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山梨県北杜市で完全オフグリッド住環境の構築に向けた生活実証がスタート

太陽光で発電した電気を蓄電池に貯蔵し、生活に必要な電気を安定供給

新たな生活様式として注目されるオフグリッド生活──。既存の社会インフラに依存しない住環境の構築は果たして実現可能なのか。今回は、そのアンサーとなり得る実証実験の詳細を紹介する。

2050年の二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロに向けて求められるライフスタイルの変化

「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」(2021年12月9日環境省発表)によれば、日本のCO2総排出量は10億4400万トン。

産業別で見るとエネルギー転換部門の排出量は4億2200万トンで、全体の約40%を占めている。

2020年度の部門別CO2排出量を示すグラフ

※「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」(環境省)を基に作図、小数点以下切り捨て

このエネルギー転換部門のほとんどは発電に伴うものであり、家庭部門も合わせると、私たちは日常生活を送る中で年間排出量の約45%に当たるCO2の排出に関わっていることになる。

今後、日本政府が目指す2050年のCO2排出量実質ゼロを実現するためには、一人一人がより節電意識を高め、間接的にエネルギー転換部門のCO2排出量削減にも貢献していかなければならない。

そこで近年注目を集めているのが、オフグリッド生活と呼ばれるライフスタイルだ。

オフグリッドとは電力会社の送電網に頼らず、生活の中で使用する電力の一部または全部を自給自足で賄うこと。各家庭への普及が徐々に進んでいる太陽光発電などはその最たる例といえる。

しかし、いきなり全ての電力を自給自足する完全オフグリッド生活に移行するのは、発電量や初期コストなどの問題があって難しいのが現状だ。

エネルギーや水などのインフラ領域における自律分散型テクノロジーを集積

そうした中、不動産・住宅情報サイトの「LIFULL HOME’S」などを展開する株式会社 LIFULL(ライフル)と、社会インフラ領域のイノベーション推進と新産業創出を目指すU3イノベーションズ合同会社は共同で、既存インフラに依存しない完全オフグリッド住環境の実現に向けた実証実験を2022年3月1日より開始した。

実証実験に向けてLIFULLは、場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約にしばられることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方(LivingAnywhere)を実践することを目的としたコミュニティ「LivingAnywhere Commons」の一拠点である山梨県北杜市の「八ヶ岳北杜」の敷地内に、「オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳」を新設。

オフグリッドソーラーや小型淡水化装置を実装することで、最大2世帯が生活できるオフグリッド住環境を実現しているという。

今回使用されるインスタントハウスは、ドーム形の生地を空気によって膨らませた後、内側からウレタン材を吹き付けると、生地とウレタン材が一体になった建築物が出来上がる手軽さがウリ。

生地とウレタン材の2つのみというシンプルな構造のため、形や大きさ、機能が自由自在に変更でき、多様なシチュエーションへの対応が可能になっている。

名古屋工業大学大学院工学研究科の北川啓介教授とLIFULLが建築技術開発を目的として設立した「LIFULL ArchiTech」で開発されたインスタントハウス。極めて高い利便性と快適性を確保しているのが特徴だ

計5棟が連なるインスタントハウスは、1棟をLDK棟としてキッチンユニットやダイニングテーブルを配置。2棟は住居棟となり、ベッドやデスクが完備される。

残る2棟のうち、1棟が水回り棟でシャワーや洗濯機、洗面台、トイレなど、もう1棟は蓄電池などの電源設備と水処理設備および給湯設備を有するインフラ棟として整備された。

ネクストエナジー・アンド・リソース社のソーラーカーポート「Dulight」と、オフグリッドシステムから成る2棟のソーラーカーポートには、それぞれ出力5.1kWの太陽光発電装置が備えられており総出力は10.2kW。

発電した電気はインフラ棟の大容量蓄電池に充電されるため、夜間や雨の日でも建物内の家電・設備類を安心して利用できる。

雨よけや日よけの役割を担うソーラーカーポートの屋根が太陽電池モジュールとなる

また、建物内で利用された生活排水は、インフラ棟の水処理設備で浄化され、シャワーやキッチンなどで循環利用される仕組みだ。

インフラ棟に配されるワイズグローバルビジョン社の小型淡水化装置「MYZシリーズ」。脱塩、塩分除去により海水から真水を作れるほか、濁水などもろ過して厚生労働省が定める水道法の基準値をクリアする真水に変える優れもの

なお、両社は継続的な実証実験を実施し、そこで得られた知見に基づく商用トライアルを経て、2023年をめどにレジャー市場におけるインフラとしてサービスイン。将来的には、地方のライフラインを支えるサービスとしての展開を考えている。

完全オフグリッド生活の実現を大きく期待させる今回の実証実験。

カーボンニュートラル社会を支える仕組みの一つの解となるか。今後の動向に注目したい。

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