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世界初! 透明な“エアロゲル”断熱材が間もなく製品化

火星移住から建物の窓まで! 注目度急上昇中の「エアロゲル」は、低エネルギー消費社会実現のカギになる

猛暑真っただ中。炎天下に駐車した車や、ジリジリと照りつける太陽で熱せられた部屋など、温度を下げるのに一苦労した経験を持つ人も多いのではないだろうか。近い将来、極めて高い断熱性能を持つ「エアロゲル」によってそのような問題が解決されるかもしれない。東京のスタートアップ企業・ティエムファクトリ株式会社が開発を進めているのは、エアロゲルを使った世界初の透明な断熱材。実用化・量産化が間近に迫る、メイドインジャパンの革新技術を紹介する。

エアロゲルが火星移住へのヒントに?

人類初の月面着陸から50年が経過した2019年。アポロ11号に関するドラマや関連本のリリース、ロケットや人工衛星など宇宙インフラ市場の拡大など、さまざまな企業の宇宙関連ビジネスへの参入が発表され、アメリカでは宇宙ビジネスがこれまでにない盛り上がりを見せている。

また、日本でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)の開発した探査機「はやぶさ2」が小惑星「Ryugu(リュウグウ)」に2度目のタッチダウン成功を成し遂げたのは記憶に新しいところだ。

そんな宇宙に関する話題に事欠かないことし、アメリカ・ハーバード大学のワーズワース氏が7月に発表した火星に関する論文が注目を集めている。

その論文とは、“平均気温がマイナス50℃以下の火星で、快適な温度を確保するために「エアロゲル」という物質を使用する”というものだ。

エアロゲルとは、1931年に科学者のスティーブン・キスラーによって発明された、地球上で最も軽くて断熱性の高い固体のこと。物質の90%以上が空気で構成されており、その見た目から“凍った煙”とも称されている。

直径数十ナノメートル(1ナノ=10億分の1)の無数の穴が開いているエアロゲル。物質のほとんどが気体のため、驚くほど軽い

画像提供:ティエムファクトリ株式会社

ハーバード大学が行った実験は、火星の地表を再現したところに板状、または砕いたエアロゲルを2~3cm程度敷き詰め、火星における太陽光を模した照明の光を当てて地表の温度変化を調べるというもの。

その結果、エアロゲルに覆われた部分はそれ以外と比べて50℃以上も暖められることが判明した。これは、地球で起きている温室効果の原理と非常に似ている。火星地表にある凍った二酸化炭素が太陽からの可視光線で熱を蓄積し、暖められた地表付近の温度をエアロゲルで保つという仕組みだ。

もしエアロゲルを使った農業用ハウスのようなものを作ることができれば、厳しい寒さを和らげるのはもちろん、火星に存在する氷を溶かすことも可能となる。飲み水の確保に加え、農作物を栽培できるかもしれないというとても興味深い実験結果だ。

世界初の透明な断熱材の実用化へ

火星移住のヒントになるかもしれない素材と聞くと、われわれの日常生活には関係ないもののような気がするエアロゲル。しかし、もっと身近な場所で使うための研究・開発が日本で進んでいることをご存じだろうか?

新しい取り組みに挑んでいるのは、2012年創業の素材化学系ベンチャー企業であるティエムファクトリ株式会社(以下、ティエム社)。エアロゲルを使った、世界初の透明な断熱材の量産化にチャレンジしている。
※公式HPはこちら

これまでエアロゲルの開発があまり進んでこなかった背景には、超臨界乾燥装置という非常に高価な機械を使う工程が必要なため、製品化する際に価格がどうしても高くなってしまうという問題があった。また、材料のシリカ(二酸化ケイ素)が水に弱い点、脆い点など、耐久性に疑問を持つ研究者も少なくなかった。

しかし、CO2削減や低エネルギー消費社会が叫ばれる近年になって、その高い断熱性が再注目されるようになっている。現在では海外で数十社のエアロゲル関連メーカーが設立され、一部で商品化にこぎ着けた例もあるという。

ちなみに超臨界乾燥とは、気体や液体に臨界点を超える高い温度・圧力をかけ、両方の性質を持たせた状態のもの(=超臨界流体)から液体を気体に置換(乾燥)させる技術のこと。超臨界流体の状態では表面張力が発生しなくなるため、液体の微細構造が保たれたまま乾燥できるという特性がある。

そうした中、ティエム社が京都大学の研究成果をもとに、超臨界ではなく常圧で乾かして作るエアロゲルを開発。分子構造に疎水性(撥水性)を持つ素材であり、弾力性と曲げ強度の向上も達成した。

常圧で乾かす製法の確立により、大幅なコストダウンに成功。耐久性も向上し、量産化に弾みをつけた

画像提供:ティエムファクトリ株式会社

SUFA(Super Functional Air)と名付けられたこのティエム社のエアロゲル。限りなく透明に近い素材である点も特徴的だ。800nmの状態で95~97%の可視光透過率があるため、ガラスに挟んで使えば高い断熱性を持つ窓ガラスを作成することができる。

熱伝導率は0.012-0.014W/m・K(ワット毎メートル毎ケルビン)と、一般的な断熱材としてよく使われるグラスウールの約3倍。また、密度が1cm3当たり0.11~0.12gと非常に軽い点からも、建材との相性のよさが見てとれる。

現在は、モノリスタイプと呼ばれる板状の透明断熱材SUFAの量産・商品化を目指しているティエム社。茨城県に新たなラボを設け、1000×2000mm角の大型モノリスを開発中だという。

また、モノリスタイプを粉砕してパウダー化し、同じ断熱性能を生かした複合化断熱材の開発も進行中。数mmオーダーのものはグラニュール(顆粒)とも呼ばれ、共同開発を行うYKK APが2018年に発表した「UPDATE GATE」にも採用されている。
※YKK APの未来ドアに関する記事はこちら

モノリスタイプ(左)とパウダータイプ(右)のSUFA。今後の量産化に期待がかかる

画像提供:ティエムファクトリ株式会社

グラスウールやウレタンフォームなど、これまでの断熱材は不透明なものしか存在せず、見えない部分に隠して使うのが当たり前だった。

当然、建物や自動車の窓など透明でなくてはいけない部分には断熱材を使えず、そこからの熱エネルギーの損失は膨大なものと試算されている。

もし、SUFAを搭載した窓ガラスの量産化に成功すれば、車や建物内部の冷房・暖房の効率化が図れるのは想像に難くない。

低エネルギー消費社会実現に向けて、SUFAの今後の展開から目が離せない。

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