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2025.3.17
タカラトミーの“変形型ロボット”が月面で大活躍!
おもちゃの技術を融合! 「SORA-Q」が次世代に託すもの
2024年1月、日本初の月面着陸に成功した変形型月面ロボット「LEV-2(Lunar Excursion Vehicle 2)」、愛称「SORA-Q(ソラキュー)」。国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ソニーグループ株式会社、同志社大学と共に開発に携わった株式会社タカラトミーは、同年に創業100周年を迎えた老舗トイメーカーだ。同社はいかに宇宙開発と結び付き、プロジェクトを経てどんな未来を見据えているのか。SORA-Qプロジェクトリーダー、事業統括本部メディア戦略室D2C・CX戦略部の赤木謙介氏に伺った。
公募から始まった、おもちゃの技術と宇宙探査ロボットの融合
2025年2月、内閣府主催「第7回日本オープンイノベーション大賞」で、「SORA-Q」プロジェクトが最高賞の内閣総理大臣賞を受賞した。
この賞は、組織の壁を越えて知識や技術、経営資源を組み合わせ、新しい取り組みを推進するオープンイノベーションの優れた事例を表彰するもので、同プロジェクトはタカラトミーら4者によって成し遂げられた。
表彰式に臨んだ赤木氏も「皆さんと共に進めてきたものを評価いただいたことが光栄で、とても感謝しています」と話す。
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2025年2月、第7回日本オープンイノベーション大賞表彰式で表彰を受けた「SORA-Q」プロジェクトの4者(JAXA、タカラトミー、ソニーグループ、同志社大学)の各代表
画像提供:タカラトミー
赤木氏は「機械工学、宇宙工学などを学んだ社員で結成された開発チームは、それぞれの分野から意見を出し合い、玩具の柔軟な発想を組み合わせていきました」と振り返る。
では、そもそも同社は未知の領域である宇宙に対峙(たいじ)する研究開発に、どのような経緯で参加したのか──。
「2015年の秋ごろ、JAXA『宇宙探査イノベーションハブ』のサイトを目にしたのが始まりです。宇宙探査関連の公募情報の中で、『小型ロボット技術 制御技術』という研究課題に目が留まりました。宇宙空間で活動できる“昆虫型の小型ロボット”の開発を目指した課題内容に、私たちがおもちゃで培った技術が生かせるのではないかと思い付きました」
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「SORA-Q」の1/1スケールモデル「SORA-Q Flagship Model」を前に話す赤木氏。現在は「タカラトミーモール」、SNSなどオウンドメディアの運営を統括。「SORA-Q」プロジェクトにも継続して携わり、全国へ出前授業で足を運ぶ日々を送っている
この着想を当時の開発部門の責任者が「JAXAとの共同研究なら、何かおもしろいことができるのでは」と前向きに受け止め応募。JAXAからも好意的に受け入れられ、翌2016年4月より共同研究がスタートした。
おもちゃで培った変形、走行技術で月面探査を実現
共同研究が始まると、JAXA側からは「小型(サイズは小さいほど良い)」「軽量(300g以下)」「撮影機能」など、ロボットに求めるさまざまな課題が挙げられ、タカラトミーがその一つ一つの研究開発に取り組んだ。
「JAXAからは『おもちゃの技術をどんどん取り入れてください』という要望をいただき、私どももおもちゃのギミックや技術を自由に提案しました。そうして課題を解決するためのやりとりを繰り返す中で、『この技術で、こんな役割が担えるのでは』と小型ロボットのビジョンが固まっていきました」
共同研究には2019年にソニーグループ、2021年に同志社大学が加わり、試行錯誤を繰り返す。そうして研究は、直径78mmの球形、重さ228gほどの変形型月面ロボット「SORA-Q」完成に結実する。
「SORA-Q」には、タカラトミーのブランド商品「トランスフォーマー」や「ZOIDS(ゾイド)」で磨いたギミックが投入されている。
「『SORA-Q』は球形で放出され、月面に着陸すると球形の外殻が左右へ拡張し、内側からカメラ内蔵の頭部が展開します。さらに、テール状のスタビライザーを伸ばし外殻を車輪とする走行モードに変形しますが、この拡張変形には『トランスフォーマー』に代表される拡張変形ギミックが応用されました」
