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エネルギーの革新者

EMIRAビジコン最優秀賞!「洋服の管理で環境負荷を軽減する」ビジネスとは?

洋服の「購入する」「着回す」「手放す」をアプリで管理し、行動変容へ

EMIRAが早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(以下、PEP)と共同開催した「EMIRAビジコン2023 エネルギー・インカレ」。今年、EMIRA最優秀賞を受賞したのは、洋服の購入からコーディネート、2次流通までをスマートフォンアプリで管理するビジネスアイデアだ。今回のテーマである「カーボンニュートラル×エネルギー」に対し、どのようにアプローチしていくのか。提案した大阪大学 大学院の学生チーム「ECOCLO(エコクロ)」に、詳しく聞いた。

身近な行動を変える洋服管理アプリ

今回のテーマ「カーボンニュートラル×エネルギー」は、イノベーション(変革)を「エネルギー」という視点で読み解くことで未来を考えるEMIRAのビジネスコンテストとしては「原点回帰」ともいえるテーマ設定だ。

「技術」「制度」「産業創出」「社会規範」の4つが相互作用しながら共に前に進んでいかなければ実現できない「カーボンニュートラル」の課題に対して、学生たちはさまざまなアプローチでビジネスアイデアの構築に取り組んだ。

EMIRA最優秀賞を受賞した大阪大学 大学院の学生4名によるチーム「ECOCLO」が着目したのは、生活する中で最も身近なものといってもいい衣食住の中の「衣」の課題だった。

学生が考えたアプリ「ECOCLO」のイメージ

最終審査では、リーダーを務める橘 尭志さんがプレゼンテーションを行った。アパレル業界は製造時に多大なエネルギーが必要になることや製品寿命の短さから、その環境負荷の大きさが世界的な課題となっている。橘さんは国内でもアパレルの大量生産・消費・廃棄の流れが拡大していることを指摘し、問題提起した。

それを解決するための洋服管理アプリが、「ECOCLO」の考えたビジネスアイデアだ。

「ECOCLO」は、洋服の購入時にスマホのカメラで撮影してデータを取り込むことで、クローゼットを“見える化”して管理する。すると、以降は似た服を購入してしまうといった無駄を抑制することができる。

さらに、AI(人工知能)による手持ちの服とのコーディネート提案や、クローゼットの中身を照合して今欲しい洋服の提案も行ってくれるため、着回しを促進して洋服の長寿命化を図ることもできる。

洋服の寿命が延びれば、購入の機会も減る。自ずと大量生産の抑制にもつながり、製造時のエネルギー使用が減る分だけカーボンニュートラルに近づく。

アプリで服を管理する「ECOCLO」の利用方法

機能はそれだけではない。古くなった洋服を“手放す”際には、フリマアプリとの連携を行うことで、要らなくなった洋服の2次流通も支援してくれるのだ。これで洋服の廃棄も抑えることができる。洋服の廃棄量が減れば、焼却時に使用するエネルギー量も減るため、これもカーボンニュートラルに結び付く。

さらに、SNS機能によって、環境配慮行動の共有も可能となっている。「無意識のうちに、洋服に対する行動変容を起こせる仕組みになっています」と、橘さん。

洋服の購入・管理・手放すまでをサポートする「ECOCLO」の機能

この「ECOCLO」を着想したきっかけについて、リーダーの橘さんは次のように話す。

「2050年カーボンニュートラルを実現するための2030年度目標を見ると、『産業』部門や『運輸』部門などに加え、『家庭』部門の目標も設けられています。これは企業だけではなく、一人一人の行動変容が求められることを示していると受け止めました。ただ、強制して行動を変えようとしても長続きはしません。楽しく取り組めて自然と行動変容し環境負荷を減らせるものを、と考えていったときにたどり着いたのが洋服の問題でした」

最終審査でプレゼンテーションを行った「ECOCLO」の橘さん

約9カ月かけて練り込まれたビジネスアイデア

「ECOCLO」のビジネスアイデアの完成度が高かったことには、理由がある。それは、準備に約9カ月もの期間をかけてきたことだ。

「ECOCLO」の4名が学ぶ大阪大学 大学院 工学研究科 ビジネスエンジニアリング専攻のカリキュラムの一環として、2022年5月から「カーボンニュートラル、脱炭素社会に貢献するための新ビジネスを提案する」というテーマが与えられ、検討を始めたのだ。

