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2024.10.21
ヒルズの電力を“畑”で生み出す!? 営農型太陽光発電とは
森ビルが始めた再エネ電力&農作物が結び付ける地域と都市の新しい関係づくり
六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズなど、東京の大規模都市再開発およびその運営を担う森ビル株式会社。同社は2023年度から、北関東をメーンに複数地域にて農業と太陽光発電を同時に行う「営農型太陽光発電所」の開発を推進している。都市づくりのトップランナーともいえる同社が、なぜ東京ではなく、発電事業に、そして農業に取り組み始めたのか──。今回は森ビル株式会社 都市開発本部 計画企画部 環境推進部の宮臺(みやだい)信一郎氏に、この取り組みから森ビルが見据える未来について話を聞いた。
着想のルーツは「立体緑園都市」
1986(昭和61)年、それまでオフィスビル単体の開発が中心だった森ビルは、東京都港区赤坂にオフィス、住宅、ホテル、コンサートホールなどで構成された複合施設「アークヒルズ」を完成させた。宮臺氏は「この都市再開発から続く同社の都市づくりの思想に、今回の取り組みへと連なるルーツがあるのかもしれない」と言う。
「アークヒルズは、森ビルが多彩な都市機能を高度に複合させたコンパクトシティを実現した初の事例です。このとき『都市にもっと人が関われる緑を』という着想から、建物を超高層化することで生まれたスペースや建物の屋上を利用して、都市緑化を図りました。これは『Vertical Garden City(立体緑園都市)』という森ビルが理想とする都市づくりの形で、緑化、エネルギー利用の合理化などによる都市の低炭素化、資源循環など、環境への配慮を実現します。今でいうサステナビリティへの取り組みを、早くも推進していたのです」
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「Vertical Garden City」イメージ。「さまざまな都市機能を集約させエネルギーの効率化を図るとともに、建物の超高層化により生まれたスペースを緑化することで、都市と自然の共生を推進しています」(宮臺氏)
資料提供:森ビル株式会社
2022年7月、森ビルはサステナビリティという社会要請に部署横断的に取り組む社内体制を整え、サステナビリティ委員会を設置。宮臺氏は、所属している環境推進部とサステナビリティ委員会事務局を兼務する形で環境分野に取り組むミッションを担った。
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森ビルの温室効果ガス排出量削減の中長期目標。2019年度の総CO2排出量68万4000tのうち、ガス、熱、発電由来のCO2を2030年度までに50%、間接排出分は30%削減を目指す
資料提供:森ビル株式会社
「サステナビリティにおける課題の内、喫緊の対応が求められるのが脱炭素化です。当社グループでは2023年2月時点で、ヒルズクラスの物件を中心に国内の電力需要の約7割を再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来の電力へ切り替え、現在さらなる推進を図っています。しかし、再エネ電力を外部供給だけに依存するのは中長期的な再エネ電力の確保にリスクが残ります。そこで当社としては、自社で再エネ電源に投資し、所有することへ考え方を一つグレードアップさせるに至りました」
こうして宮臺氏は自社独自の再エネ電力の確保に向けたプロジェクトに取り組む。最初に着目したのは太陽光発電だったが、開発面において壁が立ちはだかった。
「日本の国土の約7割が森林です。太陽光発電所を新たに開発しようとすると森林の伐採を伴うケースが多く、山地においては土砂災害につながってしまったニュースも目の当たりにしました。これらは、森ビルの思想から逸脱するものになります。そうして、どうしたものか悩んでいたときに知ったのが“営農型”という発想でした」
営農型発電で荒廃農地の活用、地域貢献を両立
宮臺氏は、数々の商談の中で太陽光発電の開発を担う株式会社エコ革(栃木県佐野市)と巡り合い、営農型太陽光発電所の存在を知る。
「互いの課題や目指す姿を相談する中で、太陽光発電の開発事業者であるエコ革さんがその子会社で農業法人であるエコ革ファームさんと連携し、営農型太陽光発電を模索されていると知り、私たちが目指したい環境配慮型の取り組みと合致しました。エコ革さんの担当者とはそれ以外のさまざまな面でも意気投合し『ぜひ一緒にチャレンジしましょう!』と申し入れました」
営農型太陽光発電は農地に支柱を立て、その上部空間に太陽光パネルを設置し、営農を継続しながら発電を行う事業だ。農作物の販売収入に加え、発電電力の自家利用や売電などにより農業の経営改善が期待できる取り組みとして、農林水産省でも農業事業者向けへの支援に取り組み、実証でも成果が報告されている。
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エコ革が福島県二本松市に施工した営農型太陽光発電所の様子。太陽光パネルが支柱に斜度をつけて支えられ、耕作地にも日光が十分当たる。トラクターなどの通行も問題なく可能だ
画像提供:二本松営農ソーラー株式会社
