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2025.11.17
掛け算で“行動変容”を! EMIRAビジコン2026テーマ「ゲーム×エネルギー」への期待
エネルギーをゲームで可視化し、楽しく“自分ごと”に!
「EMIRA」と「早稲田大学パワー・エネルギー・プロフェッショナル育成プログラム(PEP)」のタッグにより、学生コンテスト「EMIRAビジコン2026 エネルギー・インカレ」が2026年2月14日(土)に開催される。第7回となる今回のテーマは「ゲーム×エネルギー」。どんなビジネスアイデアが求められているのか、テーマ選定に関わったPEPプログラムコーディネーターの林 泰弘教授と早稲田大学の下川 哲教授に聞いた。
見えないエネルギーを可視化する、ゲームの力
なぜ、エンタメからゲームなのか──。
昨年度、第6回のテーマ「エンタメ×エネルギー」は、過去最多となる205件もの応募数を記録した。その成功がありながら、今回はエンタメからゲームという、より狭義な領域に踏み込んだ。
EMIRAビジコン2026のテーマには、ゲームの要素をビジネスや教育に応用する「ゲーミフィケーション」や、遊びと学びを融合させる「エデュテインメント」といった潮流を踏まえ、エネルギーという社会課題を“自分ごと”として捉え、人々の“行動変容”につなげたいという狙いがある。

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「ゲームのほかに『スポーツ×エネルギー』なども検討しましたが、若い人たちはゲームがより身近ではと考えました。最近は『eスポーツ』という言葉も定着し、ある意味ゲームもスポーツなのかもしれませんが(笑)」(林氏)
まさに、このゲーミフィケーションや行動変容がキーワードとなる今回のテーマ。電力エネルギーを専門とする林教授は、ゲームが持つ「世代を超える力」に注目する。
「ゲームには世代を超える力があると感じました。エネルギーには『堅い、難しい、重い』といった側面がありますが、そうしたテーマこそ、ゲームを通して可視化し、仮想体験することで、学生が身近な自分ごととして捉え、ワクワクする高揚感が得られるものになると考えたのです」
一方、経済学を専門とする下川教授は、ゲームを“入り口”としての機能と文理のバランスから選んだと語る。
「若い人にエネルギービジネスに興味を持ってもらえる入り口として、前回のエンタメでの活況を踏まえ、ゲームが最適ではと考えました。他の案として教育もありましたが、それだと堅過ぎて、なかなか興味を持ってもらえないでしょう。もう一つのポイントは、文系・理系を問わず、両方の学生が興味を持てること。ゲームは、そのバランスが取れたキーワードとして最適だったのです」
2人のゲーム経験は対照的だ。林教授は学生時代、スポーツゲームやRPGに触れてきたと振り返る。一方で下川教授は、ビデオゲームはほとんどせず、トランプやボードゲームなどアナログゲームが中心だったという。
そんな両教授が共通して見いだしたのが、ゲームが持つ「見えないものを可視化する力」だ。下川教授は、その重要性をこう説く。
「エネルギーは『見えない』ものです。ゲームは現実では試せないことをシミュレーションできるバーチャルな空間で、見えないものを見えるようにするコミュニケーションツールとして非常に便利です。例えば、『もし原子力発電が使えなくなったらどうなるか』といったことは普段は考えません。しかし、ゲームを通してなら、そうした仮想的な状況を強制的に体験し、考えてもらうことが可能になります」
楽しみながら学ぶ「ゲーミフィケーション」という思考法
今回のテーマ「ゲーム×エネルギー」を深掘りする上で、両教授がキーワードとして挙げたのが「ゲーミフィケーション」という思考法だ。
下川教授は、その定義を自身の専門分野と絡めて説明する。
「ゲーミフィケーションとは、簡単に言えば『ゲームを通して動機付けをする』という意味合いを持ちます。行動経済学にも近い考え方ですが、人の行動変容のきっかけをゲームで与えるというイメージですね。突き詰めると、娯楽として楽しみながら別の何かに気付いてもらう、いわば『コミュニケーションツールとしてゲームを使う』という発想が根底にあるのです」

