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エネルギーの革新者

EMIRAビジコン最優秀賞の受賞者にインタビュー! 「食の不均衡」をエネルギーの視点で解決する方法

廃棄食品に新たな価値を創出するビジネスアイデアに込められた思い

昨年度に続き、第2回が開催された「EMIRAビジコン2021 エネルギー・インカレ」。オンラインで開催された最終審査でEMIRA最優秀賞を獲得したのは、「食の不均衡」をエネルギーの視点で解決に導きつつ、利益も上げるというビジネスアイデアだった。この廃棄食品から新たな価値を生み出すことで社会課題にアプローチする提案をした東北大学大学院「宏塾」の浦田宙明さんと長谷川就さんに、アイデアに込めた思いを詳しく聞いた。

「廃棄食品」に新たな価値を与え、ビジネスに

スーパーマーケットやコンビニエンスストアの売り場に並べられた、おにぎりや弁当。売れ残ったものが消費期限を待たずに回収されていくのを見ることも多いだろう。また家庭でも、使い切れなかった食材を渋々捨てたなんてことは、誰もが一度はあるのではないだろうか。

こういった「食品ロス」は、日本で年間約612万tも生まれている(農林水産省 平成29年度推計値より)。その一方、世界では9人に1人が栄養不足状態に陥っているというデータがある。

そうした「食の不均衡」を、エネルギーの視点から考えて解決に導こうというのが、東北大学大学院「宏塾」の浦田宙明さんと長谷川就さんが発表したビジネスアイデアの出発点だ。

「元々『食の不均衡』は倫理的な観点からも解決が求められていました。さらに、廃棄食品の焼却時に二酸化炭素を発生させてしまうこと、世界の人口増加と共に栄養不足状態の人口も増加し、食料自給率の低い日本にとって食品輸入におけるリスクが高まることなど、今では経済的にも解決しなくてはならない社会課題となっています」(浦田さん)

食品ロスは、外食や卸売・小売などの事業者と家庭から排出されるものの2種類に大きく分けられ、これら全てで前述の通り年間約612万tになるとされている。だが実際にはそれだけでなく、味には問題のない規格外品や豊作時に市場価格の下落で出荷できなくなった農作物の廃棄量も年間約193万tに上るという。これは「豊作貧乏」とも呼ばれる統計には表れない数値で、古くから問題になっている。

2人が目を付けたのは、農家で品質に問題がないのにもかかわらず廃棄されるそのような農作物だ。これらをフリーズドライで乾燥食品にし、再商品化していくアイデアだった。

廃棄農作物の乾燥食品化ビジネスモデル。フリーズドライ市場は今後も伸びていくと予測し、商品としての優位性があるという

出典:東北大学大学院「宏塾」プレゼンテーション資料より

「フリーズドライは栄養や味を損なわずに長期保存できる乾燥法です。ただ、その分生産時のエネルギー使用量も多く、コストは高い。そこで、今回の提案ではイチゴやトマトといった高価値の農作物だけに絞り、比較的コストのかからない温風乾燥を使用する形にしました」(長谷川さん)

宮城県下全域の農家約5万戸を対象に、廃棄予定の農作物をJA(農業協同組合)支部で回収する想定で試算したところ、「初期投資はクラウドファンディングを利用することになるが、年間118万円の利益が期待できる」(長谷川さん)のだという。

最終審査後にオンラインでインタビューに答えてくれた長谷川さん

食品ロス問題から導き出したアイデアは、それだけではない。もう一つ、過疎農業地域のスーパーマーケットに敷地の一部を提供してもらい、店舗で廃棄される食品を燃料にしたバイオマス発電と、使用した燃料を肥料化することを組み込んだ。

そもそもバイオマス発電のボトルネックには、資源確保の難しさや運搬コストの高さがある。こうしたエネルギー分野の課題を解消する可能性が秘められた発想にもなっているのだ。

「バイオマス発電は安定して資源を確保することが重要」とEMIRAビジコンの審査員から指摘があると、浦田さんは「スーパーマーケットと提携するので、定期的に入手できると想定しています」と自信をのぞかせた

出典:東北大学大学院「宏塾」プレゼンテーション資料より

乾燥食品同様、宮城県気仙沼市の大型スーパーマーケットを想定して試算すると、「こちらも初期投資はクラウドファンディングなどで集めるとして、年間でスーパーマーケット1店舗あたり325万円の利益が生み出せる」(浦田さん)という。

このように、ただ廃棄されていただけの農作物と食品を用い、乾燥食品、バイオマス発電、肥料として新たな価値を創出するという多面性が審査員に高く評価され、EMIRA最優秀賞を授与されることとなった。

東北大学大学院「宏塾」のアイデアは、食品ロスとエネルギーの問題をビジネスで解決していく

出典:東北大学大学院「宏塾」プレゼンテーション資料より

大学院の研究テーマである「超臨界流体」から発想

今回のビジネスアイデアの肝となるのは、保存性の高い乾燥食品によって「食の不均衡」を解消すること。では、なぜ浦田さんと長谷川さんは、この発想に至ったのか。そこには2つの大きな理由がある。

1つ目は、大学院で進めている研究テーマだ。2人は東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センター(化学工学専攻)の修士課程で学ぶ仲間で、物質の状態の一つである「超臨界流体」について研究している。以下、少し長くなるが説明しよう。

