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2025.9.24
日本の鉄道イノベーションの地・高輪でJR東日本が挑む“NEXT100年”を見据えたまちづくり
東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット マネージャー 天内義也(あまない よしや)【前編】
2025年3月27日にまちびらきを迎えた東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)によるエキマチ一体の街「TAKANAWA GATEWAY CITY」。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」として位置付けられた国内最大規模の開発プロジェクトはどのように始動し、どんな特徴を持っているのか──。同社マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニットマネージャーの天内義也氏に、100年先を見据えた未来都市の誕生背景、概要などを聞いた。
構想20年、初めて挑む独自のまちづくり
1987(昭和62)年の日本国有鉄道(国鉄)民営化により誕生したJR東日本では、これまで渋谷、横浜、品川、新宿など首都圏主要ターミナル駅改築に伴うランドマーク開発に、建設会社や他の鉄道会社と共に参画。鉄道事業にとどまらぬ「まちづくり」を積極的に行ってきた。
そうした中で誕生した「TAKANAWA GATEWAY CITY」(東京都港区)は、品川開発プロジェクトの一環で、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」としてビジネス・文化が生まれ続けるまちづくりに取り組んでいる。

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TAKANAWA GATEWAY CITY全景(イメージ)。現在、THE LINKPILLAR 1と高輪ゲートウェイ駅が開業。THE LINKPILLAR 2、MoN Takanawa: The Museum of Narratives(モン タカナワ:ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)、TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCEと棟周辺エリアは2026年春に開業予定
資料提供:東日本旅客鉄道株式会社
2010年より開発プロジェクトに携わる天内氏は、「(TAKANAWA GATEWAY CITYの)構想は20年以上前からあり、実際にまちづくり構想として始動したのが2009年でした」と説明する。
「JR東日本では民営化による業務効率化の一環として、品川車両基地の機能を郊外へ分散、車両運用の効率化が検討されていました。そのために2008年に上野東京ラインを着工させ(2015年開業)、南北の主要路線の車両運用を共通・一体化しました。その後、移転した車両基地跡地の区画整理事業、高輪ゲートウェイ駅をはじめとするインフラ基盤が誕生、その周辺で建物計画が進み、TAKANAWA GATEWAY CITYが誕生しました」

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2025年3月27日に開催された「TAKANAWA GATEWAY CITY」まちびらきセレモニー
画像提供:東日本旅客鉄道株式会社
新駅を中心としたまちづくりは、これまでにも幕張新都心(海浜幕張駅・幕張豊砂駅/いずれも京葉線)、さいたま新都心(さいたま新都心駅/京浜東北線・宇都宮線<東北本線>・高崎線)などの前例がある。
「それら大抵のケースは行政主導のまちづくりで、駅が所在する区や市の方々と話し合い開発を進めてきました。ですが今回はJR東日本の敷地の再開発、当社初となる単独でのまちづくりプロジェクト。ホテルやオフィスビル、不動産事業も展開してきてはいましたが、何もない敷地でゼロからのまちづくりは前例のないチャレンジになりました」
TAKANAWA GATEWAY CITYの前身、品川車両基地は1872(明治5)年に国内で初めて鉄道が走った地でもある。
「まちづくりを進める中、『高輪築堤』※という遺構が出土しました。これは当時、東京湾の浅瀬だったこの地に鉄道を走らせるために造られました。いわば150年以上前にイノベーションが起きた地で、次の100年に継承されるビジネス・生活の拠点を創出し、地域の歴史的な価値向上に努めてまいりたいという思いでプロジェクトを進めてきました」
※1872年、鉄道開通の際、東京湾の約2.7kmの浅瀬に建造された堤
まち全体で独自の情報ネットワークを構築、ビジネスに活用
JR東日本は、TAKANAWA GATEWAY CITYが「『100年先の心豊かなくらしのための実験場』として機能するために、何が必要か? 何ができるのか?」を社内で検討。そして、日本の鉄道インフラを支え続けた企業の総力をもって、未来志向のさまざまなシステムをこのまちに導入した。
その一つが、まち独自の情報サービス「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」だ。

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TAKANAWA INNOVATION PLATFORMはJR東日本とKDDI株式会社が開発。「TAKANAWA GATEWAY URBAN OS」にまちや鉄道のデータを集約、そのデータを TAKANAWA GATEWAY CITYアプリやロボットプラットフォームで活用する
資料提供:東日本旅客鉄道株式会社
「TAKANAWA GATEWAY CITYは大規模なオフィスビル、レジデンスなど4棟とその周辺エリアで構成され、建物の間には道路も敷設されます。通常のまちづくりでは、4棟のネットワーク網は道路、公道により物理的に遮断されるでしょう。ですが、今回は建物も道路もJR東日本の所有地にゼロから造ることで、道路下にネットワーク網を走らせ、4棟の情報ネットワークの一元管理を実現しています」
4棟の情報ネットワークがTAKANAWA INNOVATION PLATFORMで一元管理されることで、まちを訪れる人はどのような利便性を享受できるのだろうか。
「例えば、デリバリーロボットが4棟間の各棟のエレベーターを利用、往復する際、通常なら各棟、管理会社ごとにロボットとエレベーターのOSを一台ずつひも付ける必要があります。それを4棟のネットワークと結ばれたロボットプラットフォームを介することで、一度のひも付けで4棟全てのエレベーターと連携できるようになります」

