2017.6.13
燃料電池車の普及率鈍化に一手!業界が新たな動きに打って出る
生産能力の向上と水素ステーションの設置増加に期待
2014年にトヨタが、そして2016年にホンダがマーケットに投入した燃料電池車の普及が一向に進んでいない。高価な車体、遅々として進まないインフラ整備…。果たして燃料電池車には、どんな未来が待っているのだろうか。
燃料電池車の登録台数が増えない理由
トヨタが先鞭(せんべん)をつけたハイブリッド車(HV)。そして日産やアメリカのテスラが先導する電気自動車(EV)など、都市部を中心に見かけることが多くなった“エコカー”。
その最先端として期待されているのが、水素をエネルギーとし、走行時に温室効果ガスを出さない“次世代のエコカー”として日本で官民が普及を進めている燃料電池車(FCV)だ。
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トヨタが2014年にリリースした燃料電池車「MIRAI」
水素社会の実現に向けた動きは20世紀からあった。日本の燃料電池車で言えば、2002年にトヨタとホンダが5省庁に燃料電池自動車を世界で初めて販売(リース)している。
近年では、2014年3月に資源エネルギー庁が次のように燃料電池車の社会的意義をまとめている。(「水素・燃料電池戦略ロードマップ」より)
■燃料電池車の燃料である水素は、様々なエネルギー源から製造できる上、ガソリン車よりエネルギー効率が高い。しかも走行時に排出するのは水だけ。将来的なゼロエミッション(有害排出物ゼロ)化も視野に入れることができる
■非常時の外部給電機能として活用することも期待できる
■現時点ではわが国の企業が燃料電池自動車分野をリード。将来的な経済・雇用への影響など産業としての意義もある
そんな高らかな理想を背景に、2014年にはトヨタが「MIRAI」を、2016年にはホンダが「クラリティ FUEL CELL」をリリースしたのだが、その登録台数は思うようには増えていないのが現実のようだ。
高価な車体と進まないインフラ整備が原因
2016年3月に経済産業省が発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」には、燃料電池車の普及目標として「2020年までに4万台、2025年までに20万台、2030年までに80万台程度」と明記されている。
最初の目標である20年まで、あと3年足らず。では現在の燃料電池車の登録台数はといえば、16年末の段階でわずか1500台程度にとどまっている。
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2016年10月、ホンダと福岡県北九州市は「クラリティ FUEL CELL」から家庭へ電力を供給する実証実験をスタートさせた
参考までに最新のハイブリッド車に関して述べると、販売は好調だ。
2016年暮れに日産が販売を開始したコンパクトカーの新型「ノート」は、ePOWERという新しいシステムが反響を呼んだこともあり、発売月の16年11月だけで1万5784台の販売を記録。さらに2017年3月には2万4383台を記録し、「ノート」史上、過去最高の販売台数となった。
無論、トヨタやホンダといった世界的企業が、世界最先端の技術を投入した燃料電池車と、量産型コンパクトカーを比較するわけにはいかない。しかし、それでも政府が掲げる目標を目指すのであれば、現状を認識すべきではないだろうか。
普及が進まない原因の一つは“高価な車両価格にある”と言われる。
「MIRAI」は723.6万円、「クラリティ FUEL CELL」は766万円だ。確かに高価ではあるが、レクサス「LC500」やホンダ「NSX」のように1000万円を大きく超えるわけではない。
それ故に、問題はむしろ“インフラにある”とも言われる。
電気自動車の普及に不可欠であった充電ステーションは、近年、飛躍的に整備が整ってきた。高速道路のSAやPAはもちろん、一般道においても道の駅やコンビニエンスストア、ショッピングモールの駐車場などに、普通充電のみならず、急速充電設備まで用意されるようになってきた。また、家庭用の普通充電設備であれば、およそ10万円程度で設置できるという。
これに対し、燃料電池車のための水素ステーションは現在、全国約90カ所に過ぎない。前述の「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」には、水素ステーションの整備目標は「2020年度までに160カ所、25年までに320カ所」とある。
数字だけで見れば実現可能な目標に思えるが、それでもハードルは残る。もっとも大きいのが建設コスト。通常のガソリンスタンドの建設費が7000万円程度とされるが、水素ステーションの建設・設置には、1カ所約4億円の費用がかかるとまで言われている。採算を取るためには、1カ所当たり約1000台の利用を見込まなければならないというのだ。
水素ステーション整備のため、新たな協業をスタート
遅々として進まない水素ステーションの整備に向け、去る5月19日、業界を横断的に結ぶ新たな協業が発表された。
トヨタ、日産、ホンダ、JXTGエネルギー(石油製品の精製および販売企業)、出光、東京ガスら11社が、燃料電池車向け水素ステーションの本格整備の検討に入ると、覚書を交わしたのだ。
これは前述の「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」に掲げられた水素ステーションの設置目標を実現するために、オールジャパンで当たっていこうというもの。普及初期における課題を踏まえ、集結した企業がそれぞれの役割を果たし、そして協調することで水素ステーションを戦略的に整備していくことを目指すという。
具体的には、すでにサービスステーションなどを全国展開する石油元売業者やガス業者が、水素ステーションの整備・運営を担う。自動車メーカーは燃料電池車の普及と水素ステーションの運営支援を、そして唯一の金融機関である日本政策投資銀行は資金面でサポートしていく。
さらに、このプロジェクトをスムーズに展開するため、2017年中には新会社が設立され、具体的なプランニングに入っていくということだ。
自動車メーカーにしろ、石油元売業者にしろ、すでに全国に展開するネットワークがある。それらが協業することで、水素ステーションの普及が加速することが期待されている。
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ホンダは燃料電池車の用途拡大に向け、宮城、東京、埼玉、神奈川のタクシー会社4社の協力を受け、6月末をめどに「クラリティ FUEL CELL」のタクシー運用を開始する予定だ
つい先日、アメリカのトランプ大統領が、2015年に結ばれた気候変動抑制に関する多国間の取り決めである「パリ協定」からの離脱を表明した。
それでも世界的に地球温暖化を防止するための施策を進めなければならない。「ゼロエミッション」を実現する上で、燃料電池車が大きな可能性を持っているのは明らかだ。
この協業が、今後どのように具体化していくか、注目される。
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text:長嶋浩巳