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「最近は、現実世界の人や場所をデジタル空間上に再現する『デジタルツイン』による研究・分析も広がっています。こうした技術は非常にゲーム的ですし、今回のテーマにも活用できるかもしれません」(下川氏)
林教授も、この言葉が持つ力に同意する。
「ゲームと聞くと、単なる遊びや、熱中し過ぎて(学業をおろそかにするなど)時間を浪費してしまうといったマイナスのイメージを持つ方もいるかもしれませんが、『ゲーミフィケーション』と表現することで、ゲームの良さを生かし、行動変容や新たな機会を提供するというパラダイムシフトが起きます。いい言葉ですよね。エネルギー分野でも、街の発電所を操作し、失敗するとブラックアウトが起きるゲームがあり、安定供給や需給バランスを仮想体験で学べます。これは非常に意義深いことだと感じました」
この「ゲーミフィケーション」は、既に国内にも存在する。下川教授は、資源エネルギー庁が提供する「電力バランスゲーム~町に電気をとどけよう~」を例に挙げる。
「1日の電力消費をコントロールするシミュレーションゲームが既に存在します。非常に面白く、かつ難易度が高い。例えば、『CO2削減のために火力をゼロにし、全てを再生可能エネルギーにする』と、天候に左右される中で安定供給を続けることがいかに難しいかが分かります。調整役としての火力がいかに必要かという現実を学べる。応募する学生には、まずこうした既存のゲームを研究することも推奨します」(下川氏)

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国内では既に『マインクラフト』とエネルギー教育を組み合わせた取り組みを進める自治体が存在する。こうした既存のアイデアの研究、差別化も重要だ(画像は京都府亀岡市が取り組む、マインクラフトを活用した「エネクラ IN かめおか」より)
評価のカギは「足し算」でなく「掛け算」
では、今回のビジコンで学生にどのようなアイデアを望むのか。下川教授はアイデアを練る上で、まず明確にすべきことがあると指摘する。
「やみくもにゲームのアイデアを練るのではなく、まず『何を、誰に伝えたいのか』を明確にすべきです。例えば、小学生にエネルギー問題を伝えることと、家庭に太陽光発電の設置を促すことでは、最適なゲームデザインは全く異なります。その目的とターゲットが定まって初めて、デザインを考えられる。なぜなら、審査の基準はそのアイデアがターゲットに届きそうか否かであり、私たちが審査員として個人的に面白いか、面白くないかだけで判断するわけではないということです」
林教授も、あくまでビジネスコンテストである点を強調する。
「アイデアがビジネスにつながるかどうかが重要になります。エネルギー課題の解決のために、『誰が、どのような目的でそれを使うのか』を明確にしてほしい。審査員が『本当にやってみたい』『そのアイデアを使いたい』と感じるような、熱意ある提案に期待します」
そして、審査における最も重要なキーワードとして、下川教授は「掛け算」を挙げた。
「テーマが『ゲーム×エネルギー』である、つまり『掛け算』になっている点を強く意識してください。エネルギーとゲーム、両方の要素が高くなければ、掛け算の成果は大きくなりません。片方の要素がゼロに近ければ、もう片方がどれほど優れていても、総合評価は低くなってしまいます」
この掛け算の意識が、単なるゲームコンテストとの違いを生む。下川教授は、その具体例を続ける。
「たとえゲームとして非常に面白くても、その9割がエネルギー問題と無関係で、最後の10%で申し訳程度に触れるだけといったアイデアは評価が高くなりません。エネルギーの社会課題に向き合っている人もゲームに引き込まれ、ゲーム好きがエネルギー問題に目覚めるような、両方の要素をバランスよく満たすもの。それが私たちの求める掛け算のアイデアです」
林教授は、前回のビジコンで最優秀賞を受賞したカードゲームに触れ、釘を刺す。

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「EMIRAビジコン2025」では、中央大学/新潟法律大学校の学生チームがカードゲーム「Circular economy 水deck」のビジネスアイデアで最優秀賞に輝いた
photo:中村実香
「前回の最優秀賞に輝いた『Circular economy 水deck』は非常に素晴らしいアイデアでした。それを見て、『今回もカードゲームのアイデアで!』という発想は安易かもしれません。審査員としては、それとは異なる新しい発想を期待してしまいますね」(林氏)
ビジコン自体も、回を重ねるごとに進化していると林教授は言う。初期の啓蒙型で堅いアイデアから、学生が自分ごととして捉えたスタートアップに近い提案が増えてきた。
「ビジコン自体が進化しているからこそ、私たち審査員も進化しなくてはなりません。今の学生は、私たちより企画力も発想も柔らかい。ただ、一つ釘を刺しておきたいのは、AIに頼ったアイデアは困るということです。『ビジコンで優勝するためのコンセプトを、林と下川の好みも踏まえて作って』とAIに頼めば、それらしいものはでき上がるでしょう。ですが、私たちは『AIが作ったものかどうか』をしっかり見ています。AIには生み出せない、ゼロからイチを生み出す、皆さん自身の頭で考え抜いたオリジナルのアイデアに期待しています」(林氏)
求められるのは、ゲームとの掛け算で、エネルギーをもっと身近なもの、一人一人の行動変容につなげ、サステナブルな社会に貢献するビジネスアイデア──。
若く、ゲームに慣れ親しむ学生たちならではの発想で、ぜひチャレンジしてみてほしい。

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text:阿部裕華(コーク) edit:大場 徹(サンクレイオ翼) photo:小泉 佳
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