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鉄道や不動産に続く新たな柱に! 小田急が“ごみ問題”に取り組む意図とは?

小田急電鉄株式会社 デジタル事業創造部 課長 ウェイストマネジメント事業 WOOMS 共創プランナー 技術士(環境部門) 米山麗

小田急電鉄株式会社は現在、「小田急グループ カーボンニュートラル2050」に基づいてCO2排出量の実質「0」を目指している。一方で、脱炭素に向けた世の中全体の動向をビジネスチャンスと捉え、今までにない事業創出に挑戦することで、鉄道や不動産に次ぐ新たなインフラ事業を確立したいと考えている。その一つとして期待されるウェイストマネジメント事業「WOOMS」について、デジタル事業創造部 課長の米山麗氏に話を伺った。

地域社会とともに成長する企業のあるべき姿とは

小田急グループは、「へらそう作戦(省エネ)」「かえよう作戦(電化・水素化)」「つくろう作戦(再エネ)」の3本柱で脱炭素を目指す「小田急グループ カーボンニュートラル2050」を推進しているが、これらはあくまでもグループ内を対象とした施策であり、どちらかといえば“守り”の取り組みと言える。

これに対して、企業としてはより対外的な“攻め”の取り組みも求められるところだろう。攻めの取り組みを始めるに当たり、小田急電鉄 デジタル事業創造部 課長の米山麗氏が重要なポイントとして挙げたのは、運輸業界全体の課題とそれに対する危機感であった。

「鉄道を含めた運輸業界全体の課題として、沿線人口の減少や高齢化、人手不足などが挙げられます。人口減少については、幸いにも関東はまだピークを越えたばかりで現状は横ばいですが、今後の減少は避けられない状況です。そのようなトレンドがある中で、弊社としては鉄道や不動産に比肩するような新事業を“新たな領域”で育てていく必要があると痛感していました」

そこで小田急電鉄は、2018年ごろから中期経営戦略や長期ビジョンに「新規事業の創出」を打ち出し、経営戦略部がその取り組みを推進。現在は2023年4月に新設された「デジタル事業創造部」が、新規事業の拡大・成長の推進を継承している。

ただし、新規事業といってもただ単に新しいことや面白いことを始めればいいというものではない。小田急電鉄としては、沿線地域が将来的に暮らしやすく豊かな地域であり続けるために、社会課題や環境課題の解決を軸にして新規事業の創出を検討。試行錯誤を重ねて2021年9月からスタートしたのが、ごみの収集・排出や資源循環をサポートするウェイストマネジメント事業「WOOMS(ウームス)」であった。

デジタル事業創造部 課長でウェイストマネジメント事業「WOOMS」を手掛ける米山氏によれば、小田急電鉄は持続可能な地域づくりにおいて「沿線地域の社会課題や環境課題を解決しながらビジネスを創出していくことが不可欠である」と考えたそうだ

「“ごみ”という点だけに注目すると、小田急にとっては『畑違いの領域では?』と感じる人もいるでしょう。しかし、小売りや流通なども手掛けている弊社が廃棄物に対して“何も対応していない”ということに、われわれとしては逆に違和感を持ちました。モノを売るからには、そこから出てくる廃棄物や資源にまで着目し、廃棄物を適正に処理して資源の再利用・循環を可能にするための仕組みをきちんと構築することが、地域社会とともに成長していく企業のあるべき姿だと考えたわけです」

ごみ収集車の運搬回数を減らしてCO2削減に寄与

「“ごみ”のない世界へ。Beyond Waste」を事業ビジョンに掲げるWOOMSは、資源・廃棄物に関わる自治体と事業者を対象としたサービスである。

具体的には、家庭ごみの集積所の位置情報やごみ収集業務に関するデータを見える化し、ごみ収集を最適化するシステムを提供。また、ごみ収集車にタブレット端末を搭載してもらうことで、収集車同士がお互いの収集状況をリアルタイムに確認・連携し合える環境を構築する。これにより、例えば「遅れが生じている収集車を余力のある別の収集車が支援することが可能となり、さらなる効率化が実現されます」と米山氏は説明する。

WOOMSでは、テクノロジーを活用した収集から事務業務までの効率化を支援する「収集・排出サポート」と、効率化による余力を活用し、資源循環を高める施策を提供する「資源循環サポート」で構成するソリューションを提供している

画像提供:小田急電鉄株式会社

収集時の連携イメージ。収集車に搭載したタブレット端末にアプリケーション「WOOMS App」がインストールされており、ネット上の管理ポータルシステムとやりとりすることで各車両の状況をリアルタイムに共有し、迅速なごみ収集の連携を実現している