通常、物質は温度と圧力の条件によって固体、液体、気体とその姿を変える。1気圧の場合、水は気温が氷点下で氷に、0℃で溶けて水に、100℃では蒸発して水蒸気になる。

1気圧時に水(液体)と水蒸気(気体)が同時に存在する100℃という温度は、気圧が高くなればその分高温になっていくのだが、上限がある。その上限を超えた状態を超臨界状態と呼び、気体をいくら圧縮しても液体にはならない。これが、液体と気体の特徴を併せ持った「超臨界流体」だ。

臨界点を超えると、物質は超臨界流体になる。超臨界流体は固体でも液体でも気体でもないため、「第4の状態」と呼ばれることがあるそう

出典:超臨界溶媒工学研究センターHP「超臨界流体とは」より

「二酸化炭素もこの状態になります。通常の気圧や低温の条件下では気体になってしまい役には立ちませんが、超臨界流体になると有効利用ができるんです。普段は、カーボンニュートラルで回収した二酸化炭素をどのように活用して社会に還元していくかという研究をしています」(浦田さん)

超臨界流体の二酸化炭素は、液体のように別の成分を溶解し、混合物として気体のように拡散させることができる。例えば、網目状の組織を持つ物質全体に、ある有効成分を行き渡らせたいとき、有効成分を溶かした超臨界流体の二酸化炭素を物質全体に行き渡らせたところで圧力を抜けば、二酸化炭素だけが気化して有効成分だけをとどまらせることができるのだ。

こうした超臨界流体の二酸化炭素は、既に利活用の実用化も進んでいる。その中の一つに、生ものを乾燥させる「超臨界乾燥」という技術がある。

「栄養素などを残したまま乾燥させることができるので、既存技術に対して優位性のある手法です。本当はこれをそのままビジネスプランにして出したかったのですが、市場がまだ小さく、採算性がありません。そのため、今回はフリーズドライや温風乾燥に発想を膨らませていきました」(浦田さん)

研究テーマとアイデアの関連性を解説してくれた浦田さん

「環境問題をビジネスで解決したい」という思い

2つ目の理由は、それぞれの実体験にある。

長谷川さんは、茨城県古河市で生まれ育った。祖父母がその地で農業を営んでいたのだが、幼い頃、畑に大量のキャベツが廃棄されている光景が心に残っているという。

「当時は理由が分からなかったのですが、成長していくにつれて豊作だからといって全ての農作物が売れるわけではないことに気付きました」(長谷川さん)

さらに、ドイツ・ミュンヘンに研究留学していたときのことだ。

「日本の環境技術の高さを知ることができたのと同時に、それが世界に広まっているわけではないことが分かりました。経済的合理性が付与されていないからだと感じ、環境問題をいかにビジネスとして回していけるのかが大事だと考えるようになりました」(長谷川さん)

浦田さんも、AIアノテーション(AIの教師データを作る作業)の知見に触れるため1カ月ほどルワンダに滞在した際に、道端に農作物が大量に捨てられているのを目にした。

「だからといってルワンダに食べ物があふれているわけはありません。飢餓も問題になっているので、どういうことなのかと思いました。調べたところ、アフリカでは日本と違って農作物が年中収穫できるわけではなく、一度に大量に収穫しても保存しておく仕組みがない、という問題があることに気が付きました」(浦田さん)

日頃からコミュニケーションをとっていた2人が、互いに同じ問題意識を持っていることを知り、今回のビジネスアイデアにつながっていったという。

プランの中で具体的にターゲットとしたのは、地元である宮城県内の過疎農業地域だが、最終的な目標は途上国・地域に輸出することにある。世界中の「食の不均衡」を解決することが目的なのだ。ビジネスとしてだけでなく、こうした志も高く評価された要因だった。

審査員は「途上国への展開まで考えられていて、そうした考え方や戦略はビジネスで生かしていける」と、2人の今後に期待を寄せた

「普段から2人で、環境問題をいかにビジネスで解決していくのかを話してきたので、それが認められたことは非常に光栄です」(長谷川さん)

日常の中で問題意識を持って過ごし、またそれを解決しようと知恵を巡らせていたことから結実したアイデアだといえる。

最終審査のプレゼンテーションでは、画面越しでも2人が抱く問題意識の高さが伝わってきた

浦田さんはこの春から商社に勤務予定、長谷川さんは研究留学の影響で1年遅れて今まさに就職活動の真っ最中。これから社会人としての一歩を踏み出していく2人に共通するのは、社会課題をどのようにしてビジネスに落とし込み解決に近づけていくかという姿勢だ。

そしてそれは、審査員を務めた早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル(PEP)育成プログラムの林泰弘教授の「これからの電力・エネルギー系の研究者は、研究成果をいかに社会実装して世のために役立てられるか、いかにマネタイズ(収益事業化)するかという能力も求められています」という言葉に合致する。

これから浦田さんと長谷川さんが歩む道が、食やエネルギーといった分野なのかは分からない。ただ、こうして生み出されたビジネスアイデアが、2人もしくは別の誰かの手で実現し、世界が抱える課題の一つを解決に導くようになることを願ってやまない。

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