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リチウムイオン電池をしのぐ高容量! 豪の研究グループが新型リチウム硫黄電池を開発

待たれる実用化! 高い耐久性と充放電効率を維持する技術でバッテリー界に革命を

2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野 彰氏が開発に携わったリチウムイオン電池(以下、LIB)。2020年代は、LIBに続く新しい電池の覇権争いが繰り広げられると予想されている。中でも、世界中から熱い視線を集めているのが、オーストラリア・モナシュ大学の研究チームが開発した新型のリチウム硫黄電池(以下、Li-SB)だ。これまでLi-SBが抱えていた課題をクリアし、実用化に向けて進み始めた注目の技術を紹介する。

Li-SBの課題とは?

スマートフォンやモバイルバッテリーを買い替える際、一つの目安となる単位mAh。放電容量とも呼ばれるバッテリーの容量を示す単位で、1時間に流せる電流の容量を示したものだ。

最近のスマートフォンは高容量化が進み、3000~3500mAhのものが一般的に。ハイエンドモデルでは、4000mAhを超えるようになった。

しかし、バッテリーに対する不満は根強い。動画やアプリなど通信量の増加により100%に充電しても1日持たないこともあり、2万mAh超の高容量モバイルバッテリーや充電ケーブルを持ち歩く人も数多い。

そうした中、一度充電したら5日間はスマートフォンのバッテリーが持続するという夢のような電池がオーストラリアで開発された。それが新型のLi-SBだ。

一般的にスマートフォンのバッテリーに使われるのはLIB。正極にコバルトやニッケルといった金属酸化物、負極に炭素を用い、リチウムイオンが正極と負極の間を行き来することで充電と放電を繰り返す仕組みだ。

一方、オーストラリア・モナシュ大学のマドフハト・シャイバニ氏らが開発したLi-SBは、正極に硫黄、負極にリチウムを採用している。

自然界にたくさん存在する硫黄。かつては日本にも硫黄鉱山があったが、現在では石油精製の脱硫(物質から硫黄原子または硫黄化合物を除去すること)による副産物から多く供給されるようになった

硫黄の理論容量はコバルト酸リチウムより10倍ほどと高く、Li-SBとしての質量エネルギー密度はLIBの4倍以上とされている。

これまでもLi-SBは知られていたが、充電と放電を繰り返す際の硫黄の体積変化が大きな障害となっていた。硫黄を正極に用いた際の体積変化率は約78%で、LIBの約8倍。これにより正極の分解破損が進み、急激に容量が低下してしまうのだ。

イオンの量を減らす、もしくは電極を薄くすることで耐久性は上がるものの、バッテリーそのものの容量が少なくなってしまうため、Li-SBのメリットを最大限生かせないという課題があった。

ブレイクスルーをもたらした"架橋技術"

問題を解決するために研究グループが目を付けたのは、過去に少しだけ行われていたLi-SBに関する実験データ。

その実験とは、活物質同士の結合を促すバインダーと呼ばれるものにさまざまな材料を用い、Li-SBでひび割れ防止のために使われるポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)と比較したものだ。

一部の材料ではPVDFを上回る耐久性を示していたが、ごくわずかな量での実験だったため、LIBの容量を超えるLi-SBへの転用は疑問視されていたという。

そこで、改めて大容量を想定した実験を行うこととした研究グループ。過去の実験でも使われていたカルボキシメチルセルロース(CMC)という材料を用い、試験を繰り返した。

ちなみに、CMCとは優れた増粘性や保水性を有しており、食品添加物のほかLIBにも使用されているもの。

用意したのは、硫黄と炭素、CMC、蒸留水を混ぜ、粘度を変えたいくつものスラリー(流動体)。これを電極に用いて試験を繰り返した結果、従来のバインダーで作成した電極より凝集した活物質の間に空間ができるモノを発見したという。

また、充電と放電の実験を繰り返す中で、活物質同士が橋を架けたような結合をつくる「架橋状態」を持つものが耐久性に優れた結果を示すことも判明した。活物質同士が連結しつつも、膨張に耐え得るスペースを確保した形だ。

試作した電極の断面を電子顕微鏡で調べた様子。隣り合う活物質と密着し過ぎず、橋のようにつながっているのが分かる(上)。一方、活物質同士が密着し過ぎている例(下)だと、膨張・収縮に耐えられず耐久性に難があった

試験を経て、共同研究先であるドイツのフラウンホーファー材料・ビーム技術研究所が制作したプロトタイプの電池では、LIBの電池容量(約140mAh/g)を超える1200mAh/g以上を達成。

また、200回以上の充放電を繰り返した場合でも、クーロン効率(充放電効率)99%以上の高い数字を示した。

99%以上のクーロン効率を示す図。かつてのLi-SBの常識を破った

特許も取得したこの革新的な製造技術には政府や産業界も反応し、250万オーストラリアドル(約1.77億円)以上の支援が研究グループに集まったという。

ことし中には、電気自動車(EV)やソーラーグリッドへの応用を考え、製品化へ向けた研究を進める予定だ。

LIBに比べて原料が豊富な上、製造コストや環境負荷が抑えられるとされるLi-SB。

高容量かつ高い耐久性を実現したことで、今後のバッテリーや蓄電池の歴史を大きく変えていく存在になっていくのかもしれない。

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