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サーキュラーエコノミーを後押しする“ケミカルリサイクル”とは

世界視点で見る日本のリサイクルの現状と課題に迫る

サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実現させる上で切り離せない取り組みが廃プラスチック(以降、廃プラ)のリサイクルである。そのリサイクル手法は廃プラスチックからの再製品化、廃プラのエネルギー化などに分かれるが、近年、新たなリサイクル手法が欧米を中心に台頭してきている。その手法、“ケミカルリサイクル”とはどういう発想によるもので、日本のリサイクルの現状をどう変えるものなのか──。世界のケミカルリサイクル事情に精通する工業触媒コンサルタントのアイシーラボ、室井髙城(たかしろ)代表に話を伺った。
(メイン画像:Satura、カルーセル画像:OlegDoroshin / PIXTA<ピクスタ>)

日本で区分される3つのリサイクル

現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の客員フェローを務めるアイシーラボの室井髙城代表は、これまで多種多様な工業触媒の開発に50年以上にわたって携わり、触媒の歴史を見続けてきた。

「定年後も早稲田大学などで工業触媒について調査し、CO2を削減する触媒反応、その関連から廃プラ利用を調べる過程で、昨今は国内外のケミカルリサイクルが主な調査・研究テーマとなっています」

“ケミカルリサイクル”は廃プラを化学的に分解することで化学製品の原料として再利用する手法だ。この他のリサイクル手法には、廃プラをプラスチック製品の原料として再利用する“メカニカルリサイクル”(呼称:マテリアルリサイクル)、廃プラを焼却した際の熱エネルギーを再利用する“サーマルリサイクル”がある。

ただひと口にケミカルリサイクルと言っても、室井氏は「多様な方法があり、簡単に定義付けすることは難しい」と解説する。

廃プラリサイクルの体系図。分解(熱分解)以外にも、液化、ガス化で化学製品の原料へ戻されるケースもあり、この点がケミカルリサイクルの定義の難しさだ

資料提供:室井髙城

「ケミカルリサイクルは欧州で始まり、廃プラを液化したものをナフサクラッキング(ナフサ=軽質油を840~920℃で熱分解)し、エチレンやプロピレンなど化学材料を製造することを指していました。もともと欧州では廃プラは『埋めない』『燃やさない』『リサイクルする』が基本原則で、日本より早く法整備が進み厳格化されたわけです」

「日本では昭和電工株式会社(現・株式会社レゾナック)が2003年から廃プラをガス化し、水素とアンモニアを作る事業を行っており、これが国内ではケミカルリサイクルのはしりだと考えられます」(室井氏)

一方、日本ではこれまでサーマルリサイクルが定着していた。

「熱利用による温水化や発電止まりでリサイクルとしては非常に効率が悪く、これからはきちんと廃棄物を材料へ還元する段階まで進めなくてはなりません。また、サーマルリサイクルは日本独自の発想で、海外では“廃棄物そのものの再利用ではない”という観点からリサイクルとは捉えられていないのです。日本では2020年に廃プラが822万t排出され、約87%がリサイクルされましたが、サーマルリサイクルなどを除くとリサイクル率は約21%まで下がり、これは先進国では非常に低い水準です」

その約21%がメカニカルリサイクルとなっている。この数値に今後ケミカルリサイクルが定着することが、循環型経済を本格的に加速させると言えるだろう。

問われる「ソーティング」の必要性

室井氏は、ケミカルリサイクルが欧州で進んでいる背景に「民間の意識の高さと石油化学メーカーの責任があります」と、日本と比較しつつ説明する。

「日本はリサイクル向けの回収がまだまだ確立していません。例えば、ドイツでは民間による“ソーティングセンター”という選別施設が全国で約70カ所稼働しています。ここでポリプロピレン、ポリエチレン、フィルム、混合プラスチック…など、近赤外線などによる選別機でオートメーション選別し、それぞれにマテリアルリサイクルできるものはマテリアルリサイクルされ、量的に圧倒的に多い混合プラスチックはケミカルリサイクルされます」

ドイツの分別回収では、プラスチックは全てひとまとめで回収され、民間のソーティングセンターで細かく分別した上でリサイクルされる

資料提供:室井髙城

ドイツでは1996年に「循環経済・廃棄物法」が施行され、国家主導の下、民間企業がソーティングをビジネスとして担ってきた。また、ペットボトル回収にはスーパーやコンビニへ持参するデポジット制度も導入され、その回収率は約98%とされている。この取り組みは周辺諸国へも広がりを見せ、欧州における循環型経済を実現させる土台となっている。

「日本では、『容器包装リサイクル法(容リ法)』により市町村がこの役割を担っているわけですが、その選別・回収方法は自治体ごとで異なっています。プラスチックも“プラ”のリサイクルマークがあっても、実はポリプロピレン、ポリエチレンなど細かく選別しなければリサイクルが難しいのです。自治体にはそこまで対応する余裕はなく、選別しやすいペットボトルだけがリサイクル業者に渡され、あとは、ほとんど燃焼処分されています」

