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燃料電池がさらに進化! 繰り返し充電・持ち運び可能な小型燃料電池が水素社会実現を後押しする

二次電池と燃料電池の特性を兼ね備えた「全高分子形リチャージャブル燃料電池」の原理を山梨大と早大の研究チームが実証

自動車や家庭用電源として私たちの暮らしにも徐々に浸透し始めている燃料電池。今後より多くのシチュエーションにおいて利用するべく、さらなる技術革新が求められている。そんな中、日本の研究チームが世界初の繰り返し充放電できる小型燃料電池を開発した。将来的にはモバイル機器電源への搭載も視野に入れる最新燃料電池の詳細をお届けする。

リチウム二次電池よりも安全かつ高効率な燃料電池

エネルギー・環境問題を背景に、クリーンで高効率なエネルギー変換デバイスの開発が世界中で進行している昨今。スマホやパソコンにも用いられるリチウムイオン二次電池の性能や耐久性は日々向上しているものの、リチウム資源は限られる上、そのエネルギー密度の高さゆえに発火のリスクが付きまとうという懸念点もある。

そこで今、注目されているのが燃料電池だ。

電池と名付けられてはいるが、電気をためておくのではなく、水の電気分解の原理を応用して水素と酸素の化学エネルギーを電気エネルギーに変換する仕組みで、イメージとしてはむしろ発電装置に近い。

水素と酸素の電気化学反応によって水と電気が発生する。電圧を加えることで水を水素と酸素に分解する水の電気分解とは真逆のギミックだ

燃料となる水素はさまざまな形で無尽蔵に存在しているので資源を確保しやすい。また、発電時には水が生成されるだけなので、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOX)といった温室効果ガスや大気汚染物質を排出しない。

加えて、化学エネルギーを電気エネルギーへと直接変換するため、従来の発電方法と比べてエネルギー損失が少なく、発電効率が高いことなどが特徴として挙げられる。つまり、クリーンかつ高効率という条件を満たした魅力的なエネルギーというわけだ。

そんな燃料電池の中でも、社会への本格実装が期待されているのが固体高分子形燃料電池(以下、PEFC)と呼ばれるもの。

燃料電池にはアルカリ性水溶液(アルカリ電解質型燃料電池/AFC)やリン酸水溶液(リン酸型燃料電池/PAFC)など電解質の異なる5種類が存在している。

その中で、プロトンと呼ばれる水素イオン(H+)を透過する性質を持った高分子で構成されるプロトン導電性高分子膜(以下、PEM)を電解質とするPEFCは、他の燃料電池と比較して運転温度が低い(常温~90℃)、安全性が高く保守も容易、出力密度が高くコンパクトかつ軽量の特徴を持つ。すでに燃料電池自動車(以下、FCV)や家庭用電源(エネファーム)として実用化されているのでなじみのある方もいるのではないだろうか。

しかし、水素を圧縮して貯蔵するFCVの高圧水素タンクやエネファームの都市ガスを水蒸気改質させて水素を製造する装置(改質反応装置)など、PEFCの要ともいえる水素貯蔵供給システムには携帯性や安全性、エネルギーコストの面で課題が残る。今後、PEFCの応用分野を広げていくためにも、水素タンクや改質反応装置を必要としない新たな仕組みが渇望されていた。

水素を可逆的に吸脱着できるプラスチックシートで何度も充放電が可能に

そうした中、山梨大学クリーンエネルギー研究センターと早稲田大学の研究グループはことし10月、水素を可逆的に吸脱着できるプラスチックシートを内蔵することで、外部から水素供給をしなくても繰り返し充放電を行う世界初の充電式燃料電池「全高分子形リチャージャブル燃料電池」の開発に成功したと発表。

一定電流密度(1mA/cm2)において最長8分程度の発電を、50回繰り返して充放電できることが確認できたという。

開発された「全高分子形リチャージャブル燃料電池」の概念図。水素の吸脱着が可能なプラスチックシート(HSP)を内蔵することで、コンパクトかつ安全な充電式燃料電池の構築に成功した

「全高分子形リチャージャブル燃料電池」の開発でポイントとなったのは、研究グループの一員である小柳津研一教授(姓:おやいづ/早稲田大学理工学術院)らが2016年に開発した「水素運搬プラスチック」。

これは、高強度、高耐熱、低吸水性が特徴の熱可塑性ポリマー「ポリケトン」から生成するプラスチックシートで、イリジウム触媒を含む水に浸した状態で水素を吹き付けることで水素を固定したアルコールポリマーを生成。加温すると水素ガスを放出するというプロセスを繰り返し行える性質を持っている。

研究グループでは、このプラスチックシートを水素貯蔵供給媒体としてセル(単電池)の内側に組み込んだ上で、水素や酸素ガスの透過性(気体透過係数)が異なるPEMを採用した2種類の「全高分子形リチャージャブル燃料電池」を設計。

性能とサイクル特性を比較した結果、気体透過係数が小さくガスを通しにくい方、すなわちガスバリア性の高い方が優れた発電性能を有していることが判明。これにより、PEMのガスバリア性がリチャージャブル燃料電池の性能向上に大きく影響していることを突き止めた。

実証実験では、PEMに気体透過係数が小さい膜(SPP-QP)を用いると、係数が大きな膜(Nafion)を用いた場合よりも高い性能を発揮することが示された

発表にあたって研究グループは、「本手法を突き詰めれば、誰もがどこにでも安全に持ち運びが可能であり、何度でも繰り返し使用可能な創蓄電デバイスになり得ます。今回の成果はまだ原理実証段階にあり、発電時間や電圧ロスなどの課題がありますが、二次電池と燃料電池の特性を兼ね備えた『全高分子形リチャージャブル燃料電池』の原理実証に成功したという意味で、非常に重要な一歩だと確信しています」とコメント。

今後は各構成材料の高性能化や最適化を図り、次世代エネルギーデバイスとしてのリチャージャブル燃料電池の可能性を追求していくとしている。

水素の利活用を大きく推し進めるポテンシャルを秘めた「全高分子形リチャージャブル燃料電池」。

さらなる研究開発が進み、一日も早くクリーンで安全なエネルギーが私たちの暮らしを豊かにする機器へと活用されることを期待したい。

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