2020.10.27
天気はピンポイントで観測する時代に? 手のひらサイズの高性能気象センサー登場
電源オンで観測スタート! IoT向けのSIM活用で専用の接続回線も不要な一台
デジタル技術を使って世の中に変革を起こすデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)という言葉が一般的になりつつある昨今。折しも、新内閣ではデジタル庁の創設に向けた動きが活発になるなど、今後もその流れは加速すると見られている。そうした中、天気に関するデータをリアルタイムで「見える化」し、企業の業務をサポートしてくれる新型の気象センサーが登場したという。従来の観測機に比べて省エネかつ小型で、導入へのハードルを格段に下げた注目の一台を紹介する。
気象データを企業ごとに取得する時代へ
われわれの生活と非常に密接な関係にある天気。服装や持ち物、その日の予定まで、人の行動は天候によって左右されているといっても過言ではない。
また、夏の気温が高ければビールの販売数が伸び、冬の気温が高ければ防寒着や鍋の食材の売り上げが減るなど、天気は経済とも深い関わりを持つ。
一方で、計測技術の発展も目覚ましい。
ことし8月には、これまで予測が難しいとされていたゲリラ豪雨に関する実証実験を国立研究開発法人 理化学研究所などによる共同研究グループが実施して話題に。
この実験は2013年から継続的に行われているものだが、情報を30秒ごとにリアルタイムで更新し、30分後までの予報を実現する「超高速降水予報」は今回が世界初の試み。高精度な気象レーダーとスーパーコンピューターを用いることにより、局地的かつ急激に変化するゲリラ豪雨を捕捉することに成功したのだ。
一方、これまで天気に関する情報といえば、テレビやインターネットなどを通じて、気象庁や民間の気象事業者が提供したものを得るのが一般的だった。
しかし、その常識を覆すかもしれないプロダクトが完成したという。
それがことし9月に発表された高性能気象IoTセンサー「ソラテナ」。手掛けたのは、天気予報のLIVE番組を24時間提供することでもおなじみの株式会社ウェザーニューズだ。
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千葉県千葉市に本社を構えるウェザーニューズ社。日本のみならず世界21カ国に32拠点を有し、世界最大級の民間気象情報会社として知られる
ソラテナは、リアルタイムで気温や雨量など8種類の気象要素を1分ごとに観測する機器で、現在は法人向けのみに販売されている。
これまでも企業、もしくは個人向けに開発された気象観測機はあったものの、従来品と比べて多くのメリットがあるという。
さまざまな業態で気象データの活用が進む可能性
従来の気象観測機は大型なものが多く、通信回線の整備が必要になることから導入へのハードルが非常に高かった。
一方、ソラテナは直径14×高さ20(各cm)とデスクライトほどの大きさで、重さは約1kg。持ち運びが容易になり、設置場所の選択肢を格段に広げることに成功した。
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ソラテナの設置イメージ。電源を入れるだけで自動的に観測がスタートする
ここまで小さくできた要因は、観測機器をイチから見直した部分にある。
一般的な雨量計は、「転倒ます」と呼ばれる「ます」に雨が0.5ミリたまるたびに「ししおどし」のように傾く数をカウント。その回数で雨量を計測している。
しかし、ソラテナではセンサーに落ちた雨粒から雨量を観測する方式を採用。これにより、大幅な小型化につなげている。
ほかにも、センサを用いた風向風速計の導入や可動部をなくすなど、小型化と設置しやすさにこだわった。
給電はAC100Vのコンセントからでき、ソーラーパネルから得たエネルギーを使うことも可能だ。
また、通信には株式会社ソラコムのIoT向けSIMを使用することで、専用の回線整備が不要に。通信網は全国の幅広いエリアをカバーしているため、給電設備さえ整えばどこでも気軽に利用できるようになった。
観測された情報はクラウド上に保存され、いつでも切り出しや分析が可能。さらに、データはAPI(Application Programming Interfaceの略)で取得できるため、企業のシステムへ簡単に組み込める点も利便性が高い。なお、用途に合わせ、最新データや過去1時間のデータ、過去の任意時間データの3種類を取得できる。
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企業ごとにシステムを開発することなく、APIで連携できる
計測できる要素は、気温と湿度、気圧、照度、紫外線(UVA、UVB)、風向、風速、雨量の8つ。1分ごとに設置現場の気象データが「見える化」されることで、状況に応じた客観的な判断を下す際に役立てられるという。
たとえば、ソラテナの先行運用が始まっているドローン用プラットフォームとの連携。
これは、KDDI株式会社が目視外での自律飛行を実現するために開発したシステムで、将来的にはドローンを使った物流配送や遠隔監視業務を見込んでのもの。
運航事業者は遠隔地からでも現地の気象データをリアルタイムで得られるため、風速が基準を超えた場合は飛行させないなどの指示を出すことができる。
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KDDIのプラットフォームを使い、商品を運ぶ実験を行うドローン。目に見えない風はドローンの大敵だ
また、農作業ロボット・管理システムの開発を手掛ける株式会社レグミンでも試験導入を実施。風速に応じた農薬散布の可否判断の他、作物の成長記録にも使用されている。
「スマート農業」という言葉と共にDXが進む農業界にとって、ソラテナから得られた詳細な気象データを味方にすることは非常に大きな意味を持つ。
他にも建設現場での安全対策や屋外イベントでの熱中症対策、施設の風雨対策など、利用想定シーンは実に多種多様だ。
また小売店では、詳細な気象データと販売データとを組み合わせることで、天気と連動した需要予測やマーケティング分析が行えるように。これにより、食品ロスの削減や天気連動広告の作成といった活用方法が模索されている。
気になる価格は、レンタルプランで⽉額2万円~。購⼊プランの場合は19万8000円で、利⽤サービス料︓⽉額4000円~(いずれも税抜き)となる。今年度末までに、200社への提供を⽬指すという。
IoTの普及、DXの推進でさまざまな情報をビジネスに取り入れる必然性が高まった近年。
今後は、各企業が独自で取得した気象データを基にした販売戦略や安全対策がトレンドになっていくのかもしれない。
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text:佐藤和紀