2021.4.26
VR&5Gで仮想トリップ! 都市部と地方をつなぐ「未来の物産展」が誕生
JR東日本スタートアップ、NTTドコモらが、地方創生に一役買う「VR物産展」の実証実験を実施
桜吹雪に包まれる弘前城を眺め、青森ねぶたの間近まで迫り、帰る前には名産品をお土産に。今の社会状況ではなかなか難しくなった地方への旅行だが、実は四季折々の観光を現地に行くことなく体験できる時代がもうすぐやってくるかもしれない。VRと5Gを組み合わせることで実現した「未来の物産展」とは?
コロナ禍でも開催できる未来の物産展
北海道から沖縄まで、さまざまな地域の名産品が一堂に会する物産展。試食しながら購入できるうえ、現地の出店者との交流やその地域にある観光スポットを知る機会にもなる、まさに“疑似旅行”といえるだろう。地方からすれば都市部に地元をPRする絶好の機会でもあったが、コロナ禍においては、開催すること自体が困難な状況となった。
そんな都市部と地方をつなぐ疑似旅行に、新しいスタイルを提案したのがJR東日本スタートアップ株式会社(以下、JR東日本スタートアップ)、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)、株式会社ABAL(以下、ABAL)の3社。2021年3月に、JR東京駅に隣接する「JAPAN RAIL CAFE」で青森県をテーマとした「未来の物産展」の実証実験を行った。
未来の物産展とは、3DCG、動画、写真などで再現された青森県の観光名所をVRゴーグルで体験できるVR空間(仮想空間)として再現。各エリアに関連する名産品をその場で購入できるというもの。指定された3m×3mのスペース内であれば、実際に歩くとVR空間内の自分(アバター)も動かすことができる。
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手前のアバターがユーザー。実証実験では一度に4人までが同時参加でき、同じ空間上に表示された。地面の黒い枠内が実際に移動できるスペース
今回の体験では、VRゴーグル越しに精巧な青森の風景が描写される。重要無形民俗文化財に指定された「青森ねぶた祭」をはじめ、津軽富士と呼ばれる「岩木山」、「弘前城の桜」、「奥入瀬渓流」、シードルを作る醸造工房「A-FACTORY」の5カ所それぞれが一つの広い部屋のような空間に再現されており、ユーザーは“動く床”に乗って部屋間を移動していく。
現実世界の床が実際に動くわけではないが、VRゴーグルの画面で上や横へ移動したふうに見せることで、まるで乗り物で各スポットを訪れたかのように感じる。これも、VRならではの面白さだろう。
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VR空間に再現された弘前城の桜。JRグループが2021年4月から9月に実施する「東北デスティネーションキャンペーン」の一環として、今回は青森県がテーマに選ばれた
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奥入瀬渓流は、動画と3DCGを組み合わせて再現している
実証を試みたのは、移動制限のある現状でもVRと5Gを活用すれば、地方の観光・物産・食の魅力を伝えられるのかということ。まるで現地に訪れたかのような肌触りをもって地方の魅力を伝えること、それに付随して新しい小売ビジネスのカタチを検証すること、この2つを目的とし実験を行った。
そのために、JR東日本の駅空間、VR技術を開発・提供するABALのシステム、NTTドコモの5G通信という3社のノウハウや技術が存分に生かされている。
5Gで可能になったリアルな仮想ショッピング
先述のVR空間の各観光スポットには、青森の名産品を紹介する掲示板のようなボードが浮かんでいる。ボードの上に商品画像が並べられており、欲しいものに触れると購入することもできるという。
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各フロアにあるボードに、津軽のリンゴや陸奥湾のホタテをはじめ、青森の食材を使った郷土料理、珍味、地酒、ジュースなど計50種ほどの名産品が並んだ
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一部のフードメニューは、会場となった「JAPAN RAIL CAFE」店内で飲食可能だった
このボードで最も特徴的なのが、商品画像と一緒に映っている出店者の姿だ。ビデオチャット形式でリアルタイムに接客し、各空間の観光情報やオススメ商品を紹介。もちろん、ユーザーからの質問にも、その場で答えてくれる。
実現のカギとなったのは、NTTドコモによる5Gの大量・高速・多接続通信。実証実験では都内のNTTドコモ社屋と通信したが、技術的には東京と青森を直接つなぐことも可能で、出店した店主や販売担当者が地元にいながらリアルタイムに接客することも可能だ。
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商品画像に触れると、「カートに追加」などの文字が自分だけに表示される。出店者との会話も5Gのおかげでストレスフリー
店舗面積の拡大はほぼ無限。目指すはVR常設店の実現
通常の物産展は、主催者側からすると百貨店や駅構内の催事場は限られたものであり、いつでも、どの地域でも、気軽に開催できるものではない。
また、出店者側からすれば、販路拡大という大きな利点がある一方で、出店料や人件費、移動費などのコストがネックとなる。町の小さな店が参加するにはややハードルが高いという現実があり、2020年以降のコロナ禍においてはなおさらだろう。
VRと5Gを組み合わせると、これらの縛りから解放される可能性がある。
今回の実証実験で作られたのは、5つのフロアで構成されたVR空間だった。1フロアを大きな箱と捉え、弘前城など各観光スポットをそれぞれのフロアに収めて観光・店舗空間を作った、と考えると分かりやすい。そして、このフロアはデータの容量制限はあるものの、技術上どこまでも広げることができるという。
つまり、巨大ECサイトと同じように、VR空間に巨大なショッピングモールをほぼ無限に増改築できるということだ。
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5つのフロアで構成されたVR空間のマップ。「次の観光地に移動する」に触れると移動できる
これができると、集客のために広い会場を押さえてきた物産展は、小さな店舗の中や駅構内のデッドスペースでも、少なくとも3m×3mのスペースと商品の受け渡しコーナーさえあれば開催することができるようになる。オンラインゲームのように同一VR空間に集めることができるため、通信環境などが整えば、多会場での同時開催も可能だろう。
もう一つの変化が出店コストだ。JR東日本スタートアップによれば、通常数百万円はかかる都内駅一等地への出店費用など固定費が100万円以上、さらに人件費なども大きく削減できる可能性があるという。また、遠距離移動による体の負担も軽減でき、これまで及び腰だった事業者を前向きにできると見込んでいる。
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津軽富士と呼ばれる岩木山。VRゴーグルの先に広大な風景が広がる
未来の物産展は今後、JR東京駅での実験結果を受けて首都圏のJR各駅に展開していく予定だ。さらに、首都圏駅の狭小スペースを利用してVRモールを作り、出店者側のコストを抑えながら売り上げが立つような常設店舗の実現も目指すという。
空間や費用の制限を気にせず、各地域が日本全国に地元の魅力をもっと伝えやすくなる。VR空間での旅が新しい観光の形として、地方を盛り上げる追い風となるかもしれない。
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text:伊佐治 写真協力:株式会社ABAL