プラスチックを製造・販売するメーカーについてもこう語る。

「欧州では石油化学メーカーが『売ったものがどうなるか見届ける責任がある』と考えています。ですが日本の場合は、プラスチックを売った後のことは、ほぼ無関心だったと言えます。生分解性プラスチックを作る取り組みなどはあっても、廃棄物であるプラスチックは、石油化学原料とはなり得ないという経営判断などから、自ら改善へはなかなか本腰が上げられず、海外と比べると5~6年の取り組みの遅れが顕在したわけです」

この改善のために施行されたのが、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック新法)であり、容リ法でリサイクルが義務付けられていたプラスチック容器・包装にとどまらず、プラスチック製品全般で排出・回収・リサイクルに取り組むことが事業者に求められるようになった。その上で「技術面においては、欧州のリサイクル業者が日本にその技術を売り込んでいるのが現状です」と室井氏は続ける。

「例えば、米国バイオ科学ベンチャーであるアネロテック社は廃材をガス化し、化学製品を作る技術を廃プラへ応用し、日本では豊田通商グループやサントリーグループが、この技術を導入してケミカルリサイクルを推進しようと動いています。

また昨年、米国では世界有数の化学メーカーであるライオンデルバセル・インダストリーズ社が、混合プラスチックをシュレッダーで粉砕し砂と混ぜてガス化してモノマー(エチレン、プロピレンが結合してポリマー=ポリプロピレン、ポリエチレンになる前の分子)にまで戻すプラントを建設しようとしているという話もありました。こうした先進的な海外企業との提携に動いている国内企業は多く、今年はその動きが表面化してくるのではないでしょうか」

※プラ新法に関する記事:「プラスチック新法」を3分解説!

「プラスチックをプラスチックに」を当たり前に

プラ新法の施行と前後して、国内のリサイクルの動きは変化し始めているようだ。

「日本の場合、熱分解の設備がそのまま利用できる観点から三菱ケミカル株式会社が英国ノムラ(ノムラ・アセット・マネジメント UKリミテッド)の技術でナフサクラッキングを始めようとしていますし、三井化学株式会社は、ドイツに本社を置く世界最大級の総合化学メーカーの日本法人であるBASFジャパン株式会社のシステムを導入し、廃プラのリサイクルをしようとしています。あとはペットボトルからペットボトルのメカニカルリサイクルは、いまだ3割程度であり、安価で行えることから今後、さらに伸びるでしょう」

ここにケミカルリサイクルが加わることで“材料”を巡る動きもし烈化しているとのこと。

「リサイクルするにしても、その材料が必要ですからね。例えば、サントリーホールディングス株式会社は東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)と協働で駅ナカにリサイクルステーションを設置するなど、新しいペットボトル回収の流れが生まれています。その一方で、自治体の取り組み方も見直されてくるでしょう」

市町村では、例えばペットボトルもガラス瓶も一緒くたに回収し、特殊な液化装置でペットボトルだけを液化して燃料として再利用するなどの事例もある。

「ただ、多くの自治体が『今の焼却施設ではダイオキシンが発生する』など社会的背景が取り沙汰され、設備投資が盛んだった時期からそろそろ20年がたちます。焙焼炉の寿命から交換時期に入っているため、熱分解炉の導入などを意識してもらいたいですね。ケミカルリサイクルは分子レベルで分離することで、製品として再利用できますが、液化して燃料にというのは、燃やして終わってしまう。そうではなく、循環型経済では“プラスチックがプラスチックに戻る”というリサイクルを目指すべきでしょう。

そうなると『消費者はどう捨てるのか?』『どこで、誰がソーティングするのか?』という問題も浮上します。そこを国がさらにリーダーシップを発揮し、整えてもらいたいと考えます。

例えば、少なくとも都道府県ごとにソーティングセンターを設置して、メカニカルリサイクルできるものは行い、メカニカルリサイクルの困難な混合プラスチックは液化してケミカルリサイクル、紙や食品残渣(ざんさ)などと混合している都市ごみはガス化して化学品原料や航空燃料の合成に用いるといった選別システムを整える。そこまで実現できて、ようやく日本の循環型経済は欧州に追い付くのだと思います」

2050年のプラスチック原料の分布予測では、石油由来のものは0%、60%強がメカニカルリサイクルとケミカルリサイクル、残りがバイオマス由来の原料で賄われるという

資料提供:室井髙城

これらを達成することで「本当のケミカルリサイクル社会が実現できる」と室井氏は話す。

「2050年、世界のプラスチック需要は現在の4億tから12億tと実に3倍にも増えると言われています。これはアジア圏での人口増や経済発展によると思いますが、中国ではペットボトル回収工場が次々と建てられていますし、日本のような焙焼設備が整っていない東南アジア諸国では、日本以上にプラスチックは回収して使う意識が高まっています。

技術的には、将来はバイオマス原料はもちろん、CO2と再エネ水素からプラスチックを作る技術を確立させ、それらもまた循環させる世界が来るといわれています。どこまでその通りに進むのかは分かりませんが、ケミカルリサイクルはその未来をけん引する上で、消費者も、自治体も、企業も意識してそれぞれにできることを取り組んでもらえたらと思います」

“燃やす”のではなく“戻す”リサイクルへの転換は、循環型経済を持続させる上で理解できるが、その実現にはコスト面を含め企業にも大きな負担がのしかかる。

そこに一歩踏み込んだ企業の取り組みを引き続き追っていきたい。

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