2021.1.26
荷物の積み込み運搬は先進技術にお任せ! ANAが目指す地上業務の大変革
人手不足に悩む地方空港の救世主となるか? 実証実験の成功で本格導入へまた一歩前進
全人口に対して、労働力の中核とされるのが15歳以上65歳未満を指す生産年齢人口。しかしその割合は、総務省の調べでは1992年の69.8%から減少が進んでおり、2020年7月の段階では59.3%となっている。今後も働き手の不足が懸念される中、航空業界大手の全日本空輸株式会社(ANA)で省力&省人化に対する実証実験が行われているという。荷物の積み込みと運搬において、ロボット技術や自動運転技術を採用するこの試み。苦境に立たされている航空業界で進む新たな取り組みを紹介する。
人海戦術からロボットによる積み込みへ
世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、大きな影響を受けている航空業界。海外はもとより国内の移動需要も減少したため、各航空会社では物流を除く旅客での運休や減便が相次いでいる。
また、ウイルスの変異株も確認され、感染予防の観点から各社は関連する作業人員を減らしているのが現状だ。
そうした中、高効率な空港業務を実現するための実証実験が、佐賀県佐賀市の九州佐賀国際空港を拠点に2019年3月から進められている。
全日本空輸株式会社(以下、ANA)と機械メーカーの株式会社豊田自動織機が取り組んでいるのは、空港地上業務(グランドハンドリング/以下、グラハン)の新たな形。ロボットや自動運転技術を活用し、省力&省人化を目指すというものだ。
2020年12月に行われた新たな実証実験は、ロボットによるコンテナへの荷物の積み込みと、そのコンテナを飛行機横まで自動運搬する作業の一連化。通常作業では、荷物の運び入れや専用車の運転など、少なくとも5名以上の人員が必要となる。
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12月に行われた実証実験の概要と空港内の位置関係。今回は荷物の自動積み込みと自動運転による運搬が行われた
荷物の積み込みに使用されたのは、約3年の開発期間を要したというロボットハンド。
乗客が受託手荷物として預けることが多いスーツケースに対応するよう開発されており、今回の実証実験では見事コンテナへの自動積み込みに成功した。
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L字形のロボットハンドで荷物を持ち上げコンテナ内へと積んでいく。荷崩れ検知機能も搭載している
国内初の快挙となったロボットによるコンテナへの自動積み込みを実現できた理由は、独自の積み付けロジックを採用している点にある。
まず、ベルトコンベアに乗って流れてきたスーツケースは、カメラによって大きさや形を識別。ソフトケース・ハードケースのいずれにも対応し、回転台まで流されると持ち手(ハンドル)の位置がそろえられる。
その後、ロボットハンドによって持ち上げられたスーツケースは、2つ並んだコンテナ内の荷物状況に合わせて、いずれかのコンテナ内に縦向きか横向きで積み上げられていく。
なお、どちらにも適さないと判断されたスーツケースは、メインコンベア上部のストックコンベアに仮置きされ、タイミングが整った際にコンテナ内に積み込まれるとのこと。
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ロボットハンドとベルトコンベア、コンテナの位置関係。スーツケース以外の荷物は従来どおり係員が積み込むが、全体の約8割を自動で積み込める想定
35kg以下のスーツケースに対応し、1つあたりの積み込み時間は平均25秒。グラハンの係員が積み込んだ場合より約5秒の短縮につながるため、省力&省人化はもちろん定時運航にも貢献する。
また、係員による荷物への接触が少なくなるため、ウイルスなどの感染症対策としてもプラスに働くという。
2025年までの完全自動運転実現を目指して
コンテナへの積み込みが終わると、今度は自動運転技術を搭載したトーイングトラクターの出番だ。
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2020年9月の実証実験では緊急時対応のため係員が同乗していたが、12月は無人での自動走行となった
トーイングトラクターとは、空港内でコンテナや貨車をけん引する車のこと。荷物を積み込む貨物上屋と、飛行機内にコンテナを積み込むハイリフトローダーとの間を往復する約260mを自動走行した。
トーイングトラクターには、レーザーを用いて障害物との距離を検知するセンサー「3D LiDAR(ライダー/light detection and ranging)」を車両上部と前方、後方に設置。GPSやWi-Fi、遠隔監視用のカメラも搭載しており、車両の位置や速度はグラハンの係員が持つ端末へと送られる。
また、車体下部にはカメラが取り付けられており、自動運転を行う前に係員が運転した様子を記録。自動運転の際に路面パターンを認識しマッチングさせることで、自己位置の推定や誘導を行うという。
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トーイングトラクターに搭載された技術一覧。貨物上屋からハイリフトローダーまでは常に同じ経路をたどるため、自動化に適しているという
トーイングトラクターの最大速度は時速15kmで、上屋内は5kmで走行。なお、ハイリフトローダーの位置は便ごとに異なるため、その周辺のみ安全対策として係員による有人運転に切り替えられる。
実証実験が行われた佐賀空港のような地方空港と羽田空港のような大きな空港ではトーイングトラクターがけん引する車両数や走行距離が大きく異なるため、それぞれの空港における走行環境を考慮しつつ導入を検討していくとするANA。今後は、空港内連絡バスの自動運転化も視野に入れているという。
「業務のSimple&Smart化」を掲げ進む同社の実証実験。
今回、ロボットによる荷物の積み込みから無人搬送という一連の工程が成功したことにより、地上業務への本格導入へ近づいたことは間違いない。
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text:佐藤和紀