画像提供:小田急電鉄株式会社

WOOMSの実績としては、神奈川県座間市の事例が挙げられる。座間市のごみ収集に関する2021年度の実績を見てみると、2019年度比で収集車の平均積載量は11.6%増加し、運搬回数は16.3%削減できたそうだ。

「座間市はごみ処理場が片道30分(往復60分)もかかるほど遠方にあります。そのため、運搬回数が16.3%減らせたということは、それに応じた燃料やCO₂排出量を削減できたことが、分かりやすいダイレクトな効果だと言えます」

座間市では、2020年8月からWOOMSの実証実験をスタート。当初は一部の収集車のみで運用していたが、2021年1月から全収集車に範囲を広げる形で本格導入に踏み切った

画像提供:小田急電鉄株式会社

これに加えて、「運搬回数は16.3%削減できた」ということは、その分の人手や収集車に余力ができたことを意味する。

そこで座間市では、WOOMSによって生まれたその余力を活用し、リサイクル可能な剪定枝を燃えるごみの日に定期回収する仕組みを構築。これにより、剪定枝のリサイクル量は2021年度で725.3トン増加したほか、焼却処理量は6%削減(2019年度比)できたという。

「WOOMSの導入は、座間市以外でも広まりつつあります。例えば、相模原市で実証実験が始まっています。また、沿線外の地域からの問い合わせも増えており、名古屋市では剪定枝の収集を効率化する目的でWOOMSを活用いただいています」

WOOMSでは廃棄物収集のためのインフラ提供だけにとどまらず、「環境教育」などの啓発イベントもサポートしている

画像提供:小田急電鉄株式会社

第二のWOOMS を生み出して事業の柱をより強固に

WOOMSに関する新たな取り組みとしては、排出事業者向けサービス「WOOMS Connect(ウームス コネクト)」を2023年5月に始動させた。環境コンサルティングや廃棄物アウトソーシング業務などを手掛ける株式会社トラスト&フォーサイトと協力して行うサービスで、廃棄物の資源化に寄与する診断とその実行を支援する。

前出のWOOMSが廃棄物の収集に関わる自治体や事業者を対象としているのに対し、WOOMS Connectは「レストランをはじめとする飲食店やスーパーといった小売店など、ごみを排出する側の事業者を対象としている点が大きな特徴です」と米山氏は補足する。

具体的な内容としては、ごみを排出する事業者から廃棄物の量や品目、処理状況などの情報を提供してもらい、それらを分析・可視化(見える化)して調査・検証結果のフィードバックまでを無料で提供する。またフィードバック後には、改善に関する方向性の提示や、リサイクル率を高める施策の立案・実行の支援などを有料で対応する。例えば、資源ごみのリサイクルを1店舗で行うのではなく周辺の複数店舗と協力し合い、共同回収などによって費用の削減や効率化を実現するといったイメージだ。

WOOMS Connectでは、「見える化調査」「見える化検証」「調査・検証結果報告」の3ステップで、約3カ月かけて資源・廃棄物処理業務の診断を行う。しかも、この診断は無料で対応してもらうことが可能だ

画像提供:小田急電鉄株式会社

「外食産業の場合、『食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律』(通称:食品リサイクル法)では、2024年度までのリサイクル率50%の達成が目標値として示されています。また、ごみの収集事業者も物流の『2024年問題』(※)で人手不足が叫ばれています。これらに対しては効率化のニーズが高く、早急なシステム化も望まれているので、その対応にも急ぎ取り組んでいるところです」

※2024年4月以降に順次施行される「働き方改革関連法」によってトラックドライバーの時間外労働時間が制限されるため、それによって生じるさまざまな問題のこと

小田急電鉄としては、WOOMSのようにデジタル技術を活用した社会課題解決型ビジネスを「デジタル事業」と位置付け、鉄道や不動産に比肩するような事業の柱になることを期待している。その意味で、WOOMSはまさに大黒柱となり得るような存在だ。

「とはいえ、現状はまだ満足できるものではなく、この事業の柱をさらに太く強くしていく必要があると感じています。そのため、現在は『第二のを生み出す』ことをキーワードに掲げ、さらなる新事業の創出に邁進しています」

守りの取り組みで自社のカーボンニュートラル実現を推進するとともに、攻めの取り組みで地域の社会課題解決や循環型社会の実現も目指す小田急電鉄。異業種の他社や沿線外の自治体との連携も進めるなど、共創の広がりにも取り組み始めた同社の動きに今後も目が離せない。

今回のプロジェクトをわかりやすく紹介した動画

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