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5G×移動診療車が登場! 医療格差を是正するNTTドコモのモバイルSCOT(R)構想

株式会社NTTドコモ ネットワークイノベーション研究所 方式担当 担当課長 南田智昭【前編】

2025年には高齢者の割合が国民全体の30%に達すると予測されるなど、超高齢化社会がますます加速傾向にある日本。そのため、従来の医療体制ではこれまでと同等の社会保障を今後100年にわたって享受するのは不可能に近く、安心して健康に暮らすための抜本的改革が求められている。そうした中で、今後大きな役割を担うと目されているのが、5Gを活用した医療だ。今回は、「5G医療」の実用化に向けてさまざまな実証実験に取り組む株式会社NTTドコモを訪ね、その可能性に迫った。

5Gが医療分野に技術革新をもたらす

2020年より日本でもサービスが開始された5G──。

これまでの4Gと比べて、「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」といった特徴を持つこの新たな通信サービスに、国や多くの企業が注目。これまでの私たちの暮らしにおける常識を、文字通り一変させる可能性を秘めている。

「4Gまでの経験を踏まえて、実際にどう使うかというユースケースを想定した作り方をされてきているのが5Gの魅力だと思います」

そう語るのは、株式会社NTTドコモ ネットワークイノベーション研究所で無線およびネットワークシステムに関わる方式担当で担当課長を務める南田智昭氏だ。

現在所属しているネットワークイノベーション研究所の前身である5Gイノベーション推進室時代から5Gに関わってきた南田氏

幅広い活用が期待される中でも、とりわけ期待度が大きいのが医療分野だ。

NTTドコモでも、総務省が2017~19年の3年間にわたって行った「5G総合実証試験」にて、医療に関する複数の取り組みを積極的に検証してきた。

「これまでも医療分野における診療効率や安全レベルを見越して、電子カルテをはじめ、さまざまな部分でデジタル情報化やIT化がされていますよね。それらが5Gによっていろいろと技術的加速ができるという期待も込めて、医療分野に5Gを適用していく必要は当然あると考えています」

モビリティーこそが5G医療の真骨頂!

南田氏によれば、5G医療とはいわゆるオンライン診療を拡張する形のものであるという。

オンライン診療とは、インターネット通信網を活用して離れた場所の患者を医師が診療すること。これは医師(Doctor)と患者(Patient)が通信網を介してやりとりを行うことからDtoPとも呼ばれており、すでに4Gで実用化されている。

5Gの特徴である高速・大容量通信を使うと、これらのやりとりがより瞬時に行えるほかリアルタイム動画を組み合わせることも可能だ。DtoD、つまり医師間同士の意思疎通や情報共有も円滑にすることができるので、結果として患者が受けられる医療レベルの向上につながると見込まれている。

2019年に総務省の「第5世代移動通信方式の実現による新たな市場の創出に向けた総合的な実証試験」の取り組みにおいて、和歌山県、和歌山県立医科大学の協力の下で行われた「都市部と地方の医療格差の問題を解決する遠隔診療の高度化に関する実証試験」では、和歌山県日高郡日高川町美山地区に日本電気株式会社の4.5GHz帯5G基地局を設置

患者宅内と和歌山県立医科大学の専門医を5G接続し、4K TV会議システムを通じて医療機器の操作や治療方針など医療行為をサポートした

例えば、専門医がいない環境においての難病患者の診察であったり、熟練医の不在時に緊急手術を行う必要に迫られるというケースだ。

直接の医療行為を行わないこれまでの4Gのオンライン診察では、できることに限界があった。ところが、5G医療ではもう一歩進んで、遠くにいる専門医が画面越しに逐一状況を把握して、あたかもその場にいるかのように現場の医師に適切な処置を指示できるようになる。反対に、現場の医師の方からその場で専門医にアドバイスを求めることも可能だ。

こうしたDtoDで離れた場所にいる医師同士の連携による医療行為をドコモでは「遠隔医療」と呼んでいる。

ところが、南田氏は「こうしたメリットは5G医療の本質ではない」と言う。

「本来であれば、5Gと大容量通信、5Gと動画リアルタイム通信というのは全く関係ありません。なぜなら、性能の差はあれ鮮明な画像やリアルタイムで動画を送るというのは光ファイバーとWi-Fiで事足りる技術だからです。遠隔医療ではなく、5G医療と呼ぶのであればこの違いは明確に理解する必要があります。

