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核融合炉のキーパーツ誕生? 東京工業大学らの研究チームが材料腐食のメカニズム解明

スズと反応しやすい金属元素もあらかじめ酸化させることで腐食反応を大きく抑制

官民問わず、世界中で開発が進められている核融合炉。今回、日本の研究チームがその開発をさらに加速させ得る研究成果を発表した。早期実装が期待される次世代エネルギーの最新研究の詳細を紹介する。

プラズマの超高温から核融合炉の最重要機器を保護する新材料

2025年の運転開始を目指して世界7極(日本、EU、米国、韓国、中国、ロシア、インド)の連携で建設中の大型国際プロジェクト「核融合実験炉(ITER/イーター)」をはじめ、国内外で民間主導による研究開発も加速している核融合炉。

完成すれば人類初の核融合実験炉となる「ITER」

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研/QST)量子エネルギー部門「ITERイーター計画」より引用

1.燃料を海水から無尽蔵に取り出せる
2.膨大なエネルギーを生み出す
3.温室効果ガスを排出しない
などの理由から、次世代電源としてかかる期待が大きい。

そんな核融合炉における最重要機器の一つとなるのが、プラズマ(核融合反応を起こすために用いる原子核や電子といった荷電粒子の集まり)からの高熱負荷に耐えながらプラズマの真空排気を行うダイバータ(核融合炉内でプラズマ中の不純物をガス化して排気用ポンプへと導き、プラズマの純度を維持する機器)だ。

核融合炉の稼働中、ダイバータの構造材の一部においては大気圏に突入する際のスペースシャトルと同レベルの熱負荷がかかるため、ダイバータには極めて高い耐熱性が求められる。

そこで熱に強い材料のブロックをプラズマと接触する部分に配置して高温高圧水で冷却する固定ダイバータの開発研究が進められる一方、優れた冷却性能を有する液体金属でダイバータの構造材料を覆ってプラズマから保護する液体金属ダイバータという革新的な仕組みも検討されてきた。

ダイバータを保護する液体金属の材料として注目されているのが、食器の素材やハンダの成分に用いられているスズ(Sn)だ。

スズは融点温度が232℃と比較的低いため液体の状態での使用に適しており、高温時の蒸気圧が他の液体金属に比べて低いという特徴がある。

液体金属スズを冷却材として用いる場合、プラズマにより加熱されて高温になっても蒸発しにくく、さらに蒸発した金属がプラズマへ混ざりにくいという長所がある。

その半面、高温になると構造材を腐食させてしまうという技術的な課題が残されていた。

左から(a)スズの食器 (b)液体金属流体(c)液体金属ダイバータの仕組みと腐食の課題

画像提供:東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所

そうした中、東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授をはじめとする研究チームは、核融合炉の候補構造材である低放射化フェライト鋼(Fe-9Cr-2W-0.1C)が400~600℃の液体金属スズ中で腐食するメカニズムの解明に成功。

さらに、鉄(Fe)やクロムの酸化物焼結体が液体金属スズに対して優れた耐食性を示したことで、液体金属スズダイバータの開発に見通しがついたと2022年12月5日に発表した。

構造材腐食の課題に解決の見通し

研究チームは、まず低放射化フェライト鋼を液体金属スズに浸漬させて、腐食が進む様子を調査。

その結果、低放射化フェライト鋼が液体金属スズと接した場合、腐食し始めるまでの腐食が生じない期間(インキュベーションピリオド)が非常に短く、鋼に含まれる鉄成分と高温のスズが反応して金属間化合物(FeSn2など)をスズ側に向かって急速に成長させながら材料を腐食することが判明した。

液体金属スズに浸漬した低放射化フェライト鋼の表層断面の走査型電子顕微鏡像。(a)500℃の液体金属スズに25時間浸漬した場合、(b)500℃の液体金属スズに250時間浸漬した場合

画像提供:東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所

また、500℃の液体金属スズに10日間浸漬させたところ、約155マイクロメートル(1メートルの100万分の1)ほどの厚さの金属間化合物を形成して腐食し、同時に液体金属スズが鋼の微細組織に内方拡散して腐食が進行することも確認された。

高温の液体金属スズに接した鉄鋼系構造材は、外側と内側に向かって金属間化合物を形成しながら腐食することを突き止めた研究チームは、続いて鉄の酸化物(Fe2O3)とクロムの酸化物(Cr2O3)の焼結体を使用して、500℃の液体金属スズとの共存性試験を実施した。

液体金属スズに浸漬した酸化物焼結体の表層腐食組織断面の走査型電子顕微鏡像。(左)500℃の液体金属スズに鉄の酸化物の焼結体を262時間浸漬した場合、(右)500℃の液体金属スズにクロムの酸化物の焼結体を262時間浸漬した場合を示す

画像提供:東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所

その結果、焼き固める際にできた空孔にスズが部分的に侵入しているものの、鉄の酸化物の焼結材表面に生じたスズとの反応組織の厚さは約1マイクロメートルと非常に薄く、低放射フェライト鋼に比べて100分の1以下。

また、クロムの酸化物の焼結材でも表面のスズとの反応組織が非常に薄いことから、スズと反応しやすい鉄のような金属元素でもあらかじめ酸化物にすれば腐食反応を大きく抑制できることが初めて明らかになった。

今回の発見について近藤准教授は、「液体金属スズは多様な特性を兼ね備えた優れた冷媒です。本研究成果によってこれまで応用範囲を制限していた構造材腐食の課題に、解決の見通しが立つ状況になりました。今後、構造材との共存性の課題が解決されれば核融合エネルギーに限らず、太陽熱発電所や海水淡水化プラントなどへの液体金属スズの利用促進が期待されます」と言う。

持続可能なゼロカーボンエネルギーの誕生を大きく前進させる今回の発表。

今後もその実現に向けて、さらなる研究の発展に期待したい。

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