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TAKANAWA GATEWAY CITYはロボットによるフードデリバリーも実施。スマートフォンで注文した商品をロボットが指定の場所まで運び、オフィス内で昼食などを配送する
画像提供:東日本旅客鉄道株式会社
データ活用によるまちの設備面のメンテナンス、セキュリティーの効率化とコスト減は、昨今の働き手不足へのデジタルテクノロジーによる解消策に結び付く。また、まちを訪れる人の流れを分析・予測し、まちのテナントが活用することも想定されている。
「まちの防犯カメラやIoTセンサーを活用し人流解析情報を‟見える化”“することで、まちの現在の混雑状況の把握の他、将来の混雑予測も可能です。アプリを介しイベント情報を入力すれば、イベントの混雑による流動変化が分かりますので、ショップやレストランはデータ活用により販売計画を効率的に立てられるようになります」

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「TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ」はJR東日本のICカード「Suica」との連携、生成 AIによる情報提供を行い、利用者の興味・関心に合った情報をタイムリーに提供する
資料提供:東日本旅客鉄道株式会社
まち全体が、再生可能エネルギープラントとして機能
TAKANAWA INNOVATION PLATFORMは、まちで利用されるエネルギーを無駄なく供給し、最適な運用を行うためのデータ収集も想定して開発されている。そして、そのエネルギー供給に鉄道会社ならではのノウハウが生かされている点も特徴だろう。
「TAKANAWA GATEWAY CITYへは、当社の電力事業で発電した電力を鉄道事業の電力網から供給しています。電気は3方向の電力網からまちへ送られますが、それら各方向でメインとバックアップの電力網を敷設しています。仮に電力供給がストップしても、ガスの供給が得られれば自家発電で施設の電力を維持できる緊急処置も備えました。こういった万全な体制には、鉄道事業で培われたノウハウが生かされています。ここまで堅牢な電力網を敷いたまちづくりはまれではないかと思います」
また、TAKANAWA GATEWAY CITYは JR東日本グループの環境長期目標の先導プロジェクトとして位置付けられ、まち全体のカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーの実現に向けた施策も取り入れられている。
「約10haに及ぶまち全体で、水素やバイオガス、多様な再生可能エネルギー(以下、再エネ)を活用する設備が整えられています。現在、まちのエネルギープラントは未稼働の施設もありますが、2026年春に残り3棟の開業と合わせて本格稼働、TAKANAWA INNOVATION PLATFORMの管理による需給一体のエネルギーマネジメントが実現します」

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TAKANAWA GATEWAY CITYの需給一体によるエネルギーマネジメント(イメージ)。太陽光、水素、風力、地中熱、バイオガスなどまち全体に多様な再エネ供給源を設置
資料提供:東日本旅客鉄道株式会社

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2026年春開業予定のTHE LINKPILLAR 2地下の地域冷暖房施設には、国内最大級の蓄熱槽を導入し、高効率なエネルギー供給を実現。また、建物内をゾーン別で細分化し空調設備を運転制御するシステムにより、快適性とまち全体の高度かつ最適なエネルギー利用の両立を目指す
資料提供:東日本旅客鉄道株式会社
特に水素利用では、TAKANAWA GATEWAY CITYを中心としたグリーン水素の供給(製造・充塡<じゅうてん>・運搬)の構築、水素をエネルギー源とした純水素燃料電池システムの整備など、サプライチェーンの構築に係る先進的な取り組みが進められている。

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現在、総合プラント建設事業を行う日本建設工業株式会社の施設(千葉県市原市)で、太陽光発電により製造された再エネ由来の水素吸蔵合金カセットに充塡。高輪ゲートウェイ駅まで運搬、TAKANAWA GATEWAY CITY純水素燃料電池システムへ供給。運搬時にかかるCO2もオフセットしている。「水素の大量運搬には高圧処理施設の設置が必要なため、まちでの利用はまだスモールスタートの段階ですが、国内初の取り組みとして実施されています」(天内氏)
資料提供:東日本旅客鉄道株式会社
「水素や地中熱の他にも、商業施設で生じる大量の生ごみを集めて発酵させてできたバイオガスを、2025年10月に開業する『JW マリオット・ホテル東京』のシャワー給湯の熱源に利用したりもしています。
TAKANAWA GATEWAY CITYは羽田、成田といった空の玄関口からのアクセスも良く、今後国際的なビジネス拠点としての成長も期待されますので、こうした取り組みは小さなものでも世界視点で注目を集めると考えています」

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「TAKANAWA GATEWAY CITYのプロジェクトは、新しいチャレンジの連続。ネットワーク構築もエネルギー施策もゼロからのまちづくりをずっと続けてきました」(天内氏)
ネットワーク、エネルギー、それぞれの視点から未来志向のまちづくりが成されていく──。
後編では、TAKANAWA GATEWAY CITYのさらなるテクノロジー利活用、さらには地域住民と共に取り組むまちづくり、未来へのビジョンを掘り下げていく。
<2025年9月25日(木)配信の【後編】に続く>
ロボットやドローンが働き、地域住民とクラフトビール&ハチミツを作る。テクノロジー×地域密着のまちづくり

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text:大場 徹(サンクレイオ翼) photo:下村 孝
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