2019.12.11
世界が注目する最新波力発電技術の秘密!
ドイツのスタートアップ企業・NEMOS社が取り組む波力発電が実用化に向けて一歩前進
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、世界初の波力発電が実用化されたのは1965(昭和40)年。なんと日本の海上保安庁によるものだったという。その後、各国による研究・開発が活発化したものの、他の再生可能エネルギーを使った発電方法と比べるといまだ発展途上の分野と位置付けられている。今回、ベルギーの海上で試験運用を開始したのは、ドイツ・NEMOS社の波力発電。これまでにない構造で挑む、新たなプロジェクトを紹介する。
INDEX
いかに波の力を発電に生かすかがカギ
太陽光や風力、水力など、ますます需要と注目度が高まりつつある再生可能エネルギー。中でも、今後に期待がかかるのが波力発電だ。
その名の通り、波の運動エネルギーを活用して電気を作るこの技術、実は今、国内外で波力発電に関する新施設の建設が予定されているという。
たとえば、2020年2月に神奈川県平塚市・平塚新港に発電施設を設置予定。これは、2016年に岩手県久慈市で日本初の波力発電施設を作った東京大学 生産技術研究所が手掛けるもので、より大規模な発電所建設に向けて研究を重ねるためのもの。
※東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学研究センター 林 昌奎教授による波力発電研究に関する記事はこちら
また、2021年にはフランス・ノルマンディー地方の海上で、ヨーロッパ最大級の波力発電施設も着工予定だ。
数多くの再生可能エネルギーがある中、“波の力”が優れている理由に以下の2つがあげられる。
一つは、エネルギー源である波(海)が世界各地に存在すること。
地球上における陸地の面積が総面積の約29%に対し、海の面積は約71%。陸地と比べて実に2倍以上の面積を誇る海は、エネルギー業界にとってフロンティアとも呼べる存在だ。
次に、面積あたりの発電効率の高さ。
空気よりも比重の重い水の運動エネルギーを利用する波力発電は、理論上で風力発電の5倍以上、太陽光発電の10倍以上の発電効率といわれている。また、風や太陽光は気象条件に左右される部分が大きいが、全く波のない凪が継続することは非常に少ないため、安定した発電量が得られるというメリットもある。
これまでは、技術的な問題から実用化への壁が高く、ごく限られた範囲のみで活用されてきた波の力。
そうした中、ドイツのスタートアップ企業・NEMOS社が開発した新たな波力発電機が話題となっている。
ことし10月、ベルギーのオーステンデ市沖500mに設置されたのは、同社の新型プロトタイプ。幅16mの下部構造と8×2(m)の浮体から構成された、画期的な波力発電機だ。
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一見すると発電装置とは思えない造りだが、手前に見えるのが同社のプロトタイプ。奥に見える鉄塔で、発電機の監視や調査を行っている
下部構造と浮体は3本のケーブルでつながれており、そのうち2本はベルトドライブとして下部構造のバネと連動している。
浮体が波に揺られることで発生する前後運動をエネルギーに、つながれた駆動装置から電気を発生させる仕組みだ。
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波の力を大いに生かせる設計。周辺に建物を設置する必要がなく、環境への負荷も少ない
従来の波力発電は、波の上下運動から空気や水圧を発生させてタービンを回すものが一般的。しかし、設置の難しさやコスト高、エネルギーの平滑化などに難があり、今もなお研究が進められている段階だ。
一方、NEMOS社の発電装置は、下部構造を海底のアンカーに固定するだけなので設置費用も安く工期も短い。また、設置する環境に合わせて装置サイズが調整可能なため、無駄が生じにくく、出力が最大化される点もポイントだ。
これにより、波の力の70%をエネルギーに変換することが可能だと同社は発表。なお、作られたエネルギーはケーブルを伝って陸上に送られ、一般家庭へと供給することを想定している。
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オーステンデ市沖に設置された際の様子。このあと船で沖合まで運ばれ、下部構造が固定された
また、独自開発のバネやシャフトを使うことで、軽量化や資材の減量化にも成功。ユニットに対する負荷を軽減しつつ、商用化した際に価格を抑えられるメリットがあるという。
元に戻ろうと反発する力でエネルギーを生み出す“ねじり棒バネ”では、既存品の半分のスペースに削減すると共に約75%の軽量化を実現。カーボンシャフトも従来の剛性を残しつつ、大幅な重量カットを施している。
10月から始まった試験では、発電装置が計画通りに作動することを確認。重要なデータが得られていると発表した。今後はデータを分析しつつテストを続け、2年後の2021年以降の実用化を目指すという。実用化された際には、1つの発電ユニットで700~800世帯分の電気をまかなえる計算だ。
その期待値の高さから、ドイツ連邦機関からの支援も受けるNEMOS社。
まだまだ発展途上にある波力発電が、”波に乗る”日も近いのかもしれない。
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text:佐藤和紀