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2023.12.8
モビリティ×エネルギー!EMIRAビジコン2024テーマに込められた思いとは
移動によるワクワク感を取り戻そう。今だから考えたいモビリティとエネルギー
「EMIRA」と「早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(PEP)」のタッグにより開催される学生コンテスト「EMIRAビジコン2024 エネルギー・インカレ」の開催が決まった。第5回となる今回のテーマは「モビリティ×エネルギー」。なぜこのテーマを設定したのか。テーマ設定に関わったPEPのプログラムコーディネーター・林泰弘教授に聞いた。
コロナ禍明けだからこそ、自由に「移動」して楽しめるアイデアを
2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類に変更され、コロナ禍以前のように、自由に集まったり旅行をしたりできる日常が戻ってきた。
約3年にわたって続いた人と会うこと、自由に移動することが制限された生活を、林教授は次のように振り返る。
「コロナ禍の期間中に社会のオンライン化が急速に進みました。大学の講義、仕事の打ち合わせなどもオンラインで行えるようになり便利になった半面、人と対面で会って話をすること、実際に現地に足を運ぶことの価値が改めて見直されているとも感じていました」
今回のテーマが「モビリティ×エネルギー」に決まった背景には、このことが大きく影響している。
「『モビリティ』というのは自動車やバス、電車や飛行機といった手段だけではなく、『移動』そのものも含むと考えています。自由に移動できることは、ワクワクドキドキするもの。コロナ禍になって、みんなが気付いたことです。そのワクワク感、ドキドキ感を共有できるビジネスアイデアが見たい。そう思って、今回のテーマを『モビリティ×エネルギー』に決めました」
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PEPでプログラムコーディネーターを務める林教授
ワクワク感、ドキドキ感を伴う体験は、誰もが味わってみたいもの。人々の移動が活発になれば、その分経済も動く。
しかし移動するには、自動車やバス、電車や飛行機、あるいは自転車や電動キックボードといった乗り物を動かさなければならない。そこで必要になるのがエネルギーであり、特に利用したいのが再生可能エネルギー(再エネ)だ。
ビジネスアイデアのコンテストである以上は、どのようにマネタイズできているかについても評価の対象となる。再エネをどのように、いくらで調達するかについてのアイデアも、重要なポイントになるだろう。
ただ、「最近は安価な再エネも存在します」と、林教授。例として挙げるのが、太陽光発電だ。
太陽光発電による電気が余りつつある現実
「九州エリアでは、再エネ発電所の出力制御が既に実施されています。九州エリアは太陽光発電の導入が進み、さらに日照条件も良いので、需要と供給を一致させるために、太陽光発電による余った電気を“捨てて”しまっている現状があるのです」
林教授は次のようにも語る。
「電力消費の少ない春や秋に、出力制御が行われることがあります。まだ実施していない電力会社もありますが、太陽光発電のさらなる導入が進めば同様の出力制御が行われるだろうともいわれています。この余った電力というのは、逸失利益です。逸失利益を “走る蓄電池”とも呼ばれるEVにうまく貯めて使うことができれば…。ビジネスにつながりそうですよね」
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EVの活用は温室効果ガス削減とともに、エネルギーの有効利用にも効果を発揮する
林教授がEVに注目するのには、理由がある。
2020年10月に宣言された「2050年カーボンニュートラル」。それを受けて国は翌2021年6月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表した。
その中で、自動車・蓄電池産業の今後の取り組みとして「乗用車は、2035年までに、新車販売で電動車100%を実現する」「商用車は、小型の車については、新車販売で、2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指す」という具体的な目標が設定されている。
「このことから見ても、今後街中にEVがあふれ、電動化社会が進むことは間違いありません」
太陽光発電によって生まれた電気を余さず貯めておくことができれば、逸失利益を減らすこともできるし、そもそも余るはずだった電気なので比較的リーズナブルに買うこともできる。買ってEVに貯めておいた電気を何か別のことに転用すればエネルギーの循環にもなるし、新たなビジネスにもつながる。
