まで後退しています。つまり地熱資源に恵まれているのにもかかわらず、それらを生かすための設備容量が不足し、資源を十分に利用できていないのです。
その原因の一つは、国立・国定公園内に新設する建築物の高さに関する規制でしょう。ただ、発電設備を格納する建屋などは高さ13m以下に制限されていましたが、2015年に撤廃されました。その他、地熱資源を開発する上で必要な掘削の対象範囲も拡大されています。こうした規制緩和で、国内における地熱発電の導入量拡大が期待されています。
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世界各国の地熱発電設備容量
世界で注目される日本の地熱発電技術
国内における地熱発電開発は遅れている状況ですが、日本はかなり高度な地熱発電技術を持っています。日本のメーカーは早くから地熱発電機器の製造技術を確立し、世界をリードしてきました。特に、地熱発電所の心臓部と言われる地熱発電用タービンは、東芝、富士電機、三菱日立パワーシステムズという日本のメーカー3社で世界のシェア67%を占めています(日本地熱協会2012年調べ)。
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地熱発電用タービンの世界シェア
地熱発電で使う地下からの熱水成分には、水蒸気だけでなくCO2や硫化水素ガスなどが含まれています。特に硫化水素ガスは金属を腐食させるため、地熱発電用タービンにとっては大敵です。日本のメーカーは、各国の地熱条件に合わせて、腐食を抑える設計技術や材料を選ぶ技術を擁し、他国を圧倒しています。
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地熱発電用タービン
またタービンの信頼性においても日本メーカーには一日の長があります。タービンの軸にブレード(翼のような部品)を精密に取り付ける技術や、ブレードそのものを正確に削る技術などは海外メーカーの追随を許しません。
加えて日本のメーカーが、機器を輸出するだけではなく、設計から部品調達、プラント建設まで一貫して請け負う方式を採用していることも、海外から高く評価されている大きな理由でしょう。
世界には使用していない地熱資源量がまだまだあります。2015年に世界の地熱発電設備容量は1200万kWを超え、2020年には2100万kWを超えるとの試算もあります。
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世界の地熱発電動向 ※ 1万kW=10MW
最近では、2018年8月31日、丸紅がケニア発電公社より地熱発電所の建設を約100億円で受注したことを発表しました。伊藤忠商事や住友商事もインドネシアで地熱発電開発を行っており、その他にも海外で地熱発電に関わる日本企業は数多くあります。
特に人口2億5000万人を超え、高度経済成長を続けるインドネシアでは、豊富な電力需要に応えるために、急ピッチで電力インフラ整備が進められています。政府は現在、約1400MW(140万kW)の地熱発電容量を、大幅に拡大する野心的な計画を立てています。
また、住友商事は、インドネシアで単に発電施設を現地政府や企業に納入するのではなく、独立系発電業者(Independent Power Producer:IPP)として長期的に売電を行う方式を提案したことが大きく評価され、現在大型プロジェクトが進行しています。その具体例が、インドネシア西スマトラ州におけるムアララボ地熱発電事業。国営電力会社PT. PLNと30年にわたる長期売電契約を締結した発電容量80MWの地熱発電事業です。総事業費は約700億円、2019年10月の商業運転開始を予定しています。
こうした日本企業の粘り強い開発協力が、数々の国から信頼を勝ち得ている理由でしょう。
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住友商事が開発中のムアララボ地熱発電所 2019年10月運転開始予定
地熱発電は、
(1)天候に左右されず安定的に発電できる
(2)CO2排出量がほぼゼロ
(3)他の再エネに比べ発電コストが低い
(4)設備利用率(実稼働の発電量が定格出力の何%に当たるか)が極めて高い
(5)電力価格が燃料市況に左右されない
など数々のメリットを持つため、今後も各国で開発が進むことは間違いありません。中国メーカーの参入もありますが、高い技術力と現地の実情に寄り添った開発力を誇る日本の企業群にとって追い風が続きそうです。
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