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廃炉に向けて高さ120mの排気筒をロボットでリモート解体!

福島の企業がリモート操作に託した復興への思い

2021年11月、日本機械学会による貢献表彰において、福島第一原子力発電所で廃炉作業を担っている株式会社エイブル(福島県)、および東芝エネルギーシステムズ株式会社が「動力エネルギーシステム部門」で表彰された。両社はそれぞれ高度なリモート操作を用いた廃炉作業プロジェクトを完遂し、「遠隔ロボット技術を駆使した福島第一廃炉作業の進展」を評価されての受賞だった。これら表彰のプロジェクトはどのような作業であり、そのテクノロジーはどのような可能性を秘めたものなのか?今回はエイブルに、プロジェクト概要や秘話、今後の展望を伺った。

地元企業が担った高度なリモートミッション

現在も廃炉作業が進む福島第一原子力発電所には、原子炉建屋などの排気に使われていた「排気筒」が4基ある。そのうちの1・2号機共用排気筒は、耐震基準を十分に満たしていたが、事故の影響により損傷している箇所が見つかったため、将来、経年劣化による倒壊など、万が一の事故を起こさないためにも早急に撤去作業に着手する必要があった。

だが、解体時に放射性物質が飛散する懸念と、120mもの高さの建造物を人が近づくことなく、どのように撤去するのかという難題を抱えていた。この難題を克服するべく解体を請け負ったのが、地元・福島の企業、株式会社エイブルだ。

福島県双葉郡大熊町に本社を置くエイブルは、同発電所のプラントのメンテナンスや工事を請け負うほか、アームやマルチアタッチメントを搭載したロボットの設計・開発を主な業務としている。震災後は、建屋雨水貯蔵施設の汚染水除去を遠隔操作ロボットで行うなど、廃炉に向けた工事業務を担っている。200名ほどの社員の内6、7割が地元・福島県の出身者だという。

そんなエイブルの排気筒解体作業におけるリモート操作が今回の表彰の対象となった。

実際、どのような技術が用いられ、作業が進められたのだろうか?

同社の技術開発本部 技術開発部の佐藤哲男部長が解説する。

「地上120mもの高さとなる排気筒の解体では、通常、作業者が立ち入り“だるま落とし”のように下から解体する工事が一般的です。しかし現場は高線量で、さまざまな障害も残り立ち入りが困難ですので、大型クレーンで解体装置(解体用ロボット)を吊り上げ、上から輪切りにする方法が採用されました」

解体装置は750tクレーンで吊り上げ、筒身解体ツールを直径3m、厚さ1cmの排気筒へ差し込み、内部からチップソー刃で切断。同時に切断で生じる飛散物を吸引する。周囲の把持装置部分は先端アタッチメントが変更可能で、6軸アームロボットを設置し排気筒を囲う鉄塔部分の切断にも対応(右図)。分解後はそのまま装置とクレーンで地上に下ろす

解体工事の責任者を務めた浪江町出身の佐藤氏。「装置の設計、制作、モックアップ、施工まで全工程を取りまとめ、関係者と相談しながらプロジェクトを安全第一で進めていきました」

プロジェクトは5~10人程度から始動し、設計をわずか8カ月で完了した。

技術開発部情報システムグループの目黒英二課長は、「制作段階に進むと管理、制作スタッフも含め50人ほど、その後、モックアップ(本番を想定した練習)を経て実作業には100人超が携わる作業となりました」と、その規模感を明かす。

作業は2019年8月に開始。排気筒を23ブロック、各16tずつに解体し実質5カ月で完了させる予定だった。だが「1ブロック目に30日、1カ月を要してしまいました」と佐藤氏は振り返る。

1Fの1・2号機排気筒解体モックアップの状況を映した動画

「モックアップで十分確認したはずなのに、海からの“強風”が難敵となり、作業が想定通りには進まず、『本当に終わるのだろうか?』という不安に押し潰されそうになりました。そんな困難な状況でも、周囲の協力企業の方々に粘り強くサポートいただき、私たちも改善に取り組むことができました」

