1. TOP
  2. NEXT100年ビジネス
  3. ニチレイフーズが90%ものCO2削減に成功した冷凍炒飯の秘密
NEXT100年ビジネス

ニチレイフーズが90%ものCO2削減に成功した冷凍炒飯の秘密

株式会社ニチレイフーズ サステナビリティ推進部長 佐藤友信【後編】

現代社会が直面している課題である食品ロスを減らす上で、冷凍食品が大きな役割を果たせるかもしれない。前編ではそんな可能性と、地球温暖化対策に有効な自然冷媒への取り組みを株式会社ニチレイフーズ サステナビリティ推進部長の佐藤友信氏に聞いた。後編では目下、同社が取り組んでいるエネルギー削減、クリーンエネルギーへの転換事例などを紹介する。

製造工程を見直し、エネルギー効率を向上

食べたいと思ったタイミングで、食べたい量をスピーディーに調達できる。自宅で調理するのが難しい、あるいは調理するのが面倒な料理も手軽に食べられる。そんな現代人のニーズに応えられる特性を備えているからこそ、冷凍食品は大きく市場を伸ばしてきた。

「ブイヨンは自社の工場で素材選びからこだわり、鶏ガラ、玉ねぎ、セロリ、人参などの香味野菜からじっくり旨味を抽出しています。その製造工程では家庭やレストランと同じような方法で調理し、アクも人の手で丁寧に取り除きます。ニチレイフーズでは、現在では多くの工程を自動化していますが、一人分の料理を丁寧につくるのと同じ思いで、できたてのおいしさを閉じ込めています」と株式会社ニチレイフーズ サステナビリティ推進部長の佐藤友信氏は語る。

だからこそ現代の冷凍食品はおいしいのだ。しかし、調理や冷凍、製品の運搬に大きなエネルギーを要することは想像に難くない。

※【前編の記事】冷凍食品の常識を変える! ニチレイフーズが挑む食品ロスへの取り組み

「新工場ではAIが生産計画を立案しています。現場の管理もコックピットと呼ばれる部屋で行うなど働く人の負担も少なくなっています」と佐藤氏

2023年、ニチレイグループは新たなブランドステートメントとして「おいしさと健康をわかちあえる世界へ─Food Joy Equity(R)─」を掲げた。これは食品ロス低減に寄与できる冷凍食品の価値を社会課題の解決に生かしていきたいという同社の思いだ。

その上で、さらに脱炭素化などにも積極的に取り組み、地球にも優しい会社でありたいというメッセージがこのブランドステートメントには込められている。

ニチレイフーズがグループ会社の株式会社キューレイ(福岡県宗像市)敷地内に昨年新設した米飯専用工場を前編で少し紹介したが、この工場はブランドステートメントを体現する環境配慮型の最新鋭工場だ。再生可能エネルギーによる発電やエネルギー低減に寄与する新技術が数多く採り入れられている。

その一つが業務用炒飯を作る際の直火炒めライン。長年、鉄鍋を使って直火で炒める昔ながらの製法で作られてきた。

「プロの味を冷凍食品で再現するには、直火でなければ難しいものです。しかし直火は熱が逃げやすく、エネルギー効率が悪いという面があります。そのため今回の新工場では、直火とIHを併用することで、直火ならではの味を残しながら、IHでエネルギー効率を高めることに成功しました」(佐藤氏)

新工場で作る業務用炒飯では、鉄鍋を用いた直火とIHを組み合わせてハイブリッド加熱する調理法が採用された

結果、この工程でのCO2排出率を従来比50%にまで削減している。

前編で紹介した「こげ」の発生も抑えることができ、食品ロス低減にも効果があったそうだ。

地球だけでなく働く人にも優しい工場に

エネルギー低減という点では、冷凍設備の個別空調化も貢献している。当然だが、冷凍食品を作る上で調理後に冷凍する瞬間はもちろん、最終的な包装工程でも低温環境を保たねばならない。従来は部屋単位で区切って冷やしていたが、それでは効率が悪くエネルギー損失が大きい。

