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温泉から作る再エネ! 長野県諏訪市で小型発電システムが稼働開始

70℃程度の低温でもOK! 日本ならではの資源を有意義に活用する発電方法

湯治や蒸気を使った調理など、古くから温泉と共生してきた日本。時には観光資源、また地元住民の健康増進を目的として、その土地ならではの恵みとして受け継がれてきた。しかし、近年では観光業の衰退や過疎化を原因とした未利用の源泉も増えつつあり、新たな活用法を模索しているケースも多い。そうした中、長野県・諏訪湖畔で既存の源泉を生かした小型発電システムの実証実験が進められているという。大規模な工事を必要とせず、比較的低温でも始められる温泉熱を活用した発電方法を紹介する。

発電ポイントは沸点

温泉大国・日本──。

環境省が2018年に行った調査によれば、日本における温泉地数は2982カ所。源泉総数は2万7000カ所を超えるという。2008年と⽐べればいずれもやや減少傾向にあるが、狭い国土に源泉がひしめき合っている様子が数字から見て取れる。

環境省のデータを基に作成。未利用の源泉数が増加傾向にあるのが気になるところ

温泉が多い主な理由として各地に存在する活火山の存在が挙げられるが、ボーリング技術の発達によるところも大きい。近年では2000m付近まで掘削することも多く、火山のない都心部での天然温泉も頻繁に見られるようになってきた。

また、豊富な源泉湧出量を有する自治体では各家庭にお湯を引く配管が整備されているケースもあり、自宅で温泉を楽しむというぜいたくな時間を過ごすことも可能だ。

長野県諏訪市もその一つ。諏訪湖畔に湧く温泉を一部地域の希望住民は有料で引くことができ、住民サービスの向上につなげている。

しかし、近年になって契約者数が減少。入浴用途だけでなく、高温を生かした暖房への利活用を推進してはいるものの、豊富な資源をもっと有効に使えないかと模索していたという。

そうした中、ことし8月に開始したのが、温泉熱を利用したORC発電システムの実証実験だ。

ORCとは、オーガニックランキンサイクルの頭文字を取ったもの。

地熱や工場廃熱などの高温の熱源で水を熱し、生じた過熱蒸気でタービンを回転させてエネルギーを生む仕組みをランキンサイクル(Rankine Cycle)と呼ぶが、水の代わりに有機媒体(Organic)を用いるものをORCと呼ぶ。

有機媒体を使用するのは、水より沸点の低いものが存在するため。たとえ熱源の温度が低い場合でも、ペンタンや代替フロンを熱すると過熱蒸気が発生するため、タービンを回すことが可能となる。

ちなみに、ペンタンとはメタン系の炭化水素で、金属部品の洗浄溶剤や印刷インキ等に使われるもの。一方の代替フロンは、オゾン層破壊物質のクロロフルオロカーボン(CFC)を代替するために開発された物質のこと。水素原子を含むハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)やハイドロフルオロカーボン(HFC)などがある。

また、ORCには熱源系統と有機媒体を用いた媒体系統の2つ(binary)の熱サイクルがあるため、バイナリー発電と称されることもある。

小型ならではのメリット

今回、諏訪湖畔の湖岸通りにある温泉源湯・あやめ源湯の源泉に設置されたのは、大阪市に本社を構えるヤンマーエネルギーシステム株式会社(以下、YES)が開発した小型ORC発電システム。

幅80.7×奥行き200.9×高さ167.5(各cm)とダブルベッド程度の大きさの中に、熱回収から系統連系に必要な機器を組み込んだコンパクトな設計。配管や配線を接続するのみで利用できるため、運搬や設置も非常に容易となっている。

YESのORC発電システム。小型で場所を取らないため、導入へのハードルが低い

70℃以上という比較的低温の熱源から発電でき、1台当たりの定格出力は9.0kW(熱源90℃、冷却源20℃の場合)。必要に応じて連結しての使用も可能なため、さまざまな場所やシーンで活躍する優れものだ。

実証実験の適地として選定されたあやめ源湯は、約88℃という高温の湧出温度と豊富な湧出量が特徴。1年間を予定している今回の試験導入では、発電出力が8kW、年間で約7万kWhの発電量を見込んでいる。

また、ORC発電に使用されたお湯は適度に冷まされた状態で入浴施設に供給されるため、無駄が生じることはない。タービンを回した蒸気も凝縮器で冷却されて液体に戻ることで、再利用される。

今回、設置したORC発電システムの仕組み。蒸発器と凝縮器がそれぞれ熱交換機の働きを持つ

なお諏訪市では、実証実験中は売電せず、温泉や冷却水を循環するポンプなどに使用。2021年度に結果検証を行い、引き続き利用する場合は改めて売電収入を得る計画だ。その際の売電で得られる収入は、給湯契約者の利用料軽減を図る目的として使用することも視野に入れているという。

化石燃料由来のエネルギーと異なり、二酸化炭素が発生しないことでも注目を集めるORC発電システム。

小規模かつ比較的低温でも電気を作り出せるYESの発電システムが結果を残すことによって、未利用の源泉や既存の温泉を活用する新たな道として普及していくのかもしれない。

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