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地域の人々と共に歩み、楽しむ高輪のまちづくり~ロボット、ドローンが働くまちの未来~

東日本旅客鉄道株式会社 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット マネージャー 天内義也(あまない よしや)【後編】

東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)が品川車両基地の跡地に開発したエキマチ一体のまち「TAKANAWA GATEWAY CITY」(東京都港区)。2025年3月27日のまちびらきから半年を迎えた国内最大規模の開発プロジェクト、そこで実施されたイベントやテクノロジーの導入から垣間見える「100年先の心豊かなくらしのための実験場」としての可能性、今後のビジョンとは──。引き続き、同社マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニットマネージャーの天内義也氏に話を聞いた。

多様なロボットが日常的に働く環境を整備

2020年3月、山手線・京浜東北線の品川─田町駅間に開業した高輪ゲートウェイ駅を玄関口に、約10haにわたり開発されている「TAKANAWA GATEWAY CITY」。

今年3月にまちびらきした「THE LINKPILLAR 1」、2026年春開業予定の「THE LINKPILLAR 2」、「MoN Takanawa: The Museum of Narratives(モン タカナワ:ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)」、「TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE」の4棟から成る都市は、品川車両基地跡地に建物から駅・道路などのインフラ、周辺エリアまですべてJR東日本の独自プロジェクトとして開発されている。

全街区がJR東日本とKDDI株式会社(2025年7月に本社をTHE LINKPILLAR 1内に移転)が開発したサービス「TAKANAWA INNOVATION PLATFORM」で結ばれ、街区内のテナントや訪問者は情報ネットワークの有効的な利活用、インフラコントロール&マネジメントの一括管理&効率化が可能になる。

本プロジェクトに構想段階から携わってきた天内氏は「TAKANAWA INNOVATION PLATFORMにより、敷地内のさまざまなロボット、マイクロモビリティの運用が非常にスムーズに行われます」と説明する。

「これからの大規模なまちづくりにおいて、働き手不足という昨今の状況は見逃せない問題です。建物の警備や清掃、輸送など現段階でロボットに託せる仕事は可能な限り委ねて、コスト削減や(ロボットによる)データ収集を推進することで、まちの最適な運営が行えるよう、その環境整備はプロジェクト初期から取り組んできました。

ロボットはTAKANAWA INNOVATION PLATFORMのロボットプラットフォームを介し集中管理されます。2026年春の全街区開業時には、およそ50台のロボットがまちの中で稼働する状態になります。おそらくこの規模で、ロボットが工場以外で稼働する環境は他にないのではないかと思います」

※【前編の記事】日本の鉄道イノベーションの地・高輪でJR東日本が挑む“NEXT100年”を見据えたまちづくり

TAKANAWA GATEWAY CITYでは(左から)清掃ロボット、警備ロボット、デリバリーロボットなど多様なロボットが人に代わり仕事を日常的に担っている

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

高輪ゲートシティ駅で電車を降りると、改札口から外はTAKANAWA GATEWAY CITYの広場に面し、人が自動運転モビリティで移動する姿も見られる。駅は完全にまちの一部として溶け込み、車が一切入り込まない導線が整備されている。

開放的な空間と、自然光を多く取り込み明るい雰囲気の高輪ゲートウェイ駅構内。「電車を降りた瞬間からまちのにぎわいが感じられる場所というコンセプトで設計されています。随所に木の温もりが感じさせるデザインも特徴です」(天内氏)

(C)genki / PIXTA(ピクスタ)

THE LINKPILLAR 1と高輪ゲートウェイ駅を結ぶ街路を走行する自動走行モビリティ。TAKANAWA GATEWAY CITYでは障害物を避けて運転される光景が日常的に見られる

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

「まちづくりは、やはり安全・安心が第一でなければなりません。私たちは駅を利用される方々が車と交錯することなく、街中を自由に往来できる歩行者導線の整備を重視しました。このマスタープランの発想が結果的に、ロボットや自動運転モビリティを安全に運用できる環境づくりにつながりました」

都市におけるドローンの受容性向上を目指して

人とロボットが車と交錯することなく駅とオフィス周辺を往来できるTAKANAWA GATEWAY CITYの交通導線は、そのままドローンの飛行・運用も容易な都市環境にもなった。

「JR東日本では全国的な働き手不足による地方の設備管理が課題となっています。そのため災害時の鉄道設備の被害状況確認にドローンを利用するなど、実用化を視野に入れた実証実験を積極的に実施しています。また当社は、東京都の『ドローン物流サービスの社会実装促進に係る実証プロジェクト』にも参画し、ドローン物流サービスの早期の社会実装を目指した実証実験も行ってきました。

これらの取り組みの流れとして、TAKANAWA GATEWAY CITYでは2026年春の全面開業後、道路下に敷設した街区間のエネルギー供給用配管の検査を、人ではなく小型ドローンで行います」