そこで新工場では包装ラインの周りだけをカバーで覆い、その内部だけを冷やす方式に変更した。冷やす範囲を限定することで、冷凍にかかるエネルギーを大幅に低減する狙いだ。このような技術が可能になったのもオートメーション化が進み、包装工程で人の手を介す必要がなくなったからといえる。

包装ラインを取り囲む個別空調のトンネル。つまり、この工程では人の手を介さないということだ

もちろん新工場では再エネも積極的に導入されている。工場屋上には太陽光パネルが敷き詰められ、照明など一部の電力を自家発電で賄うことができるようになった。

「冷凍食品の製造工程では、非常に多くの電力を消費します。敷地内での太陽光発電だけでは足りませんが、この工場では系統電力にも100%再エネを採用しました。さらに加熱に使うボイラーの燃料も従来の重油から、CO2排出量の少ない天然ガスへと切り替えました。エネルギー管理をより綿密に行うなどの工夫を重ねていった結果、この工場で主に生産される業務用の『特撰中華直火炒めチャーハン』1食当たりに換算したときのCO2排出量を約90%も抑制することができたのです」と佐藤氏は誇らしげに語る。

冷凍食品工場では電力だけでなく、ボイラーでの加熱に頼るシーンも多い。新工場ではボイラーの燃料が重油から天然ガスへと切り替えられた

エネルギーを低減することは、当然コストの低減にもつながるだろう。さらに人的エネルギーの低減、労働負荷の軽減、ひいては生産管理の高度化といった効果ももたらすことは自明の理だ。

この工場では、米飯工場新設前の旧工場と比較して米飯の生産量を4倍にも増やしながら、従業員数は1.3倍程度に増えただけだという。

「新工場は地球に優しく、食べる人に優しいのはもちろん、従業員の負担や事故を減らして『働く人にも優しい工場にしよう』というコンセプトで造られました。もちろん、これで完璧というわけではなく、次の工場を造るときには新たな知見や技術が増え、より良い工場が造れるようになっていると期待しています」

食糧危機を打開する強い産業へ

ここまで脱炭素化など地球規模の社会課題に対するニチレイフーズの取り組みを紹介してきた。その一方で、同社では「フードバンク」を介した児童養護施設などの施設への寄付、小学校での食育など地道な活動を2000年代前半から続けてきた。

「フードバンク」はブロークン(箱がつぶれて市場に流通できなくなったもの)などを食品メーカー等から受け入れ、必要としている施設などに配給する活動のことで、ニチレイフーズは日本の大手冷凍食品会社として初めてフードバンク活動に参加した企業でもある。

同グループ内で物流事業を統括するニチレイロジグループの協力も得て、日本国内にあるさまざまな施設へと冷凍食品を直接配送してきた。

「冷凍食品は低温下で輸送しなければならないため、物流会社の協力がないと寄付が難しい現実があります。当社はグループ内にニチレイロジグループを有していたことで、いち早く寄付活動に参加することができました」

食品ロスを減らし、貧困や飢餓などの課題解決にも貢献できる冷凍食品──。

人口増加や地球環境の変化に伴う世界的な食糧危機への打開策としても期待されている。

最後に環境問題に対する冷凍食品の可能性を佐藤氏に聞いた。

「当社の前身であるニチレイは『戦後の食糧難で苦しむ人々に、新鮮な食材を安定的に届けたい』という強い思いから民間企業としての事業をスタートさせた経緯があります。その後、日本では製品を冷凍したまま輸送し、保管できるコールドチェーンが発展し、各家庭に冷凍庫があるのは当然になりました。しかし、世界に目を向けると、安定的な電力網など冷凍食品を流通させるためのインフラが整っていない国はまだまだたくさんあります。そうした課題さえ解決できたなら、冷凍食品が今後起こり得る食糧問題にも対応できる、強い産業になれると確信しています」

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterでフォローしよう

この記事をシェア

  • Facebook
  • Twitter
  • はてぶ!
  • LINE
  1. TOP
  2. NEXT100年ビジネス
  3. ニチレイフーズが90%ものCO2削減に成功した冷凍炒飯の秘密