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“食と農業の未来”の共創。クボタが「KUBOTA AGRI FRONT」で得た新たな可能性

株式会社クボタ KESG推進部 北海道ボールパーク推進課 野上哲也【後編】

プロ野球・北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)が新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO(以下、エスコンフィールド)」を中心に、“次世代を担う青少年の育成”と“持続的に成長するまちづくり”をテーマに誕生させた「北海道ボールパークFビレッジ(以下、Fビレッジ)」。クボタはFビレッジ内で農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT(以下、アグリフロント)」を運営。「“食と農業”の未来を志向する仲間づくりの場」としての役割を担う本施設は、実際どのような情報発信、そして地域との連携を進めているのか。引き続き、同社KESG推進部 北海道ボールパーク推進課の野上哲也課長に聞く。

子どもたちが農業を経営視点でシミュレーション

アグリフロントは没入型映像空間で動画を鑑賞するTHEATER、農業経営シミュレーションゲームを体験するFIELD、最先端アグリテックによる作物栽培のプロセスを間近で見学できるTECH LABなどから構成され、見学を通じて食と農業への関心を深めることができる。

特にTECH LABは、「これだけ多くのアグリテックが一堂に会し 且つ 一般の方が自由に見学出来る施設は、恐らくアグリフロントだけでは」とアグリフロント運営担当の野上氏は話す。

※【前編の記事】クボタが北海道のボールパークに農業学習施設を開設した狙い

TECH LABでは、完全閉鎖型植物工場、自動防除ロボット、自動施肥・潅水装置、統合環境制御装置などさまざまなアグリテックを導入し、リーフレタスやイチゴ、アスパラガス、トマトなどを栽培。「施設内で収穫した作物は地産地消を目的として、併設するCAFEでの提供のほか、Fビレッジ内の飲食・宿泊事業者様などにご利用いただいています」(野上氏)

画像提供:株式会社クボタ

見学後は、施設内のCAFEでこだわり食材のメニューを味わうのもおすすめだ。

POTAGE GARDENではさまざまな花、ハーブ、果樹を栽培。露地栽培エリアでは、隣接するキッズラボ ボールパークこども園向けの食育活動も実施している。収穫された農作物は併接するCAFEのメニューとしても使用。CAFEでは道産のお米や農作物を使用したメニューを用意する

画像提供:株式会社クボタ

見学に際し、来館者は「AGRI FRONTコース(所要時間:約30分)」、「AGRI QUESTコース(同:約80分」のいずれかのツアープログラムに参加し施設を巡る。

「AGRI FRONTコースは約30分で施設を周ることができ、エスコンフィールドでの観戦前やショッピングの合間、または新千歳空港にも近い立地ですのでフライトの前後など気軽に訪れていただくのに適しています。AGRI QUESTコースでは施設見学に加えて『AGRI QUEST』というゲームを体験していただきます」

「AGRI QUEST」は参加者一人一人が農場経営者となり、最大5チームで農業経営に取り組むシミュレーションゲームだ。各チームは最大8名で構成され、メンバーで議論してさまざまな経営判断を行い、実際の農業経営のように突然のトラブルやチャンスに影響も受けながら5年間の経営を体験する。社会科見学や修学旅行で訪れた子どもたちをメインターゲットに据え、最大40名、おおよそ1クラス単位で参加できる環境としている。

「AGRI QUEST」は「何を・どんな生産方法で作り」「どこに売り」「どんな仲間と協力するか」などの設問に、チームで議論し、どう判断するか(選択肢)を決定。食と農業のつながりを考えながら、「つくる、売る、食べる」のバランスを整えながらサステナブルな農業経営を目指す

画像提供:株式会社クボタ

「経営判断に応じ経済力、販売力、社会貢献力、チーム力の4つの指標に基づくポイントが算出・加算され、5年間の総合ポイントが最も高いチームの勝利となります。ですが、このゲームの目的は順位を競うことだけではありません。

例えば、スマート農業で大規模に経営して食品加工業者に販売するチーム、こだわり農業で小規模に経営して有名シェフが営むレストランに販売するチーム、社会貢献活動や従業員教育を重視するチームといったように、経営判断次第でさまざまな成長の方向性があります。

そうした“農業の多様性”を楽しみながら学んでもらうことを、私たちは最も大切にしています。そして経営判断をチームで決めることで、いろいろな考えを持つ仲間と協力することの意義を伝えたいとも思っています」

2023年6月、北広島市内6校の小学生たちが「AGRI QUEST」を初体験。初めて会う他校の児童とチームを組み、相談しながら経営判断するゲームは仲間づくりの機会にもなった