東京都の「ドローン物流サービスの社会実装促進に係る実証プロジェクト」でのドローン物流デモフライトの様子

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

都市圏におけるドローンの利活用について、天内氏は「社会的受容性が依然として高くないことがネック」と指摘し、TAKANAWA GATEWAY CITYでその打開に取り組んでいると説明する。

ドローンショーの現地リハーサルの様子(上下)

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

「ドローンの利活用で生活が豊かに楽しくなることを、TAKANAWA GATEWAY CITYのまちづくりを通してアピールしています。都市空間ではドローン飛行には、電磁波やWi-Fiによる電波干渉の影響、DID(Densely Inhabited District:人口集中地区)における飛行制限など特有の多くの課題があり、TAKANAWA GATEWAY CITYでは事前調査や申請などの準備を重ねて、これまでドローンショーを2回実施するなど、一般向けのイベント開催を実現しました」

2025年6月、設備点検用ドローンを活用したドローンレースを開催。JR東日本グループ、KDDIスマートドローン株式会社、ソフトバンク株式会社、東京電力ホールディングス株式会社など各企業の社員がドローン操縦の腕を競った。こうしたドローンに対する社会的受容性を高め、関心の醸成にも取り組んでいる

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

2025年8月29~31日には「『鉄道×空飛ぶクルマ』展示イベント~『陸』と『空』をつなぐ新たな移動体験~」を開催。同イベントでJR東日本が空飛ぶクルマの商用機「SKYDRIVE」1機をプレオーダーしたことが発表された(上下)

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

クラフトビール&ハチミツ作りが切り開いた地域密着の道

ロボット、ドローンの利活用など、まさしく「100年先の心豊かなくらしのための実験場」としての可能性を切り開き始めたTAKANAWA GATEWAY CITY。だが、ここまで話を聞いてきて、最も気になっていることがあった。

それは、TAKANAWA GATEWAY CITYが誕生する以前から、この高輪の地に暮らす住民の方々との関係性、コミュニケーションはどのように築かれているのかである。車両基地跡に誕生したまちとはいえ、住民にとって周辺の急激な変化に戸惑いを抱く人もいるのではないかと思うが…。

「周辺住民の皆さんには早い段階、まちびらきの4~5年前からTAKANAWA GATEWAY CITYのまちづくりに参加していただいています。その中でまちづくりへのご意見やご要望を伺う他、まちの自然を育みながら皆さんとイベントを行っています」そのイベントの一つが、高輪ゲートウェイ駅周辺の敷地で住民の方々とホップを栽培し、クラフトビールを製造するコミュニティ活動「TAKANAWA HOP WAY」だ。

2021年から始まった「TAKANAWA HOP WAY」(上)と、住民と意見交換しながら造られたクラフトビール(下)。共同作業を通して住民とのつながりの輪を広げコミュニティの活性化を目指している

画像提供:東日本旅客鉄道株式会社

「ホップ栽培とクラフトビール作りは、私がビール好きだったという理由だけで始めたわけではありません(笑)。緑豊かな新しいまちには、その緑を活動の拠点とするコミュニティがあっても良いのではないか?と考え、高輪ゲートウェイ駅の開業前後から手探りで活動を始めました。高輪ゲートウェイ駅前の工事現場の土を使って、ホップの苗木を植え、地域の皆さまと育て始めてから今年で5年目を迎えましたが、回を重ねるごとに地域の皆さんからも『今年のビールはこんな味にしたい』といったような意見が積極的に出てくるなど、皆さんとのコミュニケーションは年々深まっています。ここ数年は派生活動として、ミツバチを飼育し、ハチミツを作ったりもしています」

TAKANAWA GATEWAY CITY内にはさまざまな植生、自然も取り入れられ、ミツバチから季節ごとに咲く花の味わいを醸したハチミツを採ることもできるという。

「夏休み期間から10月にかけて、アプリを活用した『たかなわいきもの探検隊』という生態系を観察する親子向けイベントを実施しているのですが、TAKANAWA GATEWAY CITYとその周辺ではさまざまな動物や虫、花が見つかり驚きました。TAKANWA GATEWAY CITYは、高輪エリアと港南エリアの自然生態系をつなぐ役割をこれから長い時間をかけて果たしていくと思います」

「TAKANAWA GATEWAY CITYは4棟のうち、まだ1棟だけが開業した段階です。残り3棟にはヘルスケアサービス拠点や生活拠点となるレジデンスも含まれますので、まだまだ新しいテクノロジーと生活・文化、そして自然の融合から面白い未来のビジョンが見えてくるかもしれません」(天内氏)

150年前に日本で初めて鉄道が敷かれた地で、鉄道会社が地域密着で始めた、100年先を見据えたまちづくりイノベーション──。

TAKANAWA GATEWAY CITYのこれからの歩みから目が離せない。

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