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【資源開発の未来】新たな手法、発見! CO2の資源化を加速させる早稲田大の挑戦

常温下でCO2をエネルギー資源に変える研究が砂漠を宝の山にする

世界中でCO2(二酸化炭素)を資源化する研究が進められている中、早稲田大学のある研究室が新たな可能性を見いだした。それは、CO2を常温下で資源化する手法だ。温暖化対策が急務とされる地球の環境に、この発見がどのような未来をもたらしてくれるのか。早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 応用化学科の関根泰研究室が開発を進める「触媒」をレポートする。

使って捨てていたCO2を使える形に戻す研究

「CO2=悪」。近年、CO2はそういった見方をされることが多い。

2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」で、日本を含む主要先進国が産業革命以前と比較して気温上昇を2℃未満、可能なら1.5℃に抑えるという目標を掲げたことが、その風潮を加速させたのではないだろうか。

確かに、温室効果ガスであるCO2の排出量を減らさなければ、パリ協定で定められた目標は達成できない。しかし、CO2は本当に悪なのだろうか。

その疑問に真っ向から立ち向かっているのが、早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 応用化学科の関根泰教授の研究室だ。

関根教授の研究室がある、早稲田大学 西早稲田キャンパス。早稲田大学では2007年度より理工学部が再編され、先進理工学部と基幹理工学部、創造理工学部の3つに分かれた

関根教授は、ルテニウムという金属とセリウム酸化物を触媒として、常温~100℃台という低い温度でCO2と水素を反応させ、効率よくメタンへと変換して資源化する手法を発見し、2020年1月に発表した。

メタンは都市ガスの主成分としても用いられている。つまり、CO2をエネルギーとして利用することを可能にする手法だ。

では、CO2は悪いのか、そうではないのか。関根教授はこう語る。

「CO2は善悪論で語られるべきではありません。分かりやすく例えるなら、タマネギを思い浮かべてください。タマネギはそのまま道端に捨てておくと、ごみになる。これはみんな悪だと思いますよね。でも一方で、刻んで煮込んだり、薄切りにしてサラダにしたりしておいしく食べるなら、これは善。つまり使い方の問題で、CO2もそうなんです」

CO2の存在自体が悪いのではない。確かに、ドライアイスでアイスクリームを冷やして持ち帰ったり、コーラやビールの炭酸ガスで喉越しを感じたりと、有益な使われ方もしている。

「使って最後は捨ててしまっていたCO2を、また使える形に戻しましょうという発想から進めた研究です。決して、悪いCO2を良いものに変えるといった善悪論ではありません」

触媒として用いるルテニウム(右)とセリウム酸化物(左)

脱炭素を世界が目指す中で、実はこのCO2を“炭素資源”と捉えて再利用する考え方は、「カーボンリサイクル」や「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素回収・有効利用・貯留)」という言葉で耳にすることが多くなっている。

資源化の手法としては、400℃程度の高温で水素と触媒を用いてCO2を還元するというものが一般的だった。このプロセスは「Power to Gas」(パワー・トゥ・ガス)と呼ばれており、ドイツでは既に実証試験が進められている。

しかし、関根教授が発見したのは、全く異なる手法だった。

※「脱炭素社会」について詳しくはこちら
※「CCUS」について詳しくはこちら

使いたいときに使いたいだけCO2を資源にできる

「Power to Gas」は、なぜ高温下で行われるのか。それは、低い温度の中では反応しないからだ。

「常温にCO2、水素、触媒を置いても、通常は何も起こりません。ですので、高温にして分子が動きだすのを待って反応させるというのが一般的でした。『鳴かぬなら鳴くまで待とう』と表現できるでしょう。一方、私が発見したのは『鳴かぬなら鳴かせてみせよう』とでも言うべき手法です」

そこには、関根教授が2016年に発見した「表面プロトニクス」という現象が関係している。

「『表面プロトニクス』を発見した時点で、これはCO2の資源化にも応用できるという予感はありました」という関根教授

半導体であるセリウム酸化物に弱い直流電流を流すと、常温~100℃程度の環境下であってもセリウム酸化物の表面で水素の陽イオン(プロトン)が動く。これが表面プロトニクスという現象だ。

その状態でセリウム酸化物に触媒を載せていると、動いたプロトンと触媒表面に吸着した分子がぶつかって反応が起こる。これが今回の発見の核になる。

関根教授の研究室は、この現象を利用してこれまでにもアンモニアの合成などを成功させており、今回の手法はその応用。半導体であるセリウム酸化物とルテニウムの微粒子を触媒に用いた。

