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従来比の最大10倍! 理論限界を超える高密度の光電流生成に京大研究グループが成功

熱輻射光源と太陽電池を一体化させた新たな熱光発電デバイス

持続可能な社会の実現に欠かすことができないのが、再生可能エネルギーによる発電量の増加。そのために現在、世界中で研究開発が進められている。そうした中、京都大学の研究グループが、太陽光や各種熱エネルギーを利用した発電システムの大幅な飛躍を期待させるデバイスの開発に成功した。今回は、高密度の光電流(光電子の運動によって生じる電流)の生成が可能な新たな発電方式を採用した注目の発電デバイスをご紹介する。

太陽光エネルギーのもう1つの利用法

再生可能エネルギーの代表格であり、その有効的な活用方法が今なお模索され続けている太陽光──。

近年は光エネルギーを直接電力に変換する太陽光発電の普及が進む中で、もう一つの発電方法が注目を集めている。

それが熱輻射(ねつふくしゃ/物質内部の電子が熱運動することで生じる発光)を太陽電池に照射して電力に変換する熱光発電だ。

熱の伝搬方法の一つとして知られる熱輻射。太陽光が地表を温めるのもこの原理によるもので、身近な例ではハロゲンヒーターが人を温める仕組みに使われている。

太陽光が熱輻射で地表を温めるイメージ図。光が物質に当たることで初めて熱を発生させるのが特徴だ

また、物質の温度が高くなればなるほど熱運動が激しくなり、より高エネルギーな波長の短い光を発生させるのも特徴。熱光発電では物質温度約1000K(ケルビン/摂氏726.85°C)以上で生じる可視光や近赤外線の熱輻射が用いられている。

物質の加熱には太陽光以外にも燃焼熱などさまざまな熱エネルギーが活用できる上、太陽光発電と比較した場合に小さな面積でより大きな電力生成が期待できるという魅力的な発電方法だ。

しかし、実用化にはまだいくつか課題が残されている。

その一つが黒体限界(物質から自由空間<外部空間>に取り出せる熱放射の理論限界)で、現状の熱光発電システムは物質から熱輻射を自由空間に取り出して太陽電池へ照射して電力変換するため、必ずこの黒体限界よりも小さなパワーしか発電に利用できない。

最終的に太陽電池で生成される電力密度は全ての熱輻射を取り出した場合より1桁以上も小さくなるとされ、エネルギーロスの原因となっていた。

熱輻射を光源から直接太陽電池へ伝搬

そうした中、京都大学工学研究科の野田進教授、井上卓也助教、池田圭佑修士課程学生(研究当時)、浅野卓准教授らによるグループはことし8月、黒体限界を超える高密度の光電流が生成できる熱光発電デバイスの開発成功を発表した。

研究グループが考案した新たな熱光発電デバイスの仕組みは、熱輻射光源と太陽電池の間に透明(高屈折率)基板を挟み、その距離を200nm以下にまで近接させるのが大きなポイント。

従来の発電方式(a)と新たな熱光発電デバイスが用いる新しい発電方式(b)の概念図

従来の発電方式は、自由空間の屈折率が光源や太陽電池の屈折率よりも小さく、光源の内部で発生した熱輻射のほんの一部しか外部に取り出せず、大部分は光源内部にとどまってしまう。

一方、新しい発電方式では、熱輻射光源と太陽電池が極めて近くに配置されていることが分かる。これによって、自由空間の伝搬を介さずに物体間で直接熱輻射をやりとりするというのが、新たな熱光発電デバイスのコンセプトだ。

左から、作製された熱光発電デバイスの様式図(a)、シリコンを材料にした熱輻射光源(b)、開発された太陽電池(c)。熱輻射光源を細長い梁(はり)で支える構造を採用。光源から梁を通して逃げる熱を極力減らすとともに、光源部のみを1000K以上の高温に加熱する工夫も施された

実際に作成された熱光発電デバイスは、熱輻射光源─太陽電池間が光の波長よりも小さい微小な空隙(140nm)しかなく、ほぼ一体化。加えて、シリコンの透明(高屈折率)基板にはInGaAs材料(ヒ化インジウムガリウム/半導体素子の材料として多用されている)を用いて開発した太陽電池(c)を組み合わせ、透明基板側に引き出された熱輻射を太陽電池に直接伝搬できるようにした。

実証実験では、同条件下において従来原理のデバイスよりも熱光発電デバイスの方が5~10倍高い光電流密度を確認。

さらに、光源の加熱温度を変化させながら両デバイスで得られた電流密度の最大値をプロットして比較したところ、熱光発電デバイスは光源温度が1100K以上で黒体限界を超える光電流密度(黒体限界の1.5倍)を生成していることが立証された。

従来原理の発電デバイスによる電流電圧特性の測定結果(a)、新しい原理の発電デバイスの電流電圧特性の測定結果(b)、新デバイスおよび従来デバイスで得られた光電流密度の比較(c)

黒体限界を超える光電流密度の実現に成功し、太陽光や熱エネルギーの可能性を大きく広げた今回の研究成果。

しかし、数値計算結果によれば、デバイス構造や光源の動作温度が最適化されれば、現状の単一材料からなる太陽光発電の発電効率(20~25%程度)を凌駕(りょうが)する、35%以上のエネルギー変換効率が実現可能であることが明らかになっているという。

今後も発電効率の向上を目指してさらなる改良に期待したい。

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