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腸の筋肉のように動く「ハイドロゲル」をNTTが開発

生体器官の動きを再現する「光駆動型オンチップ運動素子」誕生で再生医療への活用に期待

日本電信電話株式会社(以下、NTT)は、コンタクトレンズに用いられ、網目状の高分子内に大量の水を含む柔らかな材料「ハイドロゲル」の薄膜を利用し、臓器の動きを再現できる運動素子を作製することに成功した。この運動素子は、現実で収集したさまざまなデータをデジタル上で再現する「デジタルツイン」技術を医療に活用する「バイオデジタルツイン」(以下、BDT)実用化に向けて多大な影響を与えるものとして期待されている。今回は医療分野における最新テクノロジーを紹介する。

BDT実現のカギとなる「ハイドロゲル」とは

NTTは医療分野の先端技術研究の一環として、生体外で細胞を培養し、臓器のような高度な生体機能を人工的に再現する技術を研究している。この技術は、細胞生物学や再生医療、創薬など幅広い分野において注目を集めている。

中でもセンサ基板(チップ)上などで生体機能を再現する「オンチップ型人工臓器」の実現は、細胞レベルの解像度で取得した臓器データを基にデジタル空間で臓器モデルを再現・研究するBDTの実現につながる。そして将来的には実験動物や人体に頼らずに臨床試験を行うほか、さまざまな人工臓器を創製する技術としても期待されている。

オンチップ型人工臓器のイメージ

画像提供:NTT

オンチップ型人工臓器の創製には、実際の生体内に近い細胞の培養環境を、生体に優しい材料と生体に近い形状で整えることが課題となる。その課題解決にNTTの研究チームが着目したのが「ハイドロゲル」だ。

ハイドロゲルは、水を吸収して膨らむ「膨潤(ぼうじゅん)」によって体積が変化する材料で、生体適合性も高く、生体に優しい特徴を有している。主にコンタクトレンズや人工軟骨、人工血管などの医用材料、細胞培養の基材といった医療・バイオ研究用材料として広く利用されている。

独自手法による形状変化で高性能運動素子が誕生

今回の研究では、まず培養基材としても使用されるハイドロゲル「ポリイソプロピルアクリルアミドゲル」の薄膜を、光に反応して発熱するナノ材料「金ナノロッド」と複合化し、光刺激で体積変化が可能な材料を設計・作製。次に、この材料を膨潤作用と薄膜をアーチ状に変形させる物理現象「座屈(※)剥離」を利用した独自手法「オンチップ構造形成法」を用いて、生体に類似した薄膜・管状構造を作製した。
※構造物に加える荷重を次第に増加すると、ある荷重で急に変形の模様が変化し、大きなたわみを生ずること

光駆動型の運動素子の概要

資料提供:NTT

この結果、光刺激による腸管の分節運動(小腸などで腸内容物の分断・攪拌を担う運動)と蠕動運動(ぜんどううんどう/小腸などで腸内容物の輸送を担う運動)を、実際の臓器に匹敵する性能で模倣する「光駆動型オンチップ運動素子」が誕生した。

光照射によって滑らかに素早く動かせる、世界トップレベルの性能の運動素子が実現

資料提供:NTT

今回実現した光駆動型オンチップ運動素子は、細胞培養と合わせることでオンチップ型人工臓器を確立させる基盤技術として、細胞生物学や再生医療、創薬分野での今後の活用が期待される。

また、オンチップ構造形成法で座屈変形させる手法は、幅広い薄膜材料に適応可能な運動素子の作製手法として他分野での応用も考えられるという。

NTTは今回の研究で得られた多くのデータから、BDTの構築・検証を進め、さらなる研究を進めていく。

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