画像提供:株式会社クボタ

競合よりも価値を高め合う地域連携を模索

「AGRI QUEST」は農業経営を通じて農業の面白さと多様性を楽しく学ぶ機会を創出している。

しかし、クボタなら農作業体験、子どもたちが土に触れ農作物を収穫できる場で学んでもらう、そんな選択肢もあったのではないだろうか。

この疑問に野上氏は「農業が基幹産業の北海道だからこそ、その選択はありませんでした」と答える。

「北海道では大企業から個人の農家さんまで、実にさまざまな農作業を体験できる場があります。後発であるクボタはそういった皆さまと競合することは、地域密着の施設を運営する上で絶対あってはなりません。それよりもお互いの施設で異なる視点で農業に触れてもらい体験価値を高めることと相乗効果を発揮することを目指しました。実際、開設から2年間、周辺の皆さまとの連携を推進してきました」

アグリフロントから車で10分ほどの場所には、ホクレン農業協同組合連合会(以下、ホクレン)が運営する食と農のふれあいファーム「くるるの杜」がある。2024年8月、両者はスペシャルツアーを共催している。

「参加者はまず、くるるの杜で土の感触を体感しながら新ジャガイモを収穫。その後アグリフロントに移動し収穫したての新ジャガイモをランチで食し、午後は施設見学でスマート農業について学びます。一日を通して食と農業の魅力に幅広く触れていただきました」

2024年8月、ホクレンが運営する「くるるの杜」と連携したイベントの様子。参加者は汗をかきながら、土に触れ、収穫作業を体験した

画像提供:株式会社クボタ

ファイターズの親会社、日本ハム株式会社とも連携。同社による食育出前授業をアグリフロントで開催、北広島市生涯学習振興会の協力で親子や地域住民を招待し、施設見学も実施された

画像提供:株式会社クボタ

企業の他にも、地元の教育分野との連携にも積極的に取り組んでいる。

「北海道大学(以下、北大)との『スマート農業体験イベント』は大変好評で、2年連続で実施しました。アグリフロントと約20km離れた札幌市内の北大スマート農業教育センターを5G回線ネットワークで結び、農場内のトラクターをアグリフロントから子どもたちに遠隔操縦体験してもらいました。子どもたちがこのような体験をできる機会は、このイベントしかないのではと思います」

2024年のトラクタ遠隔操縦体験の様子。小学4年~中学3年の児童・生徒と保護者20組が参加。「子どもたちはドキドキしながら操縦体験を楽しみ、保護者からは『本当に参加できてよかった』とお声をいただきます」(野上氏)

画像提供:株式会社クボタ

2024年より道内の公立高校で唯一の食物調理科単科校である北海道三笠高校との連携を開始。同校調理部の生徒たちと施設内CAFEのメニューを共同開発し、日本ハムの鶏肉「桜姫(R)」の唐揚げを使用したレタスバーガーを完成。エスコンフィールドでのプロ野球開催日限定で販売されている

画像提供:株式会社クボタ

この他にも酪農学園大学や星槎道都大学、岩見沢農業高校など地域の教育機関と連携。

「それぞれの学校から『学校の授業では体験できない学びの機会となっている』と感謝のお言葉をいただいています」と野上氏は笑顔で話す。

アグリフロントを起点としてクボタの地域の仲間づくりが、着実に広がっている。

農家、学校からの反響を得て、さらなる挑戦へ

開設から約2年。地域との連携を積極的に進めるアグリフロントは、順調に来館者数を伸ばしている。

「開業から2年間でのご来館者数は、およそ15万5千人 。道内からのご来場が中心ですが、全国各地からも多くの方に訪れていただいています。内訳は学校団体、農業関係者、一般来館者がそれぞれ3割前後といった構成です」

「全国各地から農家さんがアグリフロントを訪れていただきますが、『こういう施設をよく造ってくれた』とお褒めの言葉をいただくことが定期的にあります。こうした農家の方のお声・感謝は本当にうれしく、励みになります」(野上氏)

画像提供:株式会社クボタ

アグリフロントでは、今後も最先端のスマート農業技術の展示・情報発信、教育機関との連携強化などを推進、また、地域に親しまれる施設となるための一助として「さまざまな社会貢献活動も実施しています」と野上氏は話す。

社会貢献活動の一環として、北広島市内のこども食堂へのリーフレタス寄贈、および 食育講座、キッズラボ ボールパークこども園向けの食育活動を実施

画像提供:株式会社クボタ

2024年9月、「KUBOTA presents AGRI WEEK in F VILLAGE」を11日間にわたり開催。Fビレッジ全体でワークショップやマルシェなど「食」と「学び」の催しも行われた

画像提供:株式会社クボタ

「イベントは種類も機会も2年間で着実に広がり、その動きに伴いご友人やご家族を連れて再び来館していただくリピーターも増えています」

リピーター傾向は子どもたちを引率する学校の反響にも表れている。

「社会科見学や修学旅行などで初めて来館していただいた学校から、その場で来年のご予約をいただくこともあります」と、野上氏は笑顔を見せる。

「私たちの取り組みが学校教育に活用できると認識していただけた結果だと思っています。開業以降、毎年ご来館いただく学校団体も多くあり、ご来館校数も確実に増加しており手応えを感じています」

アグリフロントを訪れた子どもたちが、食と農業の未来を開拓する──。

クボタが北の大地でまいた種が、芽吹きつつある。

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