
2025.12.16
水素の製造・利活用にも!「P2G」を3分解説!
余剰電力から気体燃料を製造して脱炭素化に貢献
エネルギーの注目キーワードを3分で理解! 今回のテーマは「P2G」。余剰電力を貯蔵し、熱供給や運輸部門の脱炭素化に貢献すると期待される技術とはどのようなものか。最低限知っておきたい「P2G」のポイントを解説します。
余剰電力から気体燃料を製造
P2GはPower to Gasの略で、PtGとも称される、余剰電力から気体燃料を製造する技術のことです。
近年、再生可能エネルギーの導入が拡大していますが、特に太陽光や風力などは天候によって発電電力量が変動するため、発電電力量が電力需要を上回ることがあります。余剰電力を貯蔵するため、これまでは揚水発電や蓄電池などが利用されてきました。一方、余剰電力で水を電気分解して水素を製造したり、水の電気分解で発生した水素と二酸化炭素(CO2)を化学反応させて合成メタンを製造したりすることをP2Gと言います。
なお、P2Gのプロセスで製造された合成ガスからメタノールなどの液体燃料の製造を行うことを、Power to Fuel、あるいはPower to Liquidsと呼びます。
水素製造とメタン生成
P2Gの主要な技術は水素製造とメタン生成です。
水の電気分解による水素製造には、アルカリ水電解や固体高分子(PEM)水電解などがあります。製造された水素は、熱需要の脱炭素化などに用いられることが期待されます。なお、少量であれば消費機器の熱量調整などの追加的な措置なしに天然ガスパイプラインへ注入して利用することも可能です。
また、メタン生成はサバティエ(Sabatier)反応とも呼ばれます。メタンは天然ガスの主成分であることから、合成メタンは天然ガスパイプラインへの混合が可能です。
日本のP2Gの例として、山梨県が東レ株式会社や東京電力などと共同で進める、「やまなしモデル」P2G事業が挙げられます。山梨県の米倉山電力貯蔵技術研究サイトでは、2025年10月からP2G実証施設の稼働が始まり、太陽光発電由来の電力を活用して16MWのPEM型水電解装置を用いてグリーン水素を製造しています。水素製造の最大能力は年間2,200トン、製造した水素はサントリー天然水南アルプス白州工場およびサントリー白州蒸留所の熱源などとして活用されます。
※P2G関連記事:カーボンニュートラルに立ちはだかる大きな壁。電化困難な熱需要への挑戦
今後の課題と脱炭素化への期待
P2Gの実証事業は、日本だけでなく、ドイツをはじめとする欧州でも進められてきました。P2Gの主要な技術は、変換効率の向上やコスト削減といった課題はあるものの、いずれも成熟した技術といえます。
グリーン水素を含む低炭素水素などのサプライチェーン構築に対しては、2024年10月に施行された「水素社会推進法」に基づいて「価格差に着目した支援」および「拠点整備支援」が行われることとなりました。前者は水素の国内外での製造・海外からの輸入までに適用され水素の供給量が年間1,000トンを超えること、後者は輸送・貯蔵設備を対象とし水素の供給量が年間10,000トンを超えることが求められます。支援制度は港湾部の大規模なプロジェクトには適しているものの、「やまなしモデル」のような内陸部で地産地消型の事業の支援には足りないところがあると考えられます。
また、P2Gの一形態としての「e-メタン」に着目しているのが日本のガス業界です。日本ガス協会のアクションプランでは、2050年のガス供給において水素の直接供給は数%程度とし、50~90%はe-メタンやバイオガスを海外から輸入、地産地消型の製造あるいは環境価値移転で供給することを目指しています。同時に、e-メタンの品質に関する国際的な認証制度やCO2供給源の確保など課題も残ります。
余剰電力の貯蔵や熱供給などの部門における脱炭素化において、P2Gの進展には大きな期待が寄せられています。
参考:
・柴田善朗「我が国におけるPower to Gasの可能性」(日本エネルギー経済研究所/2015年12月)
https://eneken.ieej.or.jp/data/6442.pdf
・前田建「パワーツーガス (Power to Gas)」(日立総合計画研究所)
https://www.hitachi-hri.com/research/researchreport/short/k102.html
・宮崎和也「カーボンニュートラル社会の実現に向けた『やまなしモデル』P2G事業への取り組み」(山梨県 企業局 新エネルギーシステム推進課/2024年9月25日)
https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/events/PDF/240925_3-A.pdf
・山梨県「再生可能エネルギー由来の電力で水素を製造する『やまなしモデルP2Gシステム』の実証施設が完成、サントリー天然水 南アルプス白州工場へのグリーン水素供給を開始」(2025年10月29日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000423.000078927.html
・日本ガス協会「アクションプラン2030 『ガスビジョン2050』実現に向けた具体的な取り組み」
https://www.gas.or.jp/pdf/gas-life/vision/plan2030.pdf

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