2023.6.15
リチウムイオン電池より高容量! 東北大がレアメタルフリー空気電池用正極触媒を開発
レアメタルを用いず空気電池の高電圧&高出力化を実現し、EV(電気自動車)やドローンへの活用に光明
正極に酸素を、負極に金属を用いる金属空気電池(以下、空気電池)。その金属触媒として新たにレアメタル不使用の空気電池用の正極触媒を、東北大学 材料科学高等研究所が独自に開発した。従来の白金炭素(以下、Pt/C)を用いた触媒では劣化してしまう環境下でも高い触媒活性を維持でき、実用化への期待が高まる。その詳細を紹介する。
(カルーセル画像:chesky / PIXTA<ピクスタ>)
次世代空気電池は長時間の高出力維持が課題
大気中の酸素を取り込んで放電する空気電池は、電池自体を形成する物質が少なく軽量かつ小型で、エネルギー密度の高さからリチウムイオン電池などよりも放電効率が高いという特徴を有している。
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二次電池のエネルギー密度と出力密度の関係を示すグラフ。空気電池はリチウムイオン電池に比べて大容量であることが見てとれる
資料提供:東北大学
中でも亜鉛を触媒に用いた「亜鉛空気電池」は蓄電容量の大きさから次世代エネルギーデバイスとして、将来的にはEV(電気自動車)やドローンへの実用化、それに伴う走行・飛行距離の長距離化や燃費効率化への貢献が期待される。
しかし、亜鉛空気電池は電圧が1.4V程度で、3.7Vを発生させられるリチウムイオン電池などと比較して出力が低い。そのため現在の用途は、低出力で長時間駆動する補聴器などに限られるため、高出力化の研究がさまざまな施設で行われている。
レアメタルフリーで、高コスト&資源問題も解決
高出力化は、電圧を引き上げることが課題である。亜鉛空気電池の電圧は負極で亜鉛が電解液に溶解する電位と、正極における酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction以下、ORR)の電位差で決まる。
ORR反応を上げるにはPt/C触媒などを用いる方法もあるが、Pt/Cはレアメタルであり、高価かつ資源枯渇が危惧され代替触媒の研究が求められている。
その課題に取り組んだのが、東北大学 材料科学高等研究所の藪 浩教授と同大学発のベンチャー企業、AZUL Energy株式会社からなる研究グループだ。
同グループでは2017年に、レアメタルフリーで高いORR活性を示す「AZUL触媒」の開発に成功(論文発表は2019年)。この触媒は、青色顔料の一種「鉄アザフタロシアニン」を炭素上に分子吸着した電極触媒で、アルカリ環境下でPt/Cに匹敵する性能を示すことが明らかになっている。
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各電極の反応電位は、電解質の水素イオン濃度(pH)に依存する。正負極ともにアルカリ性(a)、正負極ともに酸性(b)、正極を酸性、負極をアルカリ性(c)にした電極触媒の反応電位を比較すると、(c)が最も大きな電圧を与えることを示している
資料提供:東北大学
さらに、AZUL触媒の亜鉛空気電池への適用性を検討。AZUL触媒とPt/C触媒を正極のカーボンシートに塗布し、3Dプリンターでアルカリ電解質を用いた亜鉛空気電池セルを作製して出力特性と放電特性を評価した。その結果、AZUL触媒のセルは1/2~1/3の触媒量でPt/Cと等しい性能を示し、正極触媒の高い重量活性を反映していることが確認された。
その上でAZUL触媒による正極と、酸性電解質とアルカリ性電解質とをタンデムに配置したセルを空気電池に用い、開放電圧(端子に何もつないでいない状態の出力)が2V以上の高出力を有する亜鉛空気電池の実用化への道を見いだした。
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AZUL触媒を正極に使用し、正極側に酸性電解質、負極側にアルカリ電解質を設置できるタンデム型セルを作製
資料提供:東北大学
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タンデムセルにより最大2.25Vの電圧を発生させることに成功。これまで報告されているレアメタルフリー正極触媒を用いた亜鉛空気電池で最も高電圧・高出力を記録した
資料提供:東北大学
今回の研究は、AZUL触媒が酸性環境下においてもレアメタルフリーの白金代替触媒として有効であることの証左となった。
研究グループでは、今後もセルの面積拡張やスタック化を研究することで、EVやドローンなど輸送デバイスにも適用可能な金属空気電池の開発を進めていく予定とのこと。
大容量で低コスト、資源問題をクリアした新たな電池の活用促進を見守りたい。
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text:大場徹(サンクレイオ翼)