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「SORA-Q」は球状で月面着陸後、両輪やテール、頭部を引き出すように変形。「トランスフォーマー」に代表される変形技術が応用された
画像提供:タカラトミー
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「SORA-Q」の走行モードは、バタフライ(左)とクロール(右)の2通り。さまざまな方向に倒れても正位置に復帰、15~30度の傾斜地を登坂できる。走行には「ZOIDS」に採用されたギミックも応用された
画像提供:タカラトミー
おもちゃ開発と探査ロボット開発では、完成までのプロセスが大きく異なり「開発スタッフにとって新鮮な経験でした」と赤木氏は振り返る。
「おもちゃは通常、1年~1年半の期間で試作を2~3回行って量産化するのが慣例となっています。ですが『SORA-Q』は20回以上試作して、研究開始から月面着陸まで8年ほどを費やしました。未知の世界、月面を走行させるわけですから、より慎重な検討・試作が繰り返し行われました。ですので、ユニークなギミックをより安価に実現させビジネスを成立させてきた私どもの技術は、コストを抑えて研究・試作を繰り返せる点でも宇宙開発との相性が良かったと言えます」
「SORA-Q」が次世代に託すもの。トイメーカーとしてのこれから
2024年1月20日、「SORA-Q」は着陸機「SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)」による月面着陸成功と共に月面へ着陸し、世界初の完全自律ロボットによる月面探査に成功。世界最小・最軽量の月面探査ロボットとなった。
同年5月、タカラトミーは「私たちにも新鮮な体験」(赤木氏)となった宇宙開発の魅力を、これからの宇宙開発を担う次世代に広める活動を開始する。「SORA-Q」の1/1スケールモデル「SORA-Q Flagship Model」を教育などで活用してくれる博物館、美術館、学校を「SORA-Q Thank You アンバサダー」として募集した。
「本企画の一環として、子どもたちに『SORA-Q』の開発ストーリーやメカニズム解説を行う出張授業を、各地の小中学校や施設を巡り行っています。子どもたちには『SORA-Q』の話をした後、『満月の日に着地地点が見えるので、ぜひ夜空を観察してみてください』と話しています。すると後日、学校の先生やイベント運営者から『子どもたちと着地場所を見ました』という報告をいただくことがあります。『SORA-Q』をきっかけに宇宙への興味関心を育んでもらっていることを実感し、非常にやりがいを感じています」
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2024年9月、新潟市立岡方第二小学校で実施された特別授業とアンバサダー任命式の様子。「『SORA-Q』での挑戦を伝えることが、子どもたちの夢と希望、未来を創り出す力を育むきっかけになることを期待しています」(赤木氏)
画像提供:タカラトミー
タカラトミーにとって、創業100 周年という節目はおもちゃの技術が偉業の一翼を担い、企業としてトイメーカーの枠を超える記念すべき年となった。
「『SORA-Qプロジェクト』を通して、おもちゃ開発で培った技術の活用の幅が、社会貢献、課題解決に広がる可能性を大きく実感しました。当社は100年に亘り、遊びで人を楽しませて笑顔になってもらう技術を突き詰めてきました。その姿勢が異なる分野にも通用するまでに磨かれていたと知りました。101年目の2025年も、さまざまな活動を通して、会社としての価値を高めたいと思います」
赤木氏はこの一年を「新しいおもちゃを楽しんでもらうように、宇宙の魅力を伝えることができ、会社も私も大きな学びを得ることができました」と振り返る。
アソビの追求から育まれたテクノロジーが、今後、第2、第3の「SORA-Q」となるイノベーションを生み出す日もそう遠くなさそうだ。
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text/photo:EMIRA編集部
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