では一体何が違うのかといえば、モビリティーです。医療×5Gという掛け合わせにはモビリティーを持たせる必要があり、この技術の拡張こそが重要になってきます。そして、モビリティーの最たる例こそ、私たちが開発している『モバイルSCOT(R)(スコット)』なのです」

5Gを活用した新システムで医師が場所と時間的制約から解放

「モバイルSCOT(R)」とは、「学校法人 東京女子医科大学(以下、東京女子医大)の村垣善浩教授が開発したスマート治療室『SCOT(R)(Smart Cyber Operating Theater/スコット)』や、離れた場所で専門医が待機している戦略デスクをモビリティー化したもの」と南田氏は言う。

「モバイルSCOT(R)」のシステムを紹介する動画

「『SCOT(R)』のシステムは、手術室の情報をはじめ、MRIやCTなど事前の各診療情報、手術中のMRIといった情報をパッケージングして、専門医がいる戦略デスクに伝送し共有するというものです。専門医は離れた場所にいながらにして全ての情報を俯瞰して確認できるので、まるで手術室にいるかのごとく指示を出すことができます。この『SCOT(R)』を移動手術室として扱う移動診療車、デバイスを介して専門医がいる場所を戦略デスク化するモバイル戦略デスク。この双方が『モバイルSCOT(R)』の概念で、片方だけでも『モバイルSCOT(R)』であると考えています」

「移動診療車と戦略デスクの両方に専門医がいてもいいわけで、極論を言えば難しい手術のときはカンファレンス(患者のケアに関する話し合い)をしながら手術を行うことだってできます」と語る南田氏

NTTドコモは2020年10月23日、東京女子医大とともに「モバイルSCOT(R)」と商用5Gを活用した国内初の遠隔医療実験を行った。

本実験では、移動診療車と遠隔地の戦略デスクを商用5G「ドコモオープンイノベーションクラウド」で接続。車両内で撮影した4Kのエコー画像を戦略デスクに毎秒40メガ~50メガビットの速度で送信するなど、専門医が車両内にいる医師をサポートするのに必要な情報をリアルタイムに伝送。円滑なDtoDが可能であることを確認するなどの成果を得た。

「モバイルSCOT(R)」のシステムイメージ。5G対応デバイスを介して、戦略デスクにいる熟練した専門医と移動診療車を結ぶことで、専門医不足や医療過疎などの問題解消が期待できる

「例えば、医療過疎の場所に5Gを中継するバックホールを積載した移動診療車が向かえば、そこに光ファイバーの先端がなくても戦略デスクに向けてさまざまな情報発信が可能です。テレビの放送局は各県各都市にはあっても、それこそ岬の突端や山の頂上にはありません。ですが、中継車を持って行けばどこからでも中継できますよね? 移動診療車の考え方もこれと同じです。さらに車内には手術室も備えられているので、専門医のいる環境が整った病院まで運ぶ必要がなく、より迅速に適切な医療が開始できます」

続けて南田氏は、戦略デスクにモビリティーを持たせる優位性についても言及した。

「5G環境下で戦略デスクにアクセスできるPCを持ち歩いていれば、専門医のいる場所をモバイル戦略デスク化できます。さらに『SCOT(R)』は手術内容の全てをレコーディングしています。そのため、途中で助けが必要になった場合、連絡を受けた専門医が外出先で戦略デスクにアクセスして追っかけ再生をすれば、最初から参加していなくても手術の経過を全て確認した上で正しくサポートできるのです。もしも、これがテレビ中継をしているだけだとしたら、状況を把握するまでにかかる時間やコミュニケーションで、ものすごいエネルギーが必要になるでしょう」

手術室や戦略デスクにモビリティー性を持たせることで、場所や時間にとらわれない自由かつ安全な医療の提供に期待できる5G医療。

実用化されれば、高度医療従事者不足による医師の負担増や、地域による医療格差といった社会問題解決に向けて大きく前進するだろう。

後編では、患者側のメリットや5G医療の実用化に向けた課題について詳しく聞く。



<2021年4月19日(月)配信の【後編】に続く>
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