「私の研究室は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「スマートエネルギーマネジメントシステムの構築」に研究代表で採択されており、この太陽光発電による逸失利益を電動モビリティで利用する研究を行ってきています。九州エリアだけじゃなくて全国各地で太陽光による電気が余るような状態になってきており、電気の地産地消がより可能になってきています。スマートメーターで計測し、スマートエネルギーマネジメントシステムで管理して鉄道や路線バスを電気で走らせて、さらに循環バスやコミュニティバスもEV化すれば、移動手段についてはまったく化石燃料が必要なくなります。そういうサステナブルの社会の仕組みという意味でも、ぜひ次の若い世代に『モビリティ×エネルギー』について考えてもらいたいですね」
今回のテーマにはこのような思いも込められているが、それでも一番期待しているのはやはり冒頭でも述べた「移動することによるワクワクドキドキ」だという。
「もしコロナ禍の最中だったら、EV(電気自動車)に電気を貯めておいてレジリエンスを強化して安心感を…というようなビジネスアイデアを求めたかもしれません。もちろんそういうアイデアも歓迎なのですが、コロナ禍が過ぎ去った今思うことは、やはり移動するワクワク感、ドキドキ感を取り戻したいということです」
林教授はさらに続ける。
「例えば、太陽光発電の電気が余りやすい春と秋に、EVのバスを使った旅行キャンペーンを組んでみんなで盛り上がろうとか、EVを電源にして子どもたちも巻き込んでバザーをしようとか、あるいは電動モビリティを使っておらが町を地域おこししようとか、そういう発想でもいいと思うんです。カッチリと考え過ぎなくてもいい。ワクワクドキドキするためのアイデアを考えて、その結果EVが普及し、災害時のレジリエンスも強化されて安心感につながるという方がいいですよね」
社会貢献のためだけでは不十分で、楽しさややりがいがなければ、どんなアイデアでも普及しないのだという。
「太陽光発電の電気が多いときにいっぱい貯めておいて、その安価なエネルギーを原資に、みんなで祭りやイベントをやって盛り上がろうというような、面白い発想に期待したいですね。理系の学生だけじゃなくて、人文社会学系の学生にも、ぜひ安価なエネルギーを使ってみんなで楽しめて、さらにそれがビジネスになるようなアイデアを期待したいです。そういうのは人文社会学系の学生の皆さんこそ得意だと思いますので」
社会課題を「自分ごと」として捉え、解決に導くアイデアに期待
ただ、林教授は次のようにも呼びかけている。
「ここで話した内容に沿ったビジネスアイデアじゃないと評価されない、なんてことはありません。学生の皆さんには自由に考えてもらいたいので、アイデアに制約はできる限り付けたくないと思っています」
「移動」と言えば一言で済んでしまうが、その範囲は広い。
「例えば、駅前で見かける電動アシスト付き自転車のシェアサイクル。こういう既存のサービスを、太陽光発電で余った電気を使って、さらに普及させるためのアイデアなんていうのもいいかもしれません」
既存のサービスを、さらに普及させるためにはどうすればいいか。そういうビジネスアイデアも歓迎だという。
「また、学生たちの世代で考えると、ドローンをうまく利用したサービスなんかも面白そうですよね。ただしドローンがいい例ですが、モビリティには安全性の面から法規制や制限がかけられている面もありますので、その点は注意しつつも、あっと驚く体験を提供するアイデアを期待したいです」
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ドローンをはじめ、「電動アシスト付き自転車や電動キックボードなど近年増えつつある移動をアイデアの源泉にしてもいい」と林教授
「移動」と言っても、人だけとは限らない。
「無駄な配送を減らすという物流の観点で、ビジネスアイデアを考えてもらってもいいかもしれませんね。宅配や運送など、これから人手不足が生じる分野の課題解決のアイデアもあっていいと思います」
さらに、理系の学生ならではのビジネスアイデアも期待しているという。
「国内でEVを普及させるには、充電スタンドの充実が不可欠です。海外から視察に来た人は、日本のEVの現状を見て『こんなにEVが走っていないとは思わなかった』という感想を残すこともあります。そのくらい、日本はEVに関しては後進国。充電スタンドをどのようにすれば増やせるか、なんていう意欲的なアイデアがあるとうれしいですね」
このように、「モビリティ×エネルギー」のビジネスアイデアには、無限の可能性がある。
「ただしビジネスアイデアなので、最終的にマネタイズできるところまでは考えて応募してもらいたいですね。あえて注文を付けるとするなら、そのくらいです。大事なのは、いかに『自分ごと』として考えるか、です。自分にとって身近な社会課題を、家族や友人を巻き込んで楽しみながら解決に導いていけるようなアイデアを見たいです」
求めているのは、学生でなければ思い付かないような発想、林教授の予想と期待を超えていくビジネスアイデアだ。
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text:仁井慎治(エイトワークス) photo:野口岳彦(林教授インタビュー)
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