とはいえ、最初からすんなりと洋服管理アプリのアイデアが出てきたわけではない。

「私たち4人は、専攻は同じなのですが、元々知り合いというわけではないですし専門もそれぞれバラバラ。最初はなかなか議論が進みませんでした」

しかし、グループで活動を続ける中で、自然と役割分担が生まれていった。橘さんがリーダーとして意見を取りまとめつつ、50に及ぶビジネスアイデアを候補として列挙。決断力に優れた佐藤陸弥さんが先頭に立って「洋服管理アプリ」のアイデアを導き出し、分析が得意な永江千夏さんと道畑勝利さんが競合するアプリとの比較、分析を行っていった。

その結果、2022年夏ごろには既にほぼ現状に近いビジネスアイデアが完成していたという。

「腕試しではないのですが、2022年の夏に立命館大学が開催した学生ビジネスアイデアコンテストに応募したんです。結果は2次審査で落ちてしまったのですが、いろいろと得るものがありました」

4名で他のアイデアと比較分析した結果、「アイデア自体は横並びで負けていない」という確信を得た。ただ、「プレゼン力不足」「拡散方法」などの課題も見つかった。

大学院での1年の成果を発表するのは12月。そこに向けてブラッシュアップを始めた頃に、「EMIRAビジコン2023 エネルギー・インカレ」のテーマが発表された。

「元々EMIRAビジコンには応募するつもりでした。ただテーマ次第では少し修正する必要もあると考えていたのですが、発表されたテーマは『カーボンニュートラル×エネルギー』。まさに、自分たちが考えてきたものをそのままぶつけられると思いましたね」

課題だったプレゼン力の改善に向けて、スライド用の資料も見直した。

「それまでは大学生らしいといえばらしいのですが、1枚のスライドに文字を詰め込み過ぎているところがあり、見にくかった。それを改善しました」

文字の分量を見直すことで、ぐっと見やすくなったプレゼンテーション用の資料

もう一つの課題であった拡散力を強めるため、SNSとの連携などについても一層重要視して、アイデアを深めていった。

さらに大学院での発表直前の2022年12月には、キャンパス近くの大阪モノレール・万博記念公園駅前で、アンケート調査も行った。

「インターネットなどでいろいろな調査結果を見て、環境問題に関心のある人や、洋服選びに失敗したという人の数が多いことは分かっていました。ただ、その仮説を補強したくて、実際に自分たちでアンケートを行うことにしたんです。仮説を証明するアンケートだったので、よりアイデアに肉付けができたと思います」

2022年12月に実施したアンケートの結果。約8割の人が環境問題に関心があるという結果になった

そのかいもあって、大学院での発表も無事に終わり、教授からは人々の行動変容という着眼点と、その分析も行えている点を評価され、さらに自信を得た。そして臨んだEMIRAビジコンの最終審査でも、これ以上ない結果を得ることができた。

「夏に応募したビジコンは腕試しだったとはいえ、いざ落ちるとやはり悔しかった。今回EMIRA最優秀賞を受賞でき、最高のリベンジになりました」

プレゼンテーションをする橘さん

洋服管理アプリで起業する可能性は?

「ECOCLO」が発表した洋服管理アプリは、類似する10ものアプリを実際にインストールし、使ってみて検証、考案しただけあって、使い勝手にも優れているという印象が強い。

「UI(ユーザーインターフェース)にもこだわりました」と、橘さんは話す

今回のアイデアをベースに、スマホアプリで起業しよういう考えはあるのだろうか。

「その気持ちもあるのですが、スマホアプリの開発には収益換算をしたところ、1100万円くらいのイニシャルコストが必要になるという結果になりました。また、この春からは就職活動も始まります。4人とも専門分野が違うので、それぞれ別の企業へ就職していくことになるのかなと思います」

橘さんは、現状では今回のビジネスアイデアによる起業は難しいとしつつも、「ただし」と続ける。

「まだ学生生活は1年残っています。具体的な話し合いはこれからなのですが、『ECOCLO』の機能の一部、例えば洋服の回収と流通だけなど、何かに特化したスモールビジネスとしてやれないか考えていきたいと思っています」

「今回のビジコンがゴールと思って進めてきましたが、見えてきた課題もあります。ここで終わるのではなく、少しでも形にできたらという気持ちは4人全員が持っています」と、橘さん

スマホアプリの開発には多額の資金が必要になるため、学生が起業するにはやはり難易度が高い。しかし、機能の一部だけなら、スマホアプリの形にこだわらなければ、あるいは既存の洋服のECサイトと提携するというような形なら、実現可能かもしれない。

残された学生生活は、約1年間。「ECOCLO」の4名の今後にも期待したい。

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