セリウム酸化物(CeO2)の表面をプロトンが動き、ルテニウム(Ru)に吸着した分子と衝突。CO2と水素(4H2)がメタン(CH4)と水(2H2O)に変わる

資料提供:関根泰教授

400℃にまで温度を上げることで反応を待つ従来の手法に対し、本来なら反応しないはずの環境下で反応させる、まさに“鳴かせてみせる”手法だ。

誤解されることが多いそうだが、この手法で生まれたメタンを燃焼すれば、またCO2が発生する。つまり、今この世界に存在するCO2が消滅するのではなく、量を変えずに循環させる、ということになる。

また、従来の手法より効率が良いのかといえば、「それは使い方次第なので優劣はつけられません」と、関根教授。

実験装置の中央にある銀色の容器内に触媒を入れて直流電流を流し、CO2と水素を入れて反応を起こす

「大量のCO2を反応させて大量の資源を作る、という意味なら従来の手法の方が効率的です。ただし、従来の手法で効率化を図るとすると高温を維持するために断熱を行い、一度上げた温度が下がらないようにしなければならず、小回りは利きにくい。私が発見した手法は、使いたいときに使いたいだけCO2を資源化できる小回りの利く手法です。従来の手法との間に優劣はなく、補完し合う関係と言えるでしょう」

「従来の手法を集中型としたら、今回発見した手法は分散型として新たな選択肢を提示するものです」

小回りの利く手法は、ビルやオフィス、家庭や自動車といった小規模用途と親和性が高い。「ガスという形なら家庭でも普段から使用されているものなので、利用するのに抵抗がないと思います」と関根教授。CO2の資源化研究を推進するにあたり、必要だった「使い勝手」というピースが埋まったと言える。

これに呼応するかのように国も、エネルギー・環境分野において革新的なイノベーションを創出し、社会実装可能なコストを実現、世界に広めていくことを目標とする「革新的環境イノベーション戦略」を2020年1月に発表した。

国はその中で、「CCUS/カーボンリサイクルを見据えた低コストでのCO2分離回収」「カーボンリサイクル技術によるCO2の原燃料化など」をテーマとして掲げている。

今後10年間で研究開発に30兆円が投資されることになっており、国もCO2を新たなエネルギー資源の一つとして、そして新たな産業の柱の一つとして期待していることがうかがえる。

砂漠を資源の宝庫に!CO2が世界の問題を解決する

CO2の資源化が、今後エネルギー創出の新たな仕組みとなり、そして日本の次世代産業へと成長していくために、どのような課題が残っているのだろうか。

関根教授は、この研究には3つの柱があると語る。一つは「集めること」、もう一つが「水素を作ること」、そして最後が「燃料に変えること」だ。

「CO2を燃料に変えることは今回実現できました。しかし、それ以前の2つにはまだまだ課題があります。特に『集めること』。これには2種類あり、一つが工場や発電所から出るCO2、もう一つが大気中のCO2を集める手法です。技術は確立されているもののコストがかかるのが前者で、後者は技術も未確立でコストも膨大という状態です」

「大気中のCO2を集める方法は、今世界中の研究者が知恵を絞って研究を進めています」

社会実装されるには、まだまだ時間がかかりそうだ。しかし、と関根教授は続ける。

「逆に、大気中からCO2を集められれば、一気に状況が変わります。これは私だけではなく多くの研究者が唱えていることですが、もしその部分さえクリアできれば、サハラ砂漠を一大パワープラントにすることも可能です。太陽光パネルを設置して、発電した電気と大気中のCO2を使い、砂からシリコンを作る。そのシリコンで新たに太陽光パネルを作って、さらに発電する。これを繰り返せば、サハラ砂漠一帯を太陽光発電とCO2の資源化のためのプラントにできます」

大気中からCO2を集められるようになったら、砂漠が資源の宝庫となる可能性も。ロマンのある話だ

もしそうなれば、化石燃料の枯渇やCO2排出量削減という問題が一挙に解決できるだけではなく、アフリカの雇用創出にも貢献でき、紛争や内戦により生まれた貧富の差や難民の救済にもつながるかもしれない。さらに、そのプラントで日本の技術が使われるなら、家電や自動車に代わる、日本の新たな産業の創出にも結び付くかもしれない。

地球温暖化だけではなく、社会問題の解決策までを提示できる。CO2の資源化は、それほどのポテンシャルを秘めた研究だった。

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