「実施には農業委員会の農地の一時転用許可が必要です。農地を休耕させたまま発電のみを行い利益を出すなど制度の悪用を防ぐため、農地の一時転用許可は原則3年間ごとに更新していく必要があります。更新にあたっては、周辺の耕作地と同等程度の農作物の収穫高を維持し続けることも要件となっています。これは、逆に言えば最短3年間で投資した太陽光発電設備を撤去しなければならないリスクがあるとも言え、普及のハードルになっているのかもしれません。ただ、当社はエコ革ファームさんの全般的な協力もあり進みだした状況です」
2023年時点で、森ビルはエコ革、エコ革ファームとの協業により茨城県筑西市、群馬県桐生市、栃木県栃木市、埼玉県幸手市の関東4エリア6サイトの農地を選定。2024年2月、プロジェクトの第1弾として「森ビル筑西市桑山営農型太陽光発電所」の運用を開始した。
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森ビル筑西市桑山営農型太陽光発電所は敷地面積約1.9ha、年間発電量は約280万kWh(一般家庭670世帯分*)が見込まれ、発電された電力は虎ノ門ヒルズ 森タワーに供給される *環境省「令和3年度家庭部門のCO2排出実態統計調査資料編(確報値)」世帯あたり消費電力量全国平均値4,175kWhより試算
画像提供:森ビル株式会社
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発電された電力は、一般の電力系統を介し需要家へ供給する「オフサイトPPA」方式で虎ノ門ヒルズ森タワーに届けられる ※図中のPV=太陽光発電
資料提供:森ビル株式会社
「北関東は日射強度が高く、十分な発電量が見込まれるほか、系統電線に接続可能な地点が存在する利点もありました。農地は、主に高齢化や後継者問題により荒廃リスクを抱える地権者からエコ革ファームさんが購入し、当社がその地上をお借りする形をとっています。地権者の方も自治体へのご説明の際も、最初は『どうして東京の森ビルが?』『本当?』と一様に驚かれましたが、地権者や近隣の方、行政の関係者一人一人へご説明し、ご納得や応援をいただくとともに良好な関係を築けました」
また、宮臺氏は「その地域に協力をいただく以上、地域のためになる、喜んでもらえるものをお返ししたい」という考えから、筑西市と防災協定を締結。発電所を地域防災に役立ててもらう体制も整えた。
「地域が台風や地震、自然災害などによる停電に見舞われた際は、筑西市さんの判断で、発電所の一部電力を地域の皆さんに利用いただけるようにしています。近年、豪雨や雷、竜巻なども頻発しており、停電が起こりやすく、また長期化する可能性もあり、万が一の際にとても意義のあるものだと感じています」
再エネ電気と農作物が結ぶ、都市と地方の新しい結び付き
森ビル筑西市桑山営農型太陽光発電所の農地では、エコ革ファームのスタッフがさまざまな農作物の収穫に挑戦している。
「現在は、冬に小麦を植えて夏に収穫、収穫後はすぐ大豆を作付けする二毛作にチャレンジしています。農地の一部では、需要が増えつつあるアシタバなども試験栽培中で、作物の生育状況などを見ながら適宜修正を加え、生産量や質の安定を目指し、認可の更新を行っていきます」
地域と都心間の“人的な交流”も考えている。
「例えば、ここで採れた農作物、またはその加工品をヒルズで開催しているマルシェで販売したり、当社の物件の都心就業者などを対象に、ご家族や親子で地域に赴き、収穫体験できる機会を設け、『この畑で農作物も、ヒルズの電気も作られています』といった環境教育の機会を実現させたりしたいと考えています。地域にとってはその地域の魅力を都心の人に伝える機会にもなります。電気と農作物をきっかけに、都市と地域の好循環、新しい関係性が今後広がっていくのではないでしょうか」
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「営農型太陽光発電所という安定継続にハードルのある事業への挑戦だったため、社内の理解を得るためにエコ革ファームさんの畑にも足を運び、実現性を何度も確認しました」(宮臺氏)
森ビルでは2024年度内にもさらなる営農型発電所の本格運転を開始させる予定だ。また、筑西市の事例をメディアなどで知った地方議員や農家の方からの直接の問い合わせもあるという。
「営農型太陽光発電所は発電と農業を両立させるため、支柱の立て方、日当たりや水はけ、土壌への配慮、トラクターといった作業機械の使いやすさなどテクニカルな工夫が随所に施され、結果的に農作業しやすい環境が整えられています。太陽光パネルが日よけになって、農家の皆さんの作業環境を快適にする効果もあったりします。そうした場を整え直すことで、地域のシニア雇用などを促進し、体力的な負担を軽減しながら生き生きと働き続けられる社会も実現できればと思います」
森ビルは現在、営農型太陽光発電所の開発と並行して、青森県における陸上風力発電所の開発の検討も進めており、こちらでも同様に、地域の産業の発展、人の交流などに貢献できる方法を模索している。
「青森でも地権者の皆さんへのご説明に回っていますが『東京の会社がどうして?』と同様に驚かれます。こちらでも営農型太陽光発電のように、地元の皆さんに寄り添いながら地域と都市の新しい結び付きや、事業を通じて農山漁村の発展が実現できたらと思います」
「立体緑園都市」という同社が理想とする都市モデルから始まった森ビルのサステナブル推進への取り組み。
その経験と蓄積は、都市と地域の新たな好循環を生み出そうとしている。
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text:EMIRA編集部 photo:島本絵梨佳
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