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絶滅危惧種を救うロボティクス誕生? 米・アトランタでナマケモノ型観察ロボットの試験運用開始

必要なときだけ動く賢いヤツ! 省エネ性能を高めて目指すは長期的な安定運用

中南米に生息するナマケモノ。天敵から逃げるすべを持っていないにもかかわらず、極限まで動かない”省エネ生活”で身を潜め、連綿と種を引き継いできた特異な動物だ。その省エネ特性を模倣したロボットを開発し、自然下における絶滅危惧種の長期観察に役立てようという研究がアメリカ・ジョージア工科大学で進められているという。前代未聞のナマケモノ型ロボットが挑むプロジェクトを紹介する。
TOP画像:Rob Felt, Georgia Tech

絶滅を避けるための取り組み

32411種──。

これは、ことし7月に国際自然保護連合(IUCN)が公表した、最新版の『レッドリスト』に掲載された絶滅危惧種の数だ。

『レッドリスト』とは、絶滅のおそれがある野生動植物をリスト化したもの。最新版では、日本の秋の味覚・マツタケが初めて絶滅危惧種に指定されたこともあり、新聞やニュースで大きく取り上げられたことは記憶に新しい 。

乱獲や気候変動など、貴重な動植物減少の要因はさまざまだが、いずれにしても人間の責任は大きい。『レッドリスト』に掲載されれば必ず法的な保護対象になるという訳ではないものの、社会へ警鐘を鳴らすという一定の役割を担っている事実は揺るがない。

実際、本来の生息地(自生地)で絶滅危惧種の存続が難しいと判断された場合は、種を守るために動植物園などの施設で保全・育成する「生息域外保全」というものが世界各地で行われている。

身近なところで言えば、東京都新宿区の新宿御苑もそのうちの一つだ。約170種の絶滅危惧種を保全・栽培、定期的に展示することで、同種への興味関心を高める工夫が凝らされている。

こういった現状の中、同様の活動を行うアメリカ・アトランタの植物園に、一風変わったロボットが試験導入されたという。

その名も「SlothBot(スロスボット)」。

ナマケモノ(Sloth)とロボット(Robot)を組み合わせた造語からも分かる通り、ナマケモノを模したロボットだ。

30エーカー(約12ha)にも及ぶ広大なアトランタ植物園。市民の憩いの場としてはもちろん、種の保存も盛んに行われている

(C)Atlanta Botanical Garden

ナマケモノなりの生存戦略

ナマケモノといえば、世界一動きが遅い哺乳類として知られる存在。かつては名前の通り「怠け者」の烙印を押されていたものの、近年ではその高い省エネ性能から究極の“エコアニマル”としても注目されている。

たとえば、1日の食事量がわずか約8gという点。食べたものを消化するのに2週間以上かかると言われており、これは体内の臓器の働きを極端に抑えた結果だ。

また、哺乳類では珍しい変温動物であり、温度に合わせて体温を変化させることで代謝を抑えることに成功している。

自らの体毛にコケが生えることもしばしば。それさえもエサにしてしまう点は見事としか言いようがない

(C)alcarrera / PIXTA(ピクスタ)

今回、アトランタ植物園に試験導入されたSlothBotに期待されている機能は、気温や天候、二酸化炭素レベルなどを自動で観察し、撮影した画像と共に送信すること。

体長約90cmの外装は3Dプリンタで作られており、中には各種センサーやモーター、バッテリーを配置。必要なときだけ動くようにプログラムされており、充電の際には太陽光の位置を特定しソーラーパネルからエネルギーを得る。

開発したジョージア工科大学によると、自然界において数カ月、または1年を超える長期的で安定した動植物の観察ロボットの運用を模索しており、そのためには消費エネルギーを低くする重要性にたどり着いたのだという。その際に参考にしたのが、ナマケモノの省エネ生活だった。

SlothBotの開発風景。開発チームの一人がコスタリカのブドウ園でナマケモノを見たことから着想を得た

(C)John Toon, Georgia Tech

SlothBotがワイヤー上を移動するのもその理由の一つ。

ロボットといえば車輪の付いたものが一般的だが、消費エネルギーが高い点や走行時に岩や泥で止まる可能性があることから、現在の形に行き着いたという。

ことし6月にアトランタ植物園内で始まった試験では、園内に約300mのワイヤーを設置。栽培されている絶滅危惧種の保全をサポートするのはもちろん、同種への興味関心を高める役割も担っている。

ナマケモノ特有の丸い目を再現しているSlothBot。「植物園に来る子どもたちにロボットへの興味も持ってほしい」と開発チーム

(C)Rob Felt, Georgia Tech

アトランタ植物園内で試験運用中の「SlothBot」の動画

今後数カ月間のテストを行った後は、南米の自然環境下で植物のランの受粉や絶滅危惧種のカエルの観察を予定している開発チーム。

その際には複数のワイヤーを張り巡らせ、広範囲での移動が可能になるアップデートも考えているという。

これまでとは一線を画す遅さと省エネが特徴のロボットが世界各地に導入されることで、レッドリストへの動植物掲載数が減る日も近いのかもしれない。

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