2020.12.11
物流におけるCO2排出ストップを目指して! FCトラックの開発競争が激化
環境性能と商用車としての実用性を両立
年々高まるEコマース(Electronic Commerce/電子商取引)に、ことしは新型コロナウイルスによる巣ごもり需要が加わり、物流量が大きく増加している。自宅にいながら買い物できる利便性の一方で、物流業界ではさまざまな問題が表面化。中でも配送の主役である商用車が排出するCO2を削減し、環境負荷を低減することは世界から求められている課題の一つだ。今回はよりクリーンな物流の実現を目指して、物流業社とタッグを組んでFC(燃料電池)トラックの開発を急ピッチで進める自動車メーカーの取り組みをご紹介する。
INDEX
トヨタと日野は2022年春の走行実証開始を目指す
現在、FC(燃料電池)トラックの開発は世界規模で加速しているが、その理由はクルマが排出するCO2排出量の削減に他ならない。
例えば日本であれば、国内商用車が排出するCO2の約7割を大型トラックが占めているという(車両総重量3.5t超のトラック・バス、日野自動車調べ)。近年は乗用車においてEV(電気自動車)化の大きな流れができつつあるが、今後さらに車のCO2排出量削減を目指すならば、大型トラックの環境性能向上は必須といえる。
一方で商用EVにおいては、当然ながら事業に耐え得る十分な航続距離や積載量、短時間での燃料供給といった実用性が求められる。
その中で、2003年の燃料電池バスの共同実証から15年以上にわたり、燃料電池商用車の技術開発および普及促進に努めてきたトヨタ自動車株式会社と日野自動車株式会社もことし3月、「FC大型トラック」の共同開発を発表した。
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FC大型トラックの車両イメージ。車両サイズは全長11990×全幅2490×全高3780(各mm)で、車両総重量は25t。水素を入れるタンクには新開発の大容量高圧(70MPa/メガパスカル)水素タンクが搭載される
画像提供:トヨタ自動車/日野自動車
両社が開発を目指すFC大型トラックは、日野の大型トラック「日野プロフィア」をベースに、シャシー(荷物を載せる車台の部分)をFC車用に専用設計。徹底した軽量化と十分な積載量の確保を目指している。さらに、12月9日に発表された新型FCV(燃料電池自動車)「MIRAI」にも搭載されるトヨタFCスタック(発電装置)を2基搭載するパワートレインに、日野の大型車ハイブリッド技術を応用した車両走行制御を組み合わせる。これにより最大航続距離は現時点で600kmを目標値とし、商用車としての実用性と環境性能を高次元で両立させるという。
この発表から半年。今回、トヨタと日野はもう一歩踏み込み、アサヒグループホールディングス株式会社、西濃運輸株式会社、NEXT Logistics Japan株式会社、ヤマト運輸株式会社の4社と、大型FCトラックの走行実証に合意したと発表。両社と同じく地球環境問題を重要な経営課題の一つに位置付け、物流業務での環境負荷低減を進めている各社の協力の下、2022年春ごろよりトヨタの部品輸送も加えた5社の物流業務における大型FCトラックの実用性を確認していく予定だ。
各社の具体的な走行ルート案は以下の通り。
(1)アサヒグループホールディングス・NEXT Logistics Japan
アサヒビール茨城工場(茨城県守谷市)→アサヒビール平和島配送センター(東京都大田区)→NEXT Logistics Japan相模原センター(神奈川県相模原市)→アサヒビール茨城工場
(2)西濃運輸
東京支店(東京都江東区)→相模原支店(神奈川県相模原市)→小田原支店(神奈川県小田原市)→東京支店
(3)ヤマト運輸
羽田クロノゲートベース(東京都大田区)⇔群馬ベース(群馬県前橋市)
(4)トヨタ
トヨタの各工場(愛知県)⇔トヨタ飛島物流センター(名古屋港)
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各社が予定する走行実証のルートマップ案
画像提供:トヨタ自動車/日野自動車
参加する各社は発表の中で、今後FC大型トラックの早期実用化に向けた取り組みを加速させ、持続可能な社会の実現に貢献していきたい考えを表明している。
一方で海外に目を向ければ、トラック販売の世界最大手であるダイムラートラックAGは9月16日に行った技術戦略発表の場で、メルセデス・ベンツFCトラックのコンセプトモデル「GenH2」を世界初公開した。
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ダイムラートラックAGが発表したコンセプトモデル「GenH2」。長距離走行に対応するため、1個あたりの容量40kgのステンレス製液体水素タンクを2個配備。加えて、サポート目的のバッテリーも搭載される
画像提供:ダイムラートラックAG
この車が燃料にする液体水素は、FCVで主流になっている水素ガスに比べて体積あたりのエネルギー密度がはるかに高く、燃料タンクを小さくできることが特徴。1つの水素タンクでの航続距離は1000km以上を目標にしており、これは同クラスのディーゼルモデル並みとなる。2023年に顧客への実用供試を開始し、早ければ2020年代後半には市場へ投入する予定だという。
私たちの暮らしに直結する物流において排出されるCO2が大幅削減されるのであれば、それは地球にとっても喜ばしいこと。
今回のFCトラックをはじめ、便利でクリーンな未来社会実現の一助となる開発競争は、国内外を問わず大いに歓迎したい。
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text:安藤康之