画期的な“ミシン切り”で、工期の遅れを取り戻す

強風対策、問題克服のポイントは切断方法の改善だった。

排気筒を横に輪切りする際、切断面に縦の応力が加わり、排気筒が歪んで刃が食い込んでしまい動作不良を起こす問題が生じていた。これを解決するため考案されたのが、ミシン目状に切断する手法だった。

「この“ミシン切り”という新たな切断方法を考案、挑戦したこと、加えて協力企業と作業映像を共有し改善策を多角的に練ったことで作業の流れがガラリと変わりました。強風に左右される作業は予定通りに進まないものと考え、時間に余裕を持って100人を4班に分けた体制で作業プログラムを再構築し、マニュアル改善を重ねたことで、最終的には残り4か月で残り22ブロックを切断。ものすごい追い込みで2020年4月に完遂できました」(佐藤氏)」

1~2ブロック目の作業時、刃が食い込むトラブルが続き、これをチップソー刃でミシン目状に切断することで解消。作業効率が一気に加速した

これらの作業を現場から離れた低線量の場所からリモート操作で行う。

目黒氏は、通信ができる限り切れにくく、切れてしまっても早急に復旧できるよう、産業用Wi-Fi環境をより作業環境に適応するようカスタマイズを担った。

いわき市出身の目黒氏は、排気筒切断に用いられた装置および通信関係の設計・制御を管轄。「現場での施工も担当しつつ、1・2号機の他のプロジェクトにも対応させていただきました」

「当初は通信が途絶え作業をストップさせてしまうことも続きましたが、製品の仕様確認、現場の状況把握などひとつひとつ細かく徹底、改善することで最終的に安定した環境を整えられました。制御関係では、リモート操作を行う上でどのようなインターフェースが装置を操作し易くするかに最重点を置き、細かな操作はマウスで行えるよう設計しています。とにかくいろいろ試して着実に問題を解決していきました」

リモート操作はバスをカスタマイズした指令室から行う。「モックアップの際に移動させやすい設備としてバス内に設置し、実際の作業でもそのままバスを活用しました」(目黒氏)

福島復興のために、地元企業ができること

佐藤氏は次のように話す。

「今回の作業は全国区のメディアでも『福島の中小企業が高所の建造物をロボットで解体』というトーンで扱われ、大きな注目を集めました。たいへん高度な技術なのですが、特に地元の方には『何をやっているのか分からない』と思われていた節があり、テレビの特集で理解していただけたという方もいました。地元のおじいちゃんは『ラジコンで何か壊してるんだな』なんて話していました(笑)。作業内容が見えませんでしたので当然ですよね。それが『あんな作業をしていたなんてすごい』と言われるようになったのは、本当に励みにもなりましたし、とても誇りに思っています」

同じく表彰された東芝エネルギーシステムズについて「私たちがトラブルで頭を悩ませていた同じ時期、別のトラブルへ懸命に対応されていて 、その存在に励まされました」(佐藤氏)

震災当時も同発電所で勤務していた佐藤氏は地元への思いが強く、震災直後から「なんとかして復興を」という思いを強く持ち続けてきた。

「エイブルの本社には現在も立ち入れない状態ですが、震災から10年経ち、復旧しつつある街を見ると、『生まれ変わる福島に貢献できたら』という思いが強まります」

目黒氏は今回の表彰をきっかけに「私たちのような中小企業でも表彰していただける仕事ができる、という勇気のようなものを地元の企業、人々にも感じてもらえたらうれしいです」と語る。

「今までは設計・開発が主な業務でしたが、今後、遠隔ロボットの技術はさらに重要性を増すと思います。今回のプロジェクトで得た経験を生かし、さらなる知識・スキルを身につけ復興に貢献できることは何かを見据えながら作業をしていきたいと思います」

復興に取り組む中での今回の表彰は、技術への評価に留まらず、“地元の思い”を広めた上でも計り知れない。

技術はもちろん、福島復興への活力となるであろう今後の活躍に期待したい。

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