2019.6.26
減災への手助けに! 自然エネルギーで発電・蓄電する次世代備蓄倉庫が販売開始
陸海空での運搬に対応可能! 最強のモビリティ性能で被災地への運び入れも容易な新しい備蓄倉庫のカタチ
予測不可能な自然災害に対し、いま注目を集めている「減災」というワード。災害時に起こる被害を最小限にとどめるため、企業や自治体などでさまざまな取り組みが行われている。そんな中、大阪に本社を構える軸受(ベアリング)製造企業・NTN株式会社(以下、NTN)が開発した、新しいコンセプトの備蓄倉庫が話題だ。自然エネルギーを使って発電・蓄電ができることに加え、被災地への運び入れを格段に容易にしたという。これまでの備蓄倉庫のイメージを一変させる新たな試みを紹介する。
INDEX
備蓄倉庫が半永久的に使える発電装置へ
水48L、米4kg、カセットコンロとボンベ12本──。
これらが意味する数字にピンとくるだろうか?
これは、農林水産省が作成した「緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド」に掲載されている家庭での食品備蓄例。大人2人、1週間の自宅避難を想定した数字であり、ここに缶詰やカップ麺、菓子類などをプラスして備蓄することを推奨している。
一方で、自宅以外で災害が発生したことを想定し、都道府県単位、市区町村単位での備蓄も進められている。
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自治体で設置している防災備蓄倉庫の一例。日常生活において目にすることは少ないが、自宅や職場周辺の設置場所は把握しておきたい
(C)イグのマスタ / PIXTA(ピクスタ)
東京都豊島区を例にすると、区内に備蓄倉庫を6カ所設置。帰宅困難者を含む罹災者1日分の食料(2日目以降は東京都が確保)として、アルファ米を約2.7万食、クラッカー・ビスケットを約9.3万食分常備している。
消防庁「地方防災行政の現況」によると、平成30年4月1日現在の防災用備蓄倉庫は全国で3万9758台。年々増加傾向にあるものの、人口1万人当たりわずか3台の計算となる。
これには食料、もしくは防災資材のみの備蓄庫も含まれており、必要なものが足りているとは決して言い難い。また、意外と盲点なのがエネルギーの備蓄だ。
発電機を備える備蓄倉庫も普及しつつあるが、まだまだ数は少ない。また広範囲で災害が起こった際には、燃料となるガソリンや軽油を手に入れることが難しくなるため、使用できなくなるケースも考えられる。
そのような問題を打破すべく開発されたのが、コンテナ収納移動型の独立電源「N3 エヌキューブ」だ。
開発したのは、車のベアリングやドライブシャフトの製造で世界トップクラスのシェアを誇るNTN。その高い技術力を生かし、自然エネルギー事業にも力を入れる企業としても知られている。
※NTNが開発したマイクロ水車の記事はこちら
「N3 エヌキューブ」のコンセプトは、ズバリ“備蓄倉庫と自然エネルギーの融合”。鉄道輸送に用いられることが多い12フィートコンテナ(長さ3.7×幅2.4×高さ2.5m)を備蓄倉庫に改造し、そこへ風力・水力・太陽光の発電装置と蓄電池を搭載した。
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NTNが開発した「N3 エヌキューブ」。コンテナの右扉に水車、屋根部分に風車と太陽光パネルが設置されているのが分かる
自然エネルギーで発電ができることはもちろん、特に注目なのがその設置のしやすさ。
クレーン付きの4tトラックで運べるほか、貨物船やヘリコプターでの輸送にも対応している。これは、災害時に道路が寸断され、トラックが走行できなくなった場合も想定してのこと。大人2名で1時間もあれば設置可能で、場所や天気に合わせた発電を開始できる。
従来の備蓄倉庫は、災害が起こった場所の近くにないとその機能を十分に果たすことができなかった。「N3 エヌキューブ」はそういった被災地に運び入れることも想定された全く新しいタイプの備蓄倉庫なのだ。
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風車や水車、蓄電池などを搭載した状態で運搬できるため、設置から発電までの時間を短くすることに成功した
“機能性”を新たに加えたコンテナ収納移動型の独立電源だが、発電能力が気になるところ。
コンテナ内に格納された風車と水車には、同社が開発した独自のシステムを採用。風が活用できる場所、水流が活用できる場所それぞれの近くに設置することで、0.5kWと1.0kWの発電が可能だ。また、太陽光パネルには0.9kWの発電力があり、コンテナの屋根や側面、地面に直置きする。
作られた電気はコンテナ内に格納された蓄電池(8.6kWh)にためられ、ACコンセントから供給可能。さらにコンテナにはUSBポートも設置されており、1日あたり約2000台のスマートフォンに充電対応しているという。
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「N3 エヌキューブ」の活用例。半永久的に電気を使うことができるため、従来の発電機のように燃料を気にしなくて済む
もちろん従来の備蓄倉庫としての側面も持ち合わせ、コンテナ内部の棚には900食分の備蓄食が収納可能。内部に間仕切りやベンチを設置すれば、プライベート空間が確保された救護室や授乳室としても利用できる。
いざ、災害が起きてからでも、すばやく運搬・設置ができる「N3 エヌキューブ」。しかし、平時にもためた電気を防犯灯やWi-Fiルーターに利用できることを考えれば、なるべく早く、そして数多くの設置が望ましいことは想像に難くない。
販売価格は500万円(標準構成:税別)で、設置先の要望により仕様変更も可能。まずは、自治体への導入を目指していくという。
さらに、20フィートコンテナ(長さ6×幅2.4×高さ2.5m)を活用した大型の「N3 エヌキューブ」も2020年4月に販売を予定している。風車は3kW、太陽光パネルは4kWと発電容量を増やし、蓄電池も20kWhにパワーアップする見込みだ。
自然エネルギー発電を備えた新型の備蓄倉庫導入が、減災へのヒントなのかもしれない。
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text:佐藤和紀