2020.3.27
たった1℃の温度差で完全凍結! ドライアイスに代わる省エネ&高効率な次世代型保冷剤誕生
わずか1度の温度差で完全凍結する世界初の技術で、保冷剤の使い勝手が飛躍的に向上
食品の鮮度を守るため、古くから使用されてきたドライアイス。低温での長時間維持や水が出ないという利点がある一方、家庭で用意できない点や一度しか使えないというデメリットもある。その弱みを解消するために保冷剤も広く普及しているが、凍結させるための温度設定やその電気代、凍結に要する時間に比べて短い保冷時間など、不満の声が少なからず上がっている。そうした中、保冷剤の利便性をさらに高めた製品が開発されたという。最強の呼び声高い次世代の保冷剤「ICE ENERGY(アイスエナジー)」を紹介する。
INDEX
枯渇するドライアイスと保冷剤の可能性
食卓の強い味方・冷凍食品──。定番のうどんや餃子のほか、カット野菜やスイーツなど、その種類は今や多岐にわたる。
一般社団法人 日本冷凍食品協会によると、日本における冷凍食品の歴史は今からちょうど100年前。葛原商会(現・株式会社ニチレイ)が、魚を冷凍するための施設を北海道森町に作ったのが始まりとされている。
その後、電子レンジの普及や冷凍技術の改善などによって、冷凍食品の国内生産量は爆発的に増加。1990年に100万トン、1999年に150万トンを突破し、2017年には過去最高の160万トンを記録した。
また、冷凍食品を支えるモノとして、ドライアイスの存在も大きい。家まで持ち帰る際や宅配された食品を玄関前に置いておく「置き配」などに欠かせないためだ。特にこれからの季節は日中の温度が上昇するため、使用する頻度も格段に多くなる。
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商業生産が始まってから90年以上の歴史を持つドライアイス。食品の鮮度を保つ役割として、われわれの食文化を支えてきた
生鮮食品を含めて「食の安全」が叫ばれる昨今、保冷に対するニーズは高まる一方。しかし、これまで同様にドライアイスを使い続けることは少し難しくなってきているのかもしれない。
そもそもドライアイスとは、二酸化炭素(炭酸ガス)を冷やして固体化させたもの。周囲から絶えず熱を奪いながら気化(昇華)することで、周りの物が冷やされる仕組みだ。
製油所や化学工場から排出される炭酸ガスを原料とするため地球温暖化には直接つながらないものの、近年は工場の減少や老朽化によるトラブルなどで供給量が減少。炭酸ガスは溶接や炭酸飲料の用途などにも使われるため、各業界が取り合う事態になっているという。
その結果、ドライアイスを韓国や中国から輸入するケースにまで発展。輸入量は2008年から2018年の間で20倍以上の約2万5000トンに増加し、その輸送にかかるエネルギーは膨大なものとなりつつある。
また、直接触れた場合に凍傷の危険があるほか、密閉した容器に入れた際の破裂事故が毎年報告されるなど、安全性を問題視する声も少なくない。
そうした事態を解決してくれるかもしれない商品が、愛知県名古屋市に本社を構えるアトム技研株式会社によって開発された保冷剤「アイスエナジー」だ。
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繰り返し利用できるハードケース(白)と使い切りを想定したソフトケース(黒)の2種類を展開
保冷剤は従来からドライアイスの代替品として使用されてきたが、-30~-40℃という専用の冷凍設備が必要不可欠。多額の設備投資と電気代が大きな負担となってきた。
現在、市場に多く流通している保冷剤の多くは、水にポリマーを入れただけのもので温度もそれほど低くはならない。
しかし、アイスエナジーは1年にわたる研究の末、独自の保冷剤内容物を開発。より低温を長時間維持させる技術の開発に成功した。同時に、わずか1℃の温度差で完全凍結させる技術も確立。つまり、-20℃の温度を保持するアイスエナジーは、-21℃の環境で凍るということだ。
これは、小売店に設置されている既存の冷凍庫やオープンストッカー(-20~-25℃)でも十分に凍らせることができる数字のため、新たな設備投資が不要になるという利点がある。さらに、冷凍した状態で店にストックしておけば、冷凍設備のメンテナンス時に活用することが可能。万が一の停電が発生した場合には、食品ロス防止も期待できる。
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コンビニエンスストアのオープンストッカーでの凍結実験。冷凍食品と一緒にアイスエナジーを凍結することができる
また、さまざまな温度帯の製品がそろっていることもアイスエナジーの強み。
-20~3℃までの6つ(ハードケースは-25℃を加えた7つ)の保冷温度帯があり、保冷したい食品によって使い分けることが可能だ。
冷凍庫に入れている間はどれも庫内に近い温度まで下がるものの、庫外で使用を始めるとそれぞれの保冷温度帯近くまで上昇。その後、製品ごとの保冷温度帯を長時間維持するという特性を持つ。
-18℃の製品を使った実験では、他社の類似製品に比べて約30%長く低温時間を維持し、約17%短い時間で完全凍結されることが実証済。より少ないエネルギーで高効率に食品を保冷することができると、食品業界や運送業界などから注目を集めているという。
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アイスエナジーの-18℃と他社類似製品を比較実験した際のグラフ。他社製品よりも長時間低温を維持しているのが分かる
繰り返し利用できる「ハードケース」、使い切りを想定した「ソフトケース」。そのどちらにも食品添加物で作られた特殊な液体が充てんされているため、万が一液漏れ等が起こった場合でも安全性は抜群。
その高い安全性を生かし、保冷剤以外にも活躍の場を見いだしているという。
例えば、真夏の熱中症対策にもなる保冷ベスト。ハードウェアメーカーなどとコラボレーションすることで、さまざまな関連商品の開発を進めている。
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アイスエナジーを使った冷却ベストのプロトタイプ。メーカー向けの展示会でも高評価を得た
ドライアイスの代わりのみならず、長時間低温を維持できるという強みを最大限活用できる道を追求するアイスエナジー。
近い将来、食卓を支える縁の下の力持ちとして、また、真夏の暑さを乗り切るクールなアイテムとして、私たちの生活を支える存在になっているのかもしれない。
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text:佐藤和紀