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2025.3.27
EMIRAビジコン最優秀賞!「下水道の魅力を伝えるカードゲーム」とは
新潟の学生たちが考案、Z世代向け「エンタメ×エネルギー」の可能性を知るきっかけづくり
「エンタメ×エネルギー」をテーマに開催された「EMIRA」と早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(以下、PEP)による「EMIRAビジコン2025 エネルギー・インカレ」。最高賞のEMIRA最優秀賞に輝いたのは、遊びながら副産物の汚泥などからエネルギーを生み出す下水道の魅力や可能性を学べるエンタメ性満載のビジネスアイデアだ。受賞した中央大学/新潟法律大学校の学生チーム「Gゼミ~下水の道をひろげる者たち~」(以下、Gゼミ)に詳細、受賞の感想を聞いた。
「水やエネルギーを生み出す」下水道事業の魅力を伝えたい
漫画やアニメ、ゲームなどサブカルチャーで世界を席巻するエンタメと、エネルギーを掛け合わせ、社会をより楽しく可能性に満ちたものに──。
そんな未来志向のテーマ「エンタメ×エネルギー」に、全国の学生らからビジネスアイデアが寄せられた。
下水道はZ世代にとって「重要性を意識したことのないもの」であり、「臭い」「暗い」「汚い」ネガティブイメージが強い。Gゼミは、そんな彼らに向け対戦型トレーディングカードゲーム(以下、TCG)「Circular economy 水deck」で、下水道の有用性・可能性を知ってもらうビジネスアイデアを企画・プレゼンし、EMIRA最優秀賞に輝いた。
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「Circular economy 水deck」の遊び方を説明するGゼミの3人
多くの人が「生活排水という廃棄物を処理する事業」と捉える下水道事業。Gゼミのメンバーも当初は同じ印象を抱いていたが、下水処理場見学をきっかけに下水道が秘める未来志向のポテンシャル、ポジティブな魅力に気付いたという。
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プレゼンでは「下水汚泥から発生するメタンからエネルギーをつくる」「下水処理水を調整し精製されるリンや窒素を含む栄養塩を海に流し、海藻などの成長を促進。CO2削減にも貢献」「下水汚泥を超高温炭化技術で炭素を固定・貯蔵し、炭素循環を遮断する研究も進行中」など、下水道からエネルギーが生まれることを強調
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アンケート結果などを基に、下水道への意識・関心が世代ごとで大きく異なる課題をプレゼン
エネルギー産業においてさまざまな課題を抱える現代、水循環だけでなく炭素循環をコントロールし、エネルギーをも創出する下水道は、未来のエネルギー事業を示唆するもの。
この結論に到達したGゼミは、下水道の魅力をZ世代にTCGというエンタメを通じて広めようと着想し「Circular economy 水deck」を制作した。下水道広報プラットホームが全国の地方公共団体と発行する「マンホールカード」が着想のヒントになった。
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「Circular economy 水deck」は、コレクターズアイテムとしての要素に加え、対戦型TCGというエンタメ性が盛り込まれている
遊び方は、リソースカードを手札に、プレーヤー同士が場から交互に課題カードを引き、3枚先取したプレーヤーが勝利というもの。ただし、カード獲得にはいくつかのルールがある。
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カードの内容は「農業用水(米)」(リソース)、「廃棄や汚染を取り除く」「高い価値で循環させる」「自然のシステムで再生」(課題)など、現実の水需要や課題とひもづいている
カードは「再生」「保存」「創造」の3つの属性に分かれ、リソースと課題の両カードが同一属性でなければ獲得できない。また、カードに付与された「資源価値」「処理コスト」などの数値が一定値を満たさなければ課題解決できず、カードを獲得できない。
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リソースカード獲得には、カードに明記された資金を満たす資金カードも必要だ
「Circular economy 水deck」は、戦略的要素によるTCGのエンタメ性と社会課題を組み合わせ「エンタメ×エネルギー」を実現。
プレゼンでは、テーマや遊び方を動画を用いてエンタメ性満載でプレゼンし、審査員のみならず、最終審査に参加した他チームにも「遊んでみたい!」というワクワク感を与えた。
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「Circular economy 水deck」は下水道事業に携わる人材獲得ツールとしての活用を目的として開発。新潟市では学生向けのエネルギー教育、市職員研修にも使用されている
Gゼミは将来的に、全国の下水道部職員と連携し拡張パックの作成を夢見ている。これは、カードの種類が増えることで、プレーヤー独自のデッキを構築するTCGの醍醐味(だいごみ)を楽しむエンタメ性の補強を促す発想でもある。
自治体限定カード、競技大会の開催など楽しみが膨らむ「Circular economy 水deck」。エンタメ要素のアイデアのみならず、 “タイパ”を気にするZ世代向けに作成した広報用のショート動画で締めたプレゼンの巧みさも高評価につながり、今回の受賞に結び付いた。
先輩たちから受け継いだ思いとアイデア、その進化は止まらない
今回、EMIRA最優秀賞を受賞したGゼミからは、中央大学/新潟法律大学校に所属する2年生の横山和輝さんと松村淑花さん、1年生の安田愛花さんの3人が代表してプレゼンに臨んだ。
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(左から)安田さん、横山さん、松村さん。中央大学と新潟法律大学校の両校で学んでいる
下水道の“G”を頭文字に掲げたGゼミは、主に新潟法律大学校で、下水道事業広報をテーマとした実践的な学びを展開している。これまでも数々のビジネスコンテストに参加・受賞など高評価を獲得している。
「小学生に『下水道って何だろう?』『生活排水をきれいにする仕組みって?』など、夏休みの自由研究教室を新潟市と一緒に開催したことが、Gゼミの始まりです。そこから、『若い世代に下水道事業に関心を持ってもらうには?』を考え、今回のアイデアが生まれました。カードには実際の社会課題に即した情報を記載し、ゲームとしても面白いものを目指し、新潟市下水道部の方々にも協力いただき検証・制作しました」(横山さん)
彼らの視点と狙いは的確だ。利用者へゲームプレー前に実施したアンケートでは、ネガティブだった下水道へのイメージは、プレー後のアンケートで全員が「好イメージに変わった」と回答したという。
今回、Gゼミが「EMIRAビジコン2025 エネルギー・インカレ」に参加したのは、「エンタメ×エネルギー」というテーマに「自分たちの活動が合致していると強く感じたから」(横山さん)と話す。
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Gゼミは2024年10月、40枚構成の「Circular economy 水deck」の制作を完了した
「このカードデッキを多くの方に知ってもらうため、さまざまなコンテストを探している中で『EMIRAビジコン2025』に出合いました。テーマのエンタメ要素はTCG、エネルギー要素は下水道発の循環エネルギーに当てはまり『よし、みんなでやるぞ!』と奮起し、ゼミ生10人で企画書やプレゼン資料を作成しました」(横山さん)
「TCGの構想自体は先輩方のゼミ1期から始まり、私たちで2期目となります。先輩方を含め、携わっていただいた皆さんの力で完成したTCGが、審査員の皆さんをはじめ、さまざまな方に評価いただけて、とてもうれしいです」(松村さん)
「下水道の素晴らしさを知った私たちの思いが、皆さんに伝わったことがとてもうれしいです。私たちは『Circular economy 水deck』を土木事業に携わる皆さんのリクルートツールとして広げようと、今まで考えていたんです。でも、今回、審査員の方々に『遊んでみたいけれど、カードを購入できるECサイトはあるの?』と尋ねられたことで、TCGとしての純粋な需要にも気付けました」(安田さん)
昨今は、下水道管の老朽化による損傷が原因のトラブルが頻発。下水道事業への注目が高まる中の受賞は、社会課題を捉える上でも重要な意味があると3人も実感し始めている。
「下水道が未整備だった時代を知る世代の方々は、道路や川から悪臭が漂っていた実体験などで下水道の重要性を理解していますが、Z世代と呼ばれる私たちの世代は、生まれたときから既に下水道が整備され、地下の下水道を直接見る機会もなく、仕組みも理解できていない人が大半です。でも、理解する機会さえあれば『下水道って大切だね』という認識が伝わると思います」(横山さん)
「タイムリーな話題でもある、下水管の老朽化が進んでいることについても伝えられたと思いますし、このカードゲームを通してさらに認識が広がったらいいなと思っています」(松村さん)
「Gゼミは、これから全国的に下水道管が寿命を迎え、交換コストが必要であることをご理解いただく意味でも、新潟市下水道部と共同で下水道広報活動を行ってきました。TCGにすると、多くの方々に下水道への興味を抱いてもらえることが分かり、もっと伝えていけたらいいなと感じました」(安田さん)
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プレゼン後、最終審査に残った他チームの学生との意見交換会ではTCGをアイデアに取り込んだGゼミの着想への感想、「私たちも遊んでみたい」といった反響も寄せられた
下水道の魅力を伝えるために精力的に活動を続けるGゼミ。今後の目標は?
「Gゼミの大目的は『廃棄物のない社会の実現』です。『Circular economy 水deck』の“水”は、下水道の水を指していますが、今後は“水”の他にもサーキュラーエコノミーに合致する題材でさまざまな展開につなげたいと思っています。そのためにも『Circular economy 水deck』の認知向上を進めたいです」(横山さん)
太陽光、風力などの“再生可能エネルギーdeck”、プラスチック製品のリサイクルをテーマにした“プラスチックdeck”など、今後さまざまなデッキがTCGにより「エンタメ×エネルギー」の可能性へと広がっていく──。
そんな未来も視野に入れて「Circular economy 水deck」を作り上げたGゼミ。
彼らが先輩たちから受け継ぎ、そして今後も多くの若者に伝えていく“下水道愛”も、人の心や社会を動かす循環型エネルギーだと実感できた。
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text & photo:EMIRA編集部
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