2020.4.21
ウイルスと戦う医療現場をフォロー! 高出力紫外線LEDで殺菌灯もアップデート
新型コロナウイルスへの効果は?紫外線の力で菌やウイルスを殺菌・不活化する技術
日焼けやシミ、ひいては皮膚がんの元凶とされる紫外線。これからの季節は特に気になる人も多いと思うが、紫外線を有効活用している現場もある。医療界だ。紫外線が持つ強い殺菌力を生かして作られた殺菌灯は、古くから普及している。しかし、それらのほとんどは水銀を用いたもので、近い将来使えなくなる可能性もあるという。そうした背景を踏まえて誕生したのが、紫外線を発するLEDだ。今後、殺菌灯のスタンダードになり得るかもしれない新たな製品を紹介する。
INDEX
波長の長さで変わる特徴
5月の紫外線は真夏と同じくらいに強い──。
こんな話を聞いたことがないだろうか。心地よい気候の5月の日差しと、ジリジリ肌を刺す8月の日差しの紫外線が同等とはにわかに信じがたい。
実際、気象庁によると、年間で最も紫外線量が多くなるのは7~8月と明言している。しかし、6~7月に梅雨となる地域の紫外線A波(以下、UV-A)に限ると、5月に紫外線量が多いのは間違いないという。
また、国立環境研究所有害紫外線モニタリングネットワーク事務局のデータを見ても、5月にUV-Aが多いのが見て取れる。
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2016年に茨城県つくば市で観測されたデータ。UV-Aは5月、UV-Bは8月に多いのが分かる
出典:国立環境研究所 有害紫外線モニタリングネットワーク事務局 2016年 つくば局観測データ
そもそも紫外線とは、地表に届く光の中で最も波長が短いもの。
その中でも、波長が短い順に紫外線C波(UV-C)、紫外線B波(UV-B)、UV-Aと分類されている。
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太陽に含まれる紫外線、可視光線、赤外線の波長を表した図
出典:環境省「紫外線 環境保健マニュアル2015」
UV-Cは大気層(オゾンなど)で吸収されてしまうため、われわれの大敵となるのは残りの2つ。よりエネルギーが強いのはUV-Bで、短時間でも日焼けや皮膚がんの原因になりやすい。しかし、そのほとんどは大気層(オゾンなど)で吸収されるため、地表に届く量の多さからUV-Aを問題視する人も多い。
このことから、5月のUV-A量の多さに着目し「5月の紫外線は真夏と同じくらい強い」という話が定着したと考えられる。
ここまで読むと“紫外線=有害なもの”というイメージが固定化するが、その紫外線が医療現場で使われていることをご存じだろうか?
身近な例で言えば、病院の玄関に置かれているスリッパを殺菌するライト。さらには、診察や手術で使う医療機器や集中治療室(ICU)を殺菌しているのもUV-Cを用いた殺菌灯だ。
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殺菌灯の一例。そのほか、医療現場で幅広く使われている
殺菌灯には水銀を用いたランプが使用されているが、寿命が短い点や消費エネルギーが高い点、点灯するまでに時間を要する点などのデメリットがあり、医療業界から改善してほしいとの声が上がっているという。
そうした背景を受け、徳島県に本社を構えるナイトライド・セミコンダクター株式会社が開発したのが、殺菌灯に使用可能な紫外線LEDだ。
同社は2000年に世界で初めて紫外線LEDの量産に成功した業界のパイオニア。2013年には経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」に選出されるなど、知る人ぞ知る注目企業だ。
水銀灯からLEDへの転換
ナイトライド・セミコンダクター社がことし4月に発表した新製品は、放熱性の高いアルミニウム基板に波長275nm(ナノメートル/1nmは100万分の1mm)の深紫外線LEDベアチップを16個実装したもの。
同社モジュールの従来品より約10倍も光出力を高めて290mWとなり、高出力化を達成した。
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新製品のNS275B-44FAは縦20×横20×厚さ約4(各mm)。殺菌灯のほか、ハンドドライヤーやウォーターサーバーなどへの応用も期待されている
ちなみに深紫外線とは、波長300nm以下の紫外線のこと。最も波長が短いUV-Cが280nm以下と定義されることが多いため、UV-Cとほぼ同等と考えてよい。
UV-Cは紫外線の中で最も強いエネルギーを持っており、高い殺菌力を誇る。紫外線を照射することで細菌が死滅する詳しいメカニズムはまだ解明されていないが、細菌が持つ細胞のDNAやウイルスのRNAを分断することで菌が死滅すると考えられている。
独立行政法人 国立病院機構仙台医療センター(宮城県仙台市宮城野区)内のウイルスセンターにて、同社製品(紫外線300nm以下、光出力7mW)を使用した殺菌灯で実験を行った結果、大腸菌の殺菌やノロウイルスの不活化も実証されている。
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水媒体を介して約10cm離れた距離に設置したノロウイルス(マウス)の液体へ深紫外線を照射。およそ30分後に検出限界以下まで減少している
出典:ナイトライド・セミコンダクター
また、人が日常的に感染する4種類のコロナウイルスのうち、22
今回開発された製品は、量産時に1枚約6000円(税抜き)で販売される予定。約5000時間という長時間接続を実現し、瞬時に点灯・点滅を行えることから、従来の殺菌灯に比べて消費エネルギーの削減も可能だ。
実は、医療現場で使われている水銀を含む殺菌灯は、近い将来に使用できなくなる可能性がある。これは、水俣条約に関する条項で、2021年から水銀灯(ランプ)の製造、輸出または輸入が禁止になることに起因している。
現在、殺菌灯のような特殊用途に関しては規制対象外となっているが、紫外線LEDライトの普及にかかる期待は大きい。
街中やオフィス、自宅などの電気はすでにLED化が進む昨今。医療現場で欠かせない殺菌灯もLEDが一般的になる日が近いのかもしれない。
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text:佐藤和紀