2020.1.10
プラゴミ問題解決に大きな一手! 日本企業が自然由来の代替素材を新開発
紙とポリ乳酸(生分解性樹脂)の合わせ技で石油由来樹脂のほぼ0%化を実現
近年、世界中で脱プラスチック化が加速中だ。捨てられて海へと流れ着いたプラスチックゴミを海洋生物が誤飲してしまうケースが深刻化するなど、大きな環境問題となっている。そうした中、日本のリサイクル素材を開発するベンチャー企業が、環境負荷低減となる新素材を開発した。石油由来プラスチックをほぼ使用せず、用途を終えれば土に返すことができる新たな代替素材の魅力をお届けする。
INDEX
自然界に大きな影響を与えるプラスチックゴミ
近年、世界中で脱プラスチック化の流れが加速している。
現在、全世界で使用されるプラスチック素材は、50年前と比べて約20倍に増加。さらに、今後20年でその総量は倍増すると見込まれている。2016年に開かれた世界経済フォーラムでは、2050年までに重量換算で世界の海を漂うプラスチックが魚を上回るという衝撃的な未来予測も発表された。
※「ゴミ」に関する特集はこちら
使い勝手のいいプラスチック製品は私たちの暮らしを便利にする半面、再利用率は紙などと比べて極端に低い。実際、その多くはリサイクルされることなく地中に埋められており、さらに全体の約3分の1は回収されず自然界に流出しているという。
近年では、捨てられて海へと流れ着いたプラスチックゴミを海洋生物が誤飲してしまうケースが度々ニュースに取り上げられ、物議を醸している。
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自然界に流出したプラスチックゴミは海上にゴミの吹きだまりを作るほか、海岸へ大量に漂着するなど大きな問題になっている
(C)Blue flash / PIXTA(ピクスタ)
こうしたプラスチックゴミ問題を解決するべく、EUは2019年5月に使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案を採択。現在は紙製品や生分解性プラスチック製品への移行が進んでいる。一方、日本でもプラスチックゴミへの意識は高まっているものの、世の中はまだまだプラスチック製品であふれかえっており、世界の潮流から見れば後れをとっているのが現状だ。
そうした中、リサイクル素材開発のベンチャー企業・株式会社カミーノは、低環境負荷の新素材「PAPLUS(R)」(パプラス)を開発。2019年10月16~23日にかけてドイツ・デュッセルドルフで開催された世界最大級のプラスチック見本市「 K2019」にも参考出展した。
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使い捨て石油由来プラスチック製品の代替品としてだけでなく、リユースにも耐えうる強度を備えるパプラス
これまでも紙を原料とする再生製品を開発してきたカミーノ。紙の循環型リサイクル実現を目指して試行錯誤を繰り返す中で、植物由来のポリ乳酸(生分解性樹脂)と紙の親和性が高いことに注目。樹脂や射出成形などの専門家と開発チームを結成し、約2年の開発期間を経て誕生したのが今回発表されたパプラスだ。
パプラスは、製造過程で発生する紙の裁断屑や牛乳パック、企業排出古紙も原料にすることで、紙の資源エネルギー循環が可能になる。食器等の用途では、衛生面への配慮から古紙ではなくバージンパルプから作られた紙が原料として使用されるという。
また、パプラスは紙とポリ乳酸(生分解性樹脂)を複合させることで、石油由来樹脂のほぼ0%化を実現しているのも見逃せない。
ポリ乳酸とは、トウモロコシのデンプンやサトウキビの搾汁と乳酸菌を原料とする生分解性プラスチックの一種で、植物由来生分解性プラスチックの中では最も実用化が進んでいるバイオプラスチック。そのため、パプラスは最終廃棄段階で粉砕することによりリサイクルができ、堆肥化設備(コンポスト)に入れれば微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解できる。
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光合成と生分解の仕組みのイメージ図。ポリ乳酸は天然由来の樹脂で、生分解を繰り返すため環境負荷が低い
このようにいいことずくめに思えるポリ乳酸だが、石油由来プラスチックと比べて粘度が極めて高いゆえに射出成形の際に金型に流れにくく、固まった後も金型から外れにくいため、成形が困難という課題を内包しており、量産には不向きとされていた。
今回カミーノはこうした課題を克服するべく、生分解性プラスチックの射出成形に秀でた小松技術士事務所(福島県いわき市)の持つ生分解性樹脂・ポリ乳酸の量産加工技術を活用。小松技術士事務所の持つ「超臨界成形」という製法は、窒素や二酸化炭素を超臨界の状態(液体でも気体でもない、両方の特徴を持つ状態)で原材料に流し込む技術のこと。
これによりポリ乳酸の流動性が改善され、耐熱性を高めた素材を射出成形できる方法を創作でき、成形品の薄肉化が実現。大量生産を可能にしたという。
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パプラスを使用した製品プロトタイプの一例
ことしの前半には、食器や容器、ハンガーなどの日用品といったアイテムでの製品化を目指すというカミーノ。
同社代表取締役 深澤幸一郎氏は「昨今、日本のプラスチック問題における対応の遅れが海外から批判を浴びることがあります。そのような指摘を跳ね返すべく、パプラスが地球規模で広がるプラスチック削減のための日本発の強力なソリューションの一つとなるよう、引き続き研究開発を続け、グローバル市場での普及につなげたいと考えています」と、開発の意義について語っている。
私たちと海洋生物との共存、ひいてはプラスチックゴミ問題の解決に向けて、大きな転換期になるかもしれない2020年代。
日本の技術者たちの、世界を変える新たなマテリアルの開発に期待